雁屋哲の今日もまた

2008-08-05

嬉しい話

 昨日はとても嬉しいことがあった。
 十年以上のつきあいである、シドニーのフランス料理のシェフ、犬飼春信さんが、自分のレストランを開くことになって、その報せが届いた。
 犬飼さんは、シドニーで洒落たブティック・ホテルとして人気のある、Observatory Hotelのレストランのシェフ勤め、このレストランを、シドニー・モーニング・ヘラルド紙のレストラン評論で帽子1つを取るまでに育て上げた。
 シドニーでは、このヘラルドのレストラン評論は権威があって、毎年、ヘラルドがその年のガイドブック、「Good Food Guide」を出す頃になると、レストラン関係者は胃が痛くなると言う。
 3つ帽子が最高点だが、帽子を3つ取る店は、シドニー中で7店しかない。
 帽子が1つ取れただけで大成功で、自力で1つ取ると、シェフとしてもレストランとしても一流の扱いを受ける。
 Observatory Hotelとしても、犬飼さんの貢献でレストランが1つ帽子を取ったことで、ホテル自体の評価も一層高まった。
 だから、ホテルも犬飼さんを離したがらず、最後には後継者を連れてきてくれ、と言うことになった。犬飼さんは日本の後輩を連れてきて試験をさせて、ホテルはその日本人シェフを気にいり、後継者として据え、めでたく犬飼さんは独立できたと言う経緯らしい。
 犬飼さんの料理は、基本はフランス料理だが、それと日本の味わいを融合させた物で、なかなか、独創的で楽しい料理だ。基本がしっかりしているので、新しいことを試みても安心だ。
 シドニーには和久田哲也さんの「Tetsuya’s」という世界のレストランのベストテンに選ばれ続けている、凄い店がある。
 この、テツヤ・レストランは世界中から美味しい物を求める、食いしん坊の人々が集まってきて、百五十人くらい客席のある店が、連日満員で、予約は5ヶ月くらい先まで一杯という状態が何年も続いている。
 犬飼さんも、和久田哲也さんの成功を追って、素晴らしい店を作ってくれることを信じている。
 ホテルの時より、料金を低めに設定して、利用しやすくする、と言う。
 それも、今の時代に、初めて自分の店を開くのには賢明だろう。
 味は、私が太鼓判を押す。
 シドニーに来る機会があったら、是非立ち寄って、食都シドニーの美味を楽しんでいただきたい。
 犬飼さんの、新しい店の名前は「blancharu」。
 フランス語で白いと言う言う意味の「blanche」と自分の名前の「はるのぶ」とを結びつけた名前だという。「白いお皿に自分の思いますが伝えたい」と言う気持ちを表しているのだそうだ。
 場所は、ポッツ・ポイントと言って、シドニーではお洒落な町として知られている。キングス・クロスの近くだが、上品で高級な店の並ぶ町だ。

「blancharu」
 Shop1,21 Elizabeth Bay Road, Elizabeth Bay NSW
 Tel: 61-2-9630-3555

 シドニーにお出での節は是非、どうぞ。
 日本人が外国で活躍しているのを見るのは、嬉しい物だ。

 レストランの話など書いたら、今日は、息苦しいパレスティナ問題について書く気が起こらなくなった。
 何か楽しい話をしたいところだ。

 以前にも書いたと思うが長女がビザ・カードの抽選に当たって、北京オリンピックの観戦ツアーに参加することになった。
 次女を連れて、女の子二人で、今週の木曜日から出発する。
 オリンピックの試合を見るのは一日だけで、万里の長城見学、紫禁城見学などをするようだ。
 長女は北京には以前、私と私の姉と一緒に行ったことがあり、その時の印象が余り良くなかったらしい。
 たしかに、その時は、随分念入りに選んだつもりだったが、行くレストラン、行くレストラン皆外れで、私も「一体中国人はどうなっちゃったんだ。北京でこんなまずい思いをしたことはない」と呆れた。
 既にその時(四年前か)空気はひどく悪く、四十メートル先はかすんでよく見えない。店やホテルの人達の態度も荒々しく、その前に韓国で大変楽しい思いをし、韓国の人々に親切にして貰ったので、余計にその落差を感じて、落胆した覚えがある。
 空気は、その時以上に悪くなっているそうだ。
 最近、アメリカの保険衛生局だったかな、日本の厚生労働省のような機関が、「北京に一週間から二週間いると、大気中の微粒子のせいで肺での酸素取り入れが上手く行かず、結果的に血液が汚れて、どろどろになる。
 その状態で十二時間以上飛行機に乗ると、エコノミー・症候群を引き起こす」と発表した。
 また、アメリカのオリンピック委員会は、参加する選手団600人全員に悪い空気を吸わないためのマスクを配ると決定した。
 選手団は、そのマスクをつけて開会式に出るのかしら。
 そんなことをしたら、中国は面子丸つぶれだと言って怒るだろうな。

 しかも、最近中国で暴動や、テロ爆発が起こっている。
 そんなニュースを読むと、娘たちが北京に行くのが心配になってくる。
 長女はあっけらかんとした物で「そういうもんでしょう。しょうがないわよ」などと、言う。
 ま、私も心配しても仕方がないと思うが、ふと考えてみて、こんなオリンピックは前代未聞だと思った。
 聖火リレーだって、人目につかないように厳重な警戒の下に、ウソのように形だけ行った。そんな形だけの聖火リレーなんて、何の意味があるのだろうと、世界の大部分の人が首をかしげた。オリンピック競技場の周りには地対空ミサイルが配備されているという。

 大気汚染、土壌汚染、食物汚染、政治不安、そしてテロの危険、中国政府の厳しい締め付け。
 中国は、何が何でもオリンピックを成功させることで国威発揚を願っているようだが、これまでの所、逆効果だった。
 中国の抱える問題を、世界中にさらけ出してしまった。
 オリンピックの後どうなるのかな。
 観光客が増えるとは思えないな。

 あ、楽しい話をしたかったのに、また変な話をしてしまった。
 暗い話は厭だな。
 明るく楽しい話をするように心がけよう。

雁屋 哲

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シドニー子育て記 シュタイナー教育との出会い
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