雁屋哲の今日もまた

2009-01-16

「シー・シェパード」について再び

 ちょっと古くなったが、私がへばっていた時期に読売新聞電子版に掲載された記事を以下に転載する。

 「シー・シェパードの船、行方不明者の捜索妨害」鯨研発表

 ニュージーランドの南東約3300キロの南極海で調査捕鯨活動中の目視専門船「第2共新丸」(372トン)から、操機手の白崎玄(はじめ)さん(30)(神奈川県横須賀市)が行方不明になった事故で、調査捕鯨を行う「日本鯨類研究所」(鯨研)は7日、反捕鯨団体「シー・シェパード」の抗議船「スティーブ・アーウィン号」に約370メートルまで接近されるなど、白崎さんの捜索活動を妨害されたと発表した。

 鯨研によると、抗議船は6日夜(日本時間)、無灯火状態で現場海域に現れ、約370メートルまで近づいたところで、無線を通して「行方不明者の捜索に来た」としながらも、「捜索が終わり次第、調査船団の妨害活動を行う」と宣言したという。この距離は安全航行の上で船同士の進路に影響を与えかねない間隔で、鯨研は接近したこと自体が妨害に当たるとしている。

(2009年1月7日12時04分 読売新聞)

 これ以後、この件についての報道に接していないので、この後どうなったのか、どうして「第2共新丸」の操機手が行方不明になったのか、よく分からないが、1月7日に操機手が行方不明になり、その捜索活動を行っている最中に、「シー・シェパード」が370メートルにまで接近したことだけは分かる。

「鯨研」は「接近したこと自体が妨害に当たる」としているが、その通りである。
「シー・シェパード」は「行方不明者の捜索に来た」と言ったと言うが、飛んでもない言い分だ。
 それ以前に、「シー・シェパード」は接近して、ゴムボートを下ろし、そのゴムボートから、調査船に乗り移って、調査船の乗組員に暴行を働いたり、つい最近も、人体に有害な酸を入れた瓶を投げつけたりした。
「シー・シェパード」が近づいてくれば、またそのようなことをされると「共新丸」の乗組員たちが思うのは当然だ。
「共新丸」の人々にとって、操機手の捜索と同時に、「シー・シェパード」の攻撃に備えなければならないと考える。二重苦を迫られたことになる
 結果として、操機手の捜索に全力を注げなくなる。
 海における370メートルという距離は、人間にとっては大きい距離だが、船舶どうしにとっては近い距離である。
しかも、「シー・シェパード」は無灯火状態で接近したという。

 本当に、行方不明になった操機手の捜索に協力に来たのであれば事前に連絡を取るべきだしだし、無灯火で近寄るべきではない。
 何の連絡もなく「シー・シェパード」が無灯火で近寄ってくれば、これは「共新丸」にとって、脅威以外の何物でもない。
 その時の、「共新丸」の乗組員たちの気持ちは察するに余りある。
 行方不明の仲間を捜さなければならない、そこに、無灯火で「シー・シェパード」が接近して来る。
 仲間の捜索と、「シー・シェパード」にたいする防備と、二つの切羽詰まったことが同時にしゅったいしたことになる。
 恐慌状態に陥ってもむりはない。

 海賊をのぞいて、船の乗組員は万国共通の「海の男」意識を共有していると言う。
 それは、海の上が如何に危険な場所であるか、船に乗る人間なら痛感しており、そのような危険な場所では、国籍の如何を問わず、互いに助け合う物だという思いが自然に湧いてくるからである。

「シー・シェパード」のしたことは、「シー・シェパード」が如何にきれい事を言おうとも、これは、明確な捜索の妨害に他ならない。
「シー・シェパード」の乗組員たちは、「海の男」の誇りを汚した。
 というより、人道を踏み外した。
「シー・シェパード」は他の船とその乗組員の安全を脅かした。これは、海賊である。

 いったい日本政府は何をしているのか。
 このような海賊行為によって、日本の科学調査船の乗組員の命が危険にさらされているというのに、何を黙っているのか。

 つい最近、NHKのニュースで、陸上自衛隊の空挺部隊の落下傘降下演習の様子を見た。
 全くあきれた。
 日本の今の状態で、どうして落下傘部隊が必要なのか。
 日本国内で落下傘部隊が活躍するときと言うのは、すでに、敵が日本の国土内に勢力を展開しているときでしかあり得ない。
 現代の戦争では、日本を攻める敵があったとしたら、その敵は、まずミサイルや爆撃などで、日本をまず徹底的に破壊してから国土に進入するだろう。
 そのときに、落下部隊などとばす力は日本には既にないだろうし、落下傘部隊を投入したところで、敵に日本の国土に進入された段階では、もはや手遅れである。

 こんな落下傘部隊が使えるのは、自衛隊幹部が口を滑らせていたが、国外でしかない。国外に空挺部隊を派遣する?
 そんなことが、今の憲法で出来るわけがない。
 憲法で出来ないようなことを、どうして訓練などするのか。
 その訓練自体が憲法違反ではないのか。

 そんな憲法違反の落下傘ごっこをしていないで、「共新丸」をきちんと守れよ。
 水産庁や、自衛隊の艦船を派遣して、「共新丸」に「シー・シェパード」を近づけないようにきちんと見はってくれ。

 オーストラリア政府に「シー・シェパード」がオーストラリアを母港にすることを止めさせろ。オーストラリアが「シー・シェパード」に協力することを止めさせろ。「シー・シェパード」に乗組んでいる、犯罪人の引き渡しを厳格に要求しろ。そんなことが出来なくて、なにが政府だ。なにが国家だ。ふざけるなよ。

 そんなに落下傘が好きなら、「共新丸」の周りに落下傘部隊を降下させてみてくれ。

 日本政府は、「シー・シェパード」の海賊活動をこれ以上許さないように、オーストラリア政府、さらには国際機関にきちんと訴えかけるべきだ。
 このような、日本の科学調査船にたいする海賊行為をこのまま許してはならない。

雁屋 哲

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