雁屋哲の今日もまた

2020-03-31

私達は豚だ

安倍晋三氏が首相になってから、日本の社会は恐ろしいことになった。

首相率先して、犯罪を次々に犯す。

自民党の政治家は、そもそも、この安倍晋三氏の祖父岸信介に始まって、吐き気がするほど悪辣な人間が多かったが、明治以後の政治家の中で、この安倍晋三氏ほど全ての面で恥知らずの所業を重ねて来た政治家はいない。

この悪辣さで安倍晋三氏に並ぶのは、安倍晋三氏の大叔父・佐藤栄作だけだ。

安倍晋三氏が2013年に第二次安倍晋三氏内閣を樹立して以来7年を超えるが、ますますその悪辣さを増している。

どうして、安倍晋三氏はしたい放題を続けられるのか

それは、私達大衆が豚だからではないのか。

私達豚は、安倍晋三氏の下である程度の安定した生活を営めているのだろう。それは、安倍晋三氏の功績ではない。我々日本人の勤勉な性格によるものだ。

しかし、我々はあまりに豚なので、この今の安定(いや、実は大変に不安定な擬似的な安定)は安倍晋三氏に与えられたものと勘違いして、安倍晋三氏にしがみついていれば安全だと思い込んでいるから、安倍晋三氏の悪辣さなど今日の生活に差し障ることがない限り、どうでもいいのだ。

 

以前に、「男組」についてこのブログに書いたとき、敵役の神竜剛次のセリフを紹介した。

https://kariyatetsu.com/blog/2991.php

 

神竜剛次は「大衆は豚だ」と言う。

「大衆は豚だ。奴らは人より多くエサを貰おうと、人を押しのけたりするが、真理や理想のために戦ったりしない。

豚を放っておくと社会全体を豚小屋のように汚らしくしてしまう。この社会はすでによごされてしまった。高貴な人間のための理想社会に建て直す必要がある。」

と神竜剛次は言う。

「男組」は1974年の1月から連載が始まった。

今、大衆は豚だなどと言ったら、いわゆる  市民派・正義派・良心派という人間たちが騒ぎ立てるだろう。

1974年当時は、そのような危険なセリフも、建前と形骸にとらわれて「大衆侮蔑」などときれい事の批判する人間ばかりではなかったのだ。

大衆とはどんな物なのか、きちんと考えれば、「大衆は豚だ」という言葉が他者ではなく、自分自身に向けられたものだと言うことがわかるはずだからだ。

 

その「大衆は豚」であることを示すのに、大変に良い漫画がある。

1999年に亡くなってしまった愛媛県出身の漫画家「谷岡ヤスジ」は、私が尊敬し愛してやまないマンガ家である。

谷岡ヤスジの漫画はギャグである。

素晴らしいマンガ家なのだが、その作品の80パーセント以上が、セックスを笑いの種にするものなので、二人の娘を持つ私としては、家庭に持ち込むのに、いちいちその内容を確かめなければならないところが厄介だった。

それは、別にして、そのギャグの素晴らしさ、凄さは、圧倒的で、私は年に数回谷岡ヤスジの作品集を読み返すのだが、その度にそのギャグに引回されて涙を流す。何度繰り返して読んでも、腹の底から笑って涙が出て来るギャグ漫画は他にない。

時代が重なっているので、よく谷岡ヤスジは赤塚不二夫と並べて論じられることが多いが、その笑いの質が赤塚不二夫とはまるで違う。

赤塚不二夫は計算尽くで作った笑いである。

谷岡ヤスジの笑いは体の底から独りでに出てくる笑いである。計算は一切無い。

その一例を、見て頂こう。

このマンガは、私の持っている谷岡ヤスジのマンガ集からコピーしたものである。

著作権に引っかかるかも知れないが、これはマンガの全部ではないので、引用として認めて頂くように著作権者にお願いしたい。

ただ、このマンガは谷岡ヤスジの他のマンガのように、震えが走るほどおかしい、と言うのではなく、しみじみと考え込まされるマンガである。

豚1

 

 

 

 

 

豚2

 

 

 

 

 

豚3

 

 

 

 

 

豚4

 

 

 

 

 

豚5

 

 

 

 

 

豚6

 

 

 

 

 

豚7

 

 

 

 

 

(絵をクリックすると大きくなります)

私はこのマンガを、読み返すたびに心に痛みを感じる。

この豚たちは私たちそのものではないか。豚たちはしまいには人間に食われると分かっていて、その日に何か食べられればそれで良いと思っている。

「食っちゃ、寝」「食っちゃ、寝」して、満足している。

一匹目覚めた豚がいて、その目覚めた豚が「おまえたち、しまいに食われるの知ってるのか」とたずねると、その他大勢の豚たちは「あ、それ言っちゃダメ」「それを言われちゃ、もともこもない」「ま、なんだな、先のこた考えんこったな」と言うだけである。

豚たちはこのままでは破滅すると分かっていても、その日その日の豚の生活を安穏に送っているのである。

2020年現在の私達の姿そのままではないか。

無気力と諦め。惰弱にして劣弱な精神。知的な退廃。

目覚めた豚が逃げ出すと、他の豚たちは先回りしていて捕まえる。

「お前らも一緒に逃げよう、チャンスじゃないか」と目覚めた豚がさそっても、他の豚たちは、「何をして食って行くんだ」と居直る。

それに対して、目覚めた豚は「畑に芋や、ナスがあるではないか」と言う。

この目覚めた豚の誘いの言葉は、「生き方を変えよう」ということだ。しかし、

惰弱な生活にマヒしてしまっている豚たちは、「わしら、ドロボーしてまで生きとーないんよね」と言って目覚めた豚を元の豚農場に連れ戻して、柱の天辺に縛り付ける。

この目覚めた豚の姿は、十字架にかけられたキリストを思い浮かべさせる、と言ったら言い過ぎだろうか。

ここのところが、私にはズキリと応える。

権力に逆らうものは、自分たちで取り押さえ、権力に引渡す。

自警団の精神構造である。

キリストを十字架にかけた人達も、権威のために働く自警団だったと言える。

 

2004年に「イラク日本人人質事件」が起こった。

日本人3人が武装勢力によって誘拐され、誘拐したグループは日本政府に、人質と引き替えにイラクのサマーワに駐留している自衛隊の撤退を要求した。

小泉純一郎首相は自衛隊を撤退させる意思がないことを明らかにし、同時に人質の救出に全力を挙げる指示を出した。

色々曲折があったが、4月15日日本人三名は解放された。

私が言いたいのは、この人質が成田に帰ってきたときのことである。

空港の旅客出口には、大勢の人間が待ち構えていた。

人質3人が出て来ると、その人間達は「自己責任」と大きく印刷された紙を自分たちの顔の前に広げた。

「自分たちで勝手にイラクに行って、武装勢力につかまって、人質にされて、自衛隊の撤退を武装勢力に要求されて、政府に迷惑をかけた。解放されたのも政府の努力があったからだ。自分たちで勝手に行って人質になったんだから政