雁屋哲の今日もまた

2010-01-10

門松は冥土の旅の一里塚

 今年は、楽しく過ごしたいねえ

 私の家のラブラドールの「ポチ」は現在15歳、2月に16歳になる。

 犬としては大変な老齢なんだそうで、獣医の次女は、ポチのために自分の人生を使っていると言っても言いすぎではない。

 次女は高校卒業試験の成績が極めて優秀だっから、普通の医学部に文句なく進めたのに、可愛いポチの面倒を見るために獣医学科に進んだのだ。最近は流石にポチにも衰えが進んで、両脚を広げてまるで魚の干物のように平べったくなって床に寝ている。それは、いいのだが、今度はその姿勢から立ち上がれないのだ。

 日本の介護を専門にしている看護士さんの話によると、介護を求める人達は何度も看護士さんを呼び出す呼び鈴を押すが、その殆どが、老人たちの思い違いによる物なのだそうだ。しかし、十回に一回は切実な物があるのだそうで、だから、介護の呼び鈴を無視する訳には行かないのだという。

 私の家のポチも、昔と違って、大声ではなく、まるで咳き込むような声で、バウバウとそっぽを向いて吠える。何でもないんだろうと思っても、十回に一度は本当に立ち上がって用を足したいと言うことがあるから、無視できない。

 本当に犬は可愛いんだが、ここまで衰えてきて、老犬介護の段階に入ると、家族中が大変だ。
 家族そろって食事に出るなんてことは出来なくなった。
 家族が家にいない間に、ポチが悲しげに泣き叫び続けると隣家からの報告もあった。

 で、こうやって、愛する犬が衰えていくのを見ていると、思わずその姿に自分自身を重ねてしまう。
 私は、こんなことにならないうちに、すっきり死んで行きたい。
 そう、思うのだ。

 私の尊敬する作家、吉村昭氏は、がんの末期に、「もう、いい」と言って、点滴などのチューブを自分で引きちぎったそうである。
 奥様の、津村節子氏がその時のことを、吉村昭氏の遺作短編集「死に顔」の後書に次のように書いておられる、

「夜になって、かれはいきなり点滴の管のつなぎ目をはずした。私は仰天して近くに住む娘と、二十四時間対応のクリニックに連絡し、駆けつけて来た娘は管を何とかつないだが、今度は首の下の皮膚に埋め込んであるカテーテルボートの針を引きぬいてしまったのである。
 私には聞き取れなかったが、もう死ぬ、と言ったという。
 辯護士が来た時、このままにして下さいと、私は言い、娘は泣きながら、お母さんもういいよね、と言った。」

 私は昔から吉村昭氏の愛読者だったし、小説も見事だが、氏の随筆を私は深く愛した。
 吉村氏の随筆は、親・兄弟・家族・子供たち・妻に対する愛情が過度に濃厚ではなく、しかし、たっぷりと描かれていて、氏の随筆を読む度に、氏の家族の姿にしみじみと感動した。これが本当の家族なんだよなと思った。
 そして、最後の死ぬ時の作法を見て、私は自分も死ぬ時には吉村昭氏の作法に従って死のうと納得した。

 どうも、新年早々暗い話で申し訳ないが、「門松は冥土の旅の一里塚、目出度くもあり、目出度くもなし」と一休さんが歌ったそうな。

 正直に言って、私は今とても幸せなので、この瞬間に、ボッと死ねたら最高だなと思っているんです。

 でも、がんにかかって長患いするなんていやだな。

 ま、そんなとこには関係なく、今夜も、美味しい酒をたっぷり飲んで、アメリカのテレビ番組「24」を家族で見ました。

 余り、インテリジェンスの高い家族ではありませんね。

 明日の夜も「24」の続きを見るんです。

 どうしようもない、低能家族ですね。

雁屋 哲

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