雁屋哲の今日もまた

2008-05-16

日本も危ないのではないか

〈「雁屋哲の食卓」に「リコッタ・チーズとリンゴのパンケーキ」を掲載しました〉

 ミャンマーのサイクロン、中国四川省の大地震、と立て続けに大災厄が襲ってきた
 しかし、サイクロンも、大地震も自然現象だが、それによる人々の被害の大きさは、人為的な部分が大きいように思われる。
 ミャンマー(この国の名前はもともと、ビルマであり、今の軍事政権が、1990年にミャンマーと変えたのである。欧米の報道機関の中にはいまだに、ビルマで通しているところが少なくない。今の軍事政権を認めない、と言う意志の表明でもあるのだろう)の場合、これは軍事政権の極悪非道さの故であることは世界中の人間に知れ渡った。
 48時間前にインドから、ビルマに(私も、今の軍事政権が不愉快だから、ビルマ、と呼ぶことにしよう。ところが、私の使っているかな漢字変換ソフトの、ATOKは、私がビルマと入力する度に、《ビルマ地名変更→ミャンマー》と一々うるさく警告を出しやがるんだ。こらあ!ATOKはミャンマー軍事政権の回し者かあっ!)サイクロン情報を伝えた。普通の政治家なら、国民を災害から守るために最大限の努力をするはずだ。
 ところが、ビルマの軍事政権は、自分たちの周辺の安全を確保することに懸命で、サイクロン情報など流して国民が騒ぐと面倒だから、と言う訳か、一切サイクロンの情報を流さなかった。
 軍事政権は、自分たちに都合の良いように憲法を改正する為の選挙の準備に血道を上げていて、サイクロンの被害者が苦しんでいる最中に、被害者を助けもせずに、憲法承認の国民投票を行った。
 外国から援助のために人を派遣したいと申出ても、物資は受けとっても人間は入れない。
 うっかり、外国人が入って来て、ビルマの国民に、世界の情勢、ビルマ国民の置かれている情勢、など真実を知らされては自分たちの政権が危なくなると考えてのことだと言う。

 軍事政権は、ビルマ国民のことなど何も考えずに、自分たちの体制維持に必死だと言うが、それにしてもひど過ぎはしないか。

 15日現在、ビルマ軍事政権の発表した数字でも、死者・行方不明合わせて7万人、国連の推定では10万人を超すという。
 今になって、軍事政権のお偉方が、被災者を見舞う映像などがビルマのテレビに流されているが、白々しいというか、鉄面皮というか、自分たちのせいで苦しんでいる人達に情けをかけて見せているのだ。
 国民も、本当なら、そんな軍事政権の連中をつるし上げにしなければならないのだが、人間、とことん暴力で虐げられると、その日、その日、生きて行くだけが精一杯になり、抵抗する気力も失せてしまう。自分たちを苦しめている張本人が目の前にいても、その人間を倒す気力も意志もなくなってしまうのだ。

 それにしても、ビルマ軍事政権の権力者たちの顔の醜さには、思わず息を呑んだね。
 顔の造作について云々するのではない、その、内面から出る残虐さ、冷酷さ、無神経さが、分厚いゴムのように顔全体を包んでいる。
 あれは、人間の顔ではない。怪獣ランドに展示すべき顔だ。

 中国もひどい。
 中国は今や日本を抜いて世界第二の経済大国なのだそうだが、その経済大国が、地震の被害者の救出に何故こんなに手間取るのか。
 中国も外国からの援助の人間が入るのを拒否している。ようやく、世界の国の中で初めて日本の救出隊の入国を許可した。
 それも、たった六十人だ。
 中国も、ビルマと同じ、世界の情報が入ってきて、中国の人民に自分たちの真の姿を認識されたら、支配者たちは大いに困る。

