雁屋哲の今日もまた

2008-12-17

本屋を大事にしよう

 読者諸姉諸兄にお詫びしなければならない。
 前回「シドニー子育て記」を買ってください、などと書いたが、ある人から、AMAZONに注文したら、納期が二週間から五週間と書かれていた、と言われた。
 そんなに待つのでは買う気が失せる、言うのである。
 調べたら、AMAZONでは売り切れて品切れになっていた。
 急遽AMAZONに配本する手続きを取ったので、今後ご迷惑をおかけすることはないと思う。

 と言っておいて何ですが、本当を言うとAMAZONで買っていただくより、お近くの本屋さんに注文していただく方が嬉しい。
 何故ならば、最近の出版不況と、大型店の出現によって、町の小規模な本屋さんが次々に閉店して言っている事実があるからだ。
 小規模とは限らない。ある程度の規模で、支店まで持っている本屋が閉店する例が少なくない。

 本屋が至るところにあるのは日本の素晴らしい文化の一つだ。日本の本屋で素晴らしいのは、店員が書籍についての知識を豊富に持っていることだ。本屋がなくなるとああ言う人達もいなくなる。それは、重大な損失だ。
 あれは、すごい。
 ある、大型書店で、三十そこそこの若い女性の店員が私の注文聞いて、広い売り場の中を迷わずに、私の欲しい本のある場所に私を連れて行ってくれた時には感激したな。

 本屋を潰さないためにも、読者諸姉諸兄、出来るだけ本は本屋さんで買ってください。
(AMAZONで買うなと言うわけではありませんよ。AMAZONさん、気を悪くしないでね)

 私がシドニーで一番不便をしているのは、本屋が無いことだ。
 私の家は住宅街にあるとは言え、うちから5キロ離れたショッピング・モールに一軒、新聞や雑誌を売る店はあるが、本屋はない。
 何でも良いから本を買おうとなったら、さらに5キロ離れた別のショッピングモールに行かなければならない。
 それも、ろくな品揃えではない。
 当然英語の本ばかりだが、それにしても、品揃えがひどすぎる。
 安っぽいペーパーバックか、装丁だけは立派で重いが、中味はすかすかのアメリカ製のベストセラーか、そんな物ばかりで、英文学の古典はもとより、フランス文学・ドイツ文学・ロシア文学の古典(英訳でいいんだが)など、まず絶対にない。
 シドニーの中心部に行くと、一軒大きな本屋がある。
 そこに行けば、ある程度の品揃えがある。
 しかし、日本の本屋のように、和洋内外の古典はもとより、教養を深めるような本がぎっしり詰まっている、と言うことはない。
 この国の人間は、本なんか読まないのか、と本当に心配になってくる。
(日本の大きな書店の出店はある。そこは主に日本の本を売っている。私達シドニー在住の日本人にとって非常なる救いである)

 オーストラリア人を神保町に連れて行くと、驚く。
 大きなビルがそれごと全部本屋であり、そう言う大きな本屋が幾つも並んでいて、さらに、古本屋が軒を連ねている。
 そんな光景はオーストラリアでは信じられないことだ。
(オーストラリアだけではない。世界中で、こんな光景は神保町だけだ)
 私は神保町に行くたびに、この町は日本の宝だと思う。

 しかし、日本に住んでいればどこにでもある程度の良い品揃えの本屋は簡単に見つかる。
 シドニーは四百万人に近い人口を持つ。
 それでありながら、まともな本屋は数軒だけ。
 そういえば、シドニーにまともな古本屋はあるんだろうか。
 日本人向けの古本屋があるのは知っている。
 これは、シドニーから日本へ帰る人が置いていった本を主に取り扱っている。そう言う本屋だから、漫画や文庫本が主で、固い本は余り置いてない。
 パリにも、ニューヨークにも良い古本屋がある。
 本は知識の宝庫であって、本を読まないと言うことは、先人が積み重ねた叡智の恩恵を全く受けないと言うことだ。
 それは、余りに悲しい。

