雁屋哲の今日もまた

2008-04-12

ブランド信仰の下らなさ

〈「子育て記」に「長い前書き その3」を掲載しました〉

 私は銀座が大好きなのだが、その銀座の街の姿が最近つまらなくなった。昔の味わいのある雰囲気が失せてしまった。その原因は、外国、主にイタリア・フランスのブランド物の店が建ち並んでしまったからである。
 実にけばけばしく下品な感じがする。
 文藝春秋の二千八年二月号に、塩野七生さんが「ブランド品にはご注意を」という題で、イタリアの国営放送が流したイタリアのモード界の実情を暴く番組を紹介している。塩野七生さんと言えば、イタリアに長い間住んでいて、イタリアを視点にして西洋文化を捉える様々な作品を書いている。私は、はるか以前に「チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷」を読んで、非常に心を打たれた。きびきびとした文章、深い洞察、人物を描くのに当てる光りの角度の見事さ。並みの作家ではないと思った。いま、塩野七生さんの作品は、各国で翻訳されているという。考えてみれば、西洋文化の基盤はローマ帝国によって築かれたような物だ。今、我々日本人は、アメリカに余りに引きつけられて、イタリアを軽視しているが、イタリアを捉え直すと、西洋文化の根底がはっきり見えてくる。そこの所が、塩野七生さん作品の凄さだろう。
 その、塩野七生さんの紹介したイタリア国営放送の番組によれば、イタリアでは、製品の三十パーセントがイタリア製なら、全部イタリア製と認められるのだという。そこで、イタリアのブランド物の会社は、材料とデザインを中国に持込んで、七十パーセントまで仕上げて、それを輸入し、残りの三十パーセントをイタリアで仕上げて、イタリア製として売っている。問題は残りの三十パーセントもイタリアにいる、不法滞在労働者である中国人にさせていることだ。
 何のことはない、百パーセント中国人によって作られているのに、イタリアのブランド物として、世界中に売られているのだ。
 材料費、デザイン費、工賃、合わせて五十ユーロ(今日の為替相場では、一ユーロ、約百六十円、したがって五十ユーロで、八千円)、くらいと塩野七生さんは推測する。それが、店頭に出ると五百ユーロになる。八万円だ。それが日本に上陸すると、値段は一倍半になるから、十二万円になる。八千円の物が十二万円。
 こんな馬鹿げた物を有り難がる日本人はどうかしているし、そんな馬鹿げたものを売る店が銀座に立ち並んでいることが情けない。
 良く中国製の模造のブランド物が問題になるが、当のイタリアのブランド物の会社が、自分の製品を百パーセント中国人に作らせているのでは、本物と、模造品の違いなどないではないか。
 今、書いたのは、布を使ったブランド物のことである。良くあるでしょう。ブランド名を織り込んだ布で作ったバッグなどが。
 そう言う物が、百パーセント中国人によって作られた物なのだろう。
 塩野七生さんは付け加えている。革を使ったブランド物は、安全らしい。何故なら、イタリアの職人の革のなめしと色づけの技術はおそらく世界一で、それに製造技術を加えれば、中国人は遙かに及ばないからだ、そうだ。
 しかし、若い人が喜んで買ってぶら下げているブランド物は布製品が圧倒的に多い。もともと八千円のものを十二万円で売れば、その儲けは甚だしい。銀座の一等地にビルを建てるのも簡単だ。中国人をこき使い、日本人を騙し、ブランド物の会社が大儲けをする。
 実に馬鹿げた話だ。お嬢さん方、目を覚ましてくださいよ。
 あなたが喜んでぶら下げているブランド物のバッグの正体は何なのか、考え直して貰いたい。
 だいたい、布製のバッグが十万円以上するなんておかしいと思わない方がおかしい。たかが布だよ。ブランドに目くらましを受けているんだ。
 また、日本の十代や二十代の女性がブランド物のバッグをぶら下げていること自体不自然だ。その年で、どうして十万円以上もするバッグを買えるのか。
 私の家の娘たちは、ブランド物と聞いただけで、そばに近寄らない。それは、お金持ちの世界の物で、自分たちの持つ物ではないと心得ているからだ。
 銀座の街が最近下品になったのは、そんな下品なブランド物の店がはびこっているからだ。

 何だか偽物の話をしていると気分が悪くなった。
 口直しに、先だって、シドニーの中華街で食べた、ピピーの焼きそばをご紹介しよう。
 ピピーというのは、日本で言うとアサリと言うところか。
 貝殻の形はアサリより長いし、味もアサリより淡白だが、癖が無く美味しい。これで、スバゲティ・ア・ラ・ボンゴレを作ることもある。

ピピーの焼きそば

 ぴりっと辛いXO醤による味付けだが、ピピーの味を良く引き出していて、非常によい案配である。

取り分けると

 細めの麺を、全体は柔らかいのに、表面は焦げ目をつけてぱりっと仕上げている。それに、ピピーの旨さが絡むと、もう、たまりませんという味。
 ううう、中華街に行きたくなった。

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雁屋 哲

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