雁屋哲の今日もまた

2008-04-26

「美味しんぼ日記」の仲間入り

 私は大抵のことには驚く人間だが、これにもやはり驚いた。
 何に驚いたかというとですね、この「美味しんぼ日記」を始めてしばらく経ってから弟から電話が掛かってきた。「あんちゃん、Googleで『美味しんぼ日記』を検索してみなよ」という。言われたとおり検索して見て仰天した。
 なんと「美味しんぼ日記」というページが幾つもあるではないか。
 同じ人のページが重複しているが、Googleで十頁にもなるほど、「美味しんぼ日記」がある。
「美味しんぼ」という言葉は私の作った言葉であり、私個人に属する物と考えていたので、他の人が自分のページに「美味しんぼ」という言葉を使うとは、夢にも考えなかった。
 それで、驚いたのである。
 驚くと同時に思いましたね。「しまった。いまさら『美味しんぼ日記』なんて始めたのは間違いだった。ページの名前を変えなければなるまい」
 実は、最初このページは「雁屋哲書館」としようと、考えていたのだが、ある人から、「折角、『美味しんぼの雁屋哲』として知られているのだから、どこかに『美味しんぼ』を使った方が良い」と忠告されて、なるほど、それも確かだし、「書館」という言葉は固すぎるかな、と考えて、予定を変更して「美味しんぼ日記」とした経過がある。
 しかし、現実に「美味しんぼ日記」というページが既にこれだけあるところに、今さら、のこのこ、しゃしゃり出てきても、もう遅すぎると悲観した。
 とは言え、ここまで動いてしまった物をいまさら名前を変える訳には行かない。今ある「美味しんぼ日記」のページの仲間入りをさせて貰うしかない。
 あ、勘違いしないでくださいね。「美味しんぼ日記」のページを開いている人達に、「美味しんぼ」は私のものだから使うな、なんて文句を言っているわけではありません。
 その逆です。

 最初、あの漫画を始めるときに、題名をどうするかで、私と編集部の間に色々あったんですよ。
 私は面倒くさくなって、編集部で勝手に題名をつけてくれ、と言ったら、編集部の出してきた題名が凄かった。「味で勝負」「味キング」「食い倒れ王将」「旨いもん一直線」「食いまくり人生」など、などという題名が出て来た。流石に私も、これは駄目だ、と思って、自分で考えることにした。
 そこで、「美味しいものを食べたがる食いしん坊」という意味で「美味しん坊」とした。すると、当時の編集者の一人が、「それより、美味しんぼ」のほうが、いいんじゃないですか、と言った。あ、それ、それ、と私はすぐに乗った。

 最初は「美味しんぼ」なんておかしな前は読者に反発を買うのではないかと思っていたのだが、意外にすんなり受け入れられた。
 私は、「美味しんぼ」を始めて一、二年経って「自由国民社」から、「究極のメニューの『究極』」で「新語大賞」をもらった。授賞式の席上で、「『究極』は昔からある言葉で新語ではない。新語大賞をくれるなら『美味しんぼ』でいただきたかった」と、図々しくも、賞を貰って置きながら文句を言った。すると、主催者側の責任者があわてて、「昔からある言葉でも長い間死語になっていた物を甦らせたら新語と認める」と言った。
 その時も、「美味しんぼ」について、皆さん新しい言葉とか、違和感のある言葉とか、思わないのか、といぶかしく思った。
 すると、その後、あちこちで「美味しんぼ」という看板を掲げた料理屋を見かけるようになった。
 他の人からも、「美味しんぼ」という料理屋を見たが、あれはお前が経営しているのか、などと思いもよらぬことを聞かれることが何度か有った。
 それで、私は、「へええ、みんな『美味しんぼ』と言う言葉に違和感を持つどころか、昔からある普通名詞のように思っているんだろうか」と思った。

