ワラッタの花
今、飛ぶ鳥を落とす勢いの漫画家、「さ」さんが、去年、シドニーにご家族で遊びに来られたとき、シドニーでは他にお連れするところもないので、ブルー・マウンテンにご案内した。
その際に、ブルー・マウンテンのナースリー(nursery、オーストラリアはイギリスの伝統を受け継いで、庭造りが趣味というか、大抵の家が庭造りに精を出す。そのための、草花の苗を売っている大規模な店があちこちにあって、それをnurseryという。英和辞典を引くと、保育所とか保育園という意味で出て来るが、シドニーでナースリーというと、草花の苗、種、などを売る店だ)でワラッタ(Waratah、オーストラリアの原住民の言葉である)の苗を買った。
ワラッタはニュー・サウス・ウェールズ州の州の花であって、日本で言えば牡丹に近い美しい派手な花である。
私は、ランドクルーザーで、ブルーマウンテンあたりの山を走るのが大好きで、その際に、運が良いと、このワラッタの花が自生している所に出会うことが出来る。
このときの興奮と言ったら、言葉に尽くせない物がある。
すさまじい荒れ地のでこぼこの山道を時速5キロメートルほどの低速で用心深く走っているその目の前に、真っ赤な色のワラッタ が突然現れたときのあの驚きと喜び。実に、例えようがない。
敢えて言うなら、闇夜で花火を見たときのような感激だ。
本来なら、ワラッタは、そのように山道を分け入って走った際に出会うときの興奮として取っておくべきなのだが、去年、「さ」さん御一家をブルー・マウンテンにお連れしたときに、そこのナースリーでワラッタの苗を買ってしまったのだ。
ワラッタの花が咲くのは10月過ぎである。
今年は、9月5日に日本へ行かなければならない。
残念ながら、ワラッタの花は見のがすかと思ったら、私の一念が通じたのか、10日ほど前に、開花した。
連れ合いと娘に、開花した、と言う知らせを聞いてカメラを持って、裏庭に飛び出したら、そこにあったのは、淡い色のワラッタだった。
私が求めていた深紅のワラッタではない。私は、大いに落胆した。
「買うときに、店の人間に、深紅の花かと確かめたのに、裏切られた」と逆上した。
すると、娘たちは、「お父さん、あわてないで、ワラッタは日光を沢山浴びると色が出るそうよ。もう少し待って」という。
待てと言っても、時間は9月5日までしかない。花の気持ちは分からない、と、ぷんぷん怒ったのだが、ああ、なんと一昨日あたりから、花の色に赤味が付いてきたと言う。
まさかと思って見に行ったら、ああ、素晴らしい!
まだ、完璧ではないが、このまま行けば、絶対深紅になる。
このワラッタは、私が「こんなワラッタ、引抜いて捨ててしまえ」と喚いたのを聞いていたに違いない。
そこで、私が、日本へ行く前に大急ぎで赤くなったのだ。
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咲いたばかりで、淡い色の時。
そして、今日の午後のワラッタ。
明日から、三ヶ月日本で過ごすが、楽な日々ではない。
仕事が輻輳しているんだよ。この歳で、働くために日本へ行くのだ。
そんな辛いときには、このワラッタの花が私を元気づけてくれるだろう。