 中国には言論の自由が全くない。
 この間も、オリンピック聖火リレーで、チベット問題で批判する外国に対して、中国の主に若者たちが猛烈に反撥して、世界中で中国の国旗を振り回して、聖火リレーを妨害しようとする者だけでなく、チベット問題で抗議をしようとする者達に対しても、激しい攻撃を加えた。
 New York Timesの動画ニュースを見ていたら、可愛らしい顔をした中国の女子学生が、「世界中が中国に嫉妬して居るんだ。チベットは大昔から中国の一部だ」と力説していた。
 その女子学生が、世界の常識から完全に外れたことを言うのも無理はない。中国では、政府に都合の良い報道以外許されない。インターネットでさえ、政府に都合の悪いページにはアクセスできないというから、呆れる。
 中国の若い人達の愛国主義は政府によって植え付けられ、煽り立てられた物である。
 皇国精神以外一切の思想を禁じられていた日本が、1945年の敗戦をきっかけに、悪い夢から覚めたような日が、中国にも来ることを望む。

 4月28日の朝日新聞の朝刊には、「五輪の囚人」と呼ばれる男性の記事が載っていた。
 男性は弁護士で、「北京五輪に巨費を投ずるより人権状況を改善して欲しい」という署名活動をしただけで「国家政権転覆扇動」の罪で懲役六年の判決を言い渡されたが、逮捕後の拘置所ではベッドに手足を縛り付けられたまま食事や排泄をしいられたと言うから、恐ろしい。
 他にも、少しで、政府に批判的だと思われると、「公安」に拉致されたり、誰とも分からぬ暴漢に暴行されて、それを警察に訴えても相手にしてくれない、などと言うことが幾つも起こっていることが報道されている。
 中国では、政府に都合の悪いことを言う人間は、でっち上げの理由で投獄されたり、襲われたりする。

 5月12日のNHKスペシャルで、ロシアのプーチン政権が、テレビ局を全て押さえ、新聞雑誌も、支配下に置き、言論を完全に押さえ込んでいる実態が報道された。
 プーチン政権になって、数十人のジャーナリストが殺されたり、不審な死を遂げている。
 ただ一つ、プーチンを批判して頑張っている新聞「ノーバヤ・ガゼータ」で、果敢にプーチン批判をしてきた女性記者、アンナ・ポリストコフスカヤは2006年10月に、自分のアパートのエレベーターの中で射殺された。死体の傍に、拳銃が残されていた。それは、典型的な処刑射殺の儀式のだそうだ。
 他の人間に、アンナ・ポリストコフスカヤのように殺されたくなかったら、余計なことを言うなと言う訳だ。
 私はアンナ・ポリストコフスカヤの書いた本を数冊読んだ。ここまでプーチンを批判したらただではすむまいと心配していたが、やはり殺された。プーチンは恐ろしい人間である。

 今やロシアは、テレビも新聞も、プーチンを褒め称える事しかしていない。

 これを見ていて、北朝鮮と何も変わらない、と思った。
 北朝鮮も、人民が飢え死にするというのに、金正日はフランスの最高のぶどう酒をがぶがぶ飲んで得意になっている。
 少しでも、金正日を批判した者は、裁判無しの銃殺だ。
 食べる物はろくにないし、少しでも批判したら殺される。
 朝鮮の人民は、反抗する気力も全て失ってしまっている。

 ビルマ、中国、ロシア、この三国は国民が政府によって暴力的に支配され、世界の真実を知ることも許されず、一部の金満階級を除いて、一般の人々は苦しい生活を強いられている。

 人間、生まれるところは選べない。
 あんな国に生まれなくて良かったなどと、脳天気なことを考えていて、日本の現実に思い至って、ぞっとした。
 日本も、個人情報保護法案などで、国会議員や権力者、有力者、大企業の経営者などに対する批判を封じこめようとしている。
 その他、青少年を守ると言う口実で、インターネットなどの取締りも行われようとしている。
 このままでは、日本でも、ビルマ、中国、北朝鮮、ロシア、と同じように、人々は「見ざる、言わざる、聞かざる」を強いられて、権力者のいいように支配される状況に追いやられる。
 後期高齢者保険法や、障害者自立法、などの美名の元に実際は、高齢者と障害者を切捨てていく法律を作った小泉がいまだに人気があると言う、この国だ。
 私の心配するような事態に落ち込んでも不思議はない。

 こんな不愉快な話をして申し訳ない事で御座います。
「雁屋哲の食卓」にとても美味しい「リコッタ・チーズとリンゴのパンケーキ」の作り方を載せたので、それを見て口直しをしてください。

雁屋 哲

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シドニー子育て記 シュタイナー教育との出会い
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