 もうひとつ、シドニーで困ることは、CDやDVDを売る店が少ないことだ。
 ロックのCDなら、ショッピングモールで売っているが、クラシックやジャズとなると、これはお手上げである。
 日本なら、ちょっとした町にはCD・DVDの品揃えの良い店が幾つかある。
 マーラーでも、ショパンでも、バッド・パウエルでも何でも手に入る。シドニーでは、非常に難しい。
(もっとも、長男に頼んでおくと、どこかからかジャズのCDを手に入れてくれたりするが。)
 LPだって、簡単に手に入る。
 そう言えば、外国人のLP愛好家にとって、日本は天国であり地獄でもあるのだそうだ。
 何故天国かというと、欲しいLPが手に入るから。
 何故地獄かというと、あれもこれも、と欲しいLPが幾らでもあるので、破産してしまうからだそうだ。

 シドニーのオーディオ専門店に行っても、実にちゃちなオーディオ機器しか置いてない。
 私の持っているオーディオ装置なんか、もう年代物で、日本では恥ずかしいような代物だが、二年ほど前サラウンド用の小さなスピーカーを取り付けて貰うために、オーディオ屋を頼んだら、そのオーディオ屋の主人が私の装置を見て、目を剥いて真剣な表情になって「いい勉強をさせて貰った」と言った。
 おい、おい、日本の水準から言ったら私のオーディオ装置なんて、下の下なんだよ。
 あのオーディオ屋のオヤジは、日本へ行ったら、気絶するんじゃないのか。私が欠かさず愛読している、「Stereo Sound」誌を見せてやれば良かったな。

 本と音楽は私にとって、命だ。
 それが、シドニーでは、思うに任せない。
 本も、CDも、日本へ行くたびに買い込んで、また姉に送ってもらって飢えをしのいでいる。

 本屋のある町、これこそ、日本の宝だ。
 本屋を無くしてはいけない。
 本屋を盛り立てて行かなければならない。
 そう言うわけで、どうか私の本は、本屋さんに注文してください。
(小さい出版社なので、とても、あちこちの本屋さんに置いておくことができません。その代わり注文していただければ、二、三日で届きます。)

 とは言え、AMAZONは便利だ。
 特にシドニーにいると、日本の本を売っている本屋なんて一軒しかないし、品揃えも日本のようには行かない。
 で、週刊誌や新聞で、これはという本を見つけると、忘れないうちにすぐにAMAZONで注文する。
 葉山に昔から懇意にしている本屋があって、そこからは何冊もの雑誌を定期購読しているし、欲しい本を姉に頼んで注文して貰ったりしているが、AMAZONは姉の手を患わせずに直接すぐに注文できるところが利点だ。
 しかし、基本的に私は本は本屋で買うと決めている。

 ところで、オーストラリアにはAMAZONも無いんだよ。
 この間欲しい本があって、オーストラリアのAMAZONに頼んだら、実はそれはアメリカのAMAZONで、アメリカからの航空運賃込みの値段を請求された。
 Apple Storeはあるんだから、AMAZONくらい、オーストラリアにあってもいいと思うんだが、オーストラリア人は本を買わないんだなと痛感した。

 あ、とにかく、本屋さんを大事にしましょう。
「シドニー子育て記」を今すぐ本屋さんに注文しましょう。
(って、図々しいというか、厚かましいというか、自分でも宣伝しすぎで下品だと反省しています。反省していると言いながら、取り消さないところが、またひどく下品だね。)
 でも、本屋とレコード屋を大事にしないといけないことは、絶対に確かだ。
 本屋は文化の源だ。本当に本屋を大事にしよう。
 本を買いましょう。(図書館なんかで借りたりするのは、出版社や著者としては本当に困ることなんだよ。この事については、後日また話します。私利私欲で言っていることではないんだからね)

雁屋 哲

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著書紹介

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シドニー子育て記 シュタイナー教育との出会い
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