 そして、今回の、「美味しんぼ日記」である。
 何人もの方が「美味しんぼ」という言葉を使ってくださったと言うことは、「美味しんぼ」が完全に一般名詞化した、あるいはそれだけ親しみを抱いていただいている、と言うことで、その言葉の産みの親の私としては非常に嬉しい。
 自分の書いた漫画の題名が、これだけ、世間様に受け入れられているなんて、これは物書き冥利に尽きるという物。
 実に、光栄で、有り難いことである。
 中には、嫌らしい人間が居て、「美味しんぼ」が始まってしばらくして、ある人から「『美味しんぼ』が、色々な分野で商標登録されていますよ」と聞かされて、呆れたことがある。
 なんでも、商標登録は誰でも早い者勝ちで出来るのだそうで、これから先「美味しんぼ」を使った商品を誰かが売り出そうと思ったら、商標権を持った人間にお金を払わなければならないのだという。
 それは、当の私でも、「美味しんぼ」を使ったら商標権をその人間に払わなければならないのだという。もっとも、裁判に訴えれば著作権者として、その商標権は取り戻すことが出来るとも言われたが、「美味しんぼ」を使って商売などする気もないし、裁判なんて面倒くさいからそのままにしてあるが、金儲けをしようという魂胆で、人の漫画の題名を商標登録する奴の根性ってのは最低だね。

「美味しんぼ日記」のページを作っておられる方は、そんな卑しい人間ではない。単に「美味しんぼ」という言葉が好きだから使って下さったのだろう。
 そこまで「美味しんぼ」という言葉を認めて貰って、私は本当に嬉しい。
 願わくは、今さら、のこのこと、「美味しんぼ日記」などと言う看板を掲げて出て来た私ですが、どうか「美味しんぼ日記」の仲間に入れていただきたい。
 今さら、遅いぞ、出て行け、などど邪険にしないで下さいね。
 私も、私の「美味しんぼ日記」を面白くするために頑張りますので、皆さんも一緒に頑張りましょう。
 考えてみれば、それぞれ人によって異なる「美味しんぼ日記」があるなんて、面白いよね。
 最初は驚いたが、今は、とても幸せな気持ちがする。
 できたら、それぞれの「美味しんぼ日記」の主催者の皆さんと懇親会を持ちたいな。
「美味しんぼ日記」のページをお持ちの皆さんに心からの連帯の挨拶をお送りします。
「美味しんぼ」どうしで大いに楽しみましょう。

 と言うわけで、今回は「美味しんぼ日記」のページを作っておられる方たちに、仲間入りさせていただくご挨拶として、私が、昼に食べている、うどん、そばを幾つかご紹介しよう。何故、うどんやそばかですって?
 だって仲良くなるのには、気楽な物を食べた方がいいじゃない。

 まずは、焼いた油揚げ、焼いたネギ、ちくわの薄切りを載せたうどん。出汁は、アジの焼き干し、昆布、鰹節、と言う最強の取り合わせ。美味しいのはいいんだが、美味しすぎてこの汁を残すのが辛い。全部飲むと塩分超過だと分かって居るんだが、

うどん1 うどん2

 つづいて、甘辛く煮た油揚げ、ちくわ、自家栽培の紫蘇の細切り、自家製の梅漬け、エノキを酒と醤油で煮た物、すりごまを載せたうどん。出汁は、例の通り。梅と紫蘇がさっぱりした味を産み出して、つるつると、食べきってしまう。

うどん3 うどん4

 次は、我が家自慢のわかめのメカブのとろとろそば。
 横須賀の知人に貰うワカメのメカブをたたいてトロにしたのものと、焼いた油揚げを載せたそば。全部をかき混ぜて、一味唐辛子をかけて食べる。潮の香りの高いわかめのメカブのとろとろした感触、焼いた油揚げのぱりっとした食感、力強いそばの味、全部合わさって、体中の血液がきれいになる感じ。これは我が家の定番。以前、シドニーに遊びに来た、今は小学館の専務に昇進している人間に食べさせたら、いたく気にって、それから何度も、あのそばをもう一度食べたいといわれる。他にも美味しい物を沢山食べさせたのに。

そば1 そば2

 そして、これが我が家名物の牛肉煮込みうどん。牛肉の薄切りを酒、醤油、ショウガで煮込んだ物を、エノキをやはり酒、醤油で煮た物と一緒に載せて、ネギの小口切りを散らす。
 だしは、いつもの最強の出汁、それに牛肉の旨みが加わるから、もう、これは最高。麺は勿論有機小麦で作った麺

うどん5 うどん6

 そんな訳ですので、「美味しんぼ日記」を書いておられる皆さん、よろしく仲間に入れてくださいね。

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雁屋 哲

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頭痛、肩コリ、心のコリに美味しんぼ
シドニー子育て記 シュタイナー教育との出会い
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美味しんぼア・ラ・カルト
My First BIG 美味しんぼ予告
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