月下美人
日本は、桜が満開で、皆様方には春爛漫の美しさを満喫して居られるようですが、こちらはいよいよ秋が深まってきて、自分の部屋にいても、長袖を着なければならなくなった。今年の夏、オーストラリアは冷夏で、真夏であるはずの二月が雨ばかり降ってろくなことがなかった。
おかげで、毎年夏になるとオーストラリア中山火事が発生して大変なのだが、今年は山火事騒ぎが無くてすんだ。その代わり、オーストラリアの夏を楽しみに来た観光客はひどい目に遭っただろうな。
オーストラリアなんて、雨が降ったら、何も面白くないところですからね。
私は、連れ合いに「張り子の哲」とからかわれるくらいに、雨に弱い。雨が降ると外に出るのが厭になる。会社勤めをしているときも、雨の降る日は「雨の降る日まで出社するほどの給料は貰っちゃいねえ」と言って休んだ。私は、雨の日の電車の中の、あの、気持ちの悪いじっとりとした湿った匂いが耐え難く嫌いで、しかも、みんな雨具を持っているでしょう。あの雨具がこちらの身体に触れたりすると、死にたくなるほどいやだった。
ある時、雨が降るので会社を休んでいたら、普段出かけているはずの父がいて、「今日は会社は休みの日か」と尋ねるから、「今日は雨が降っているから休む」と言ったら、父は激怒した。父は、会社で努力して出世するのがまともな生き方だと思っている世代の人間だったから仕方がない。
そんなつまらない、シドニーの夏だったが、花は正直なもので、真夏の二月十七日に、「月下美人」の花が咲いた。
月下美人は夜に開き、その夜の内にしぼんでしまう。じつにあでやかで、香りも濃艶なのだが、はかない。花は昆虫を引き寄せるためのものだと思うのだが、夜だけしか咲かない花なんて、どう言う意味があるのだろうか。そう言えば、夜になると活動する昆虫は結構いましたね。その夜遊び好きの昆虫を引き寄せるために、かくも、あでやかに装っているのだろうか。
お見せしましょう。
きれいでしょう。でも、こんなきれいな花を、私の家では食べてしまうんです。野蛮かしら。
花を湯がいて、エリンギと一緒に酢の物にします。
赤っぽいのは一番外側の花びらです。
味は、甘くて、歯ごたえはしゃきしゃき。それに、ほら、こんな風にねっとりねばねばするんです。
不思議な味わいです。月下美人だけあって、艶なる味わいです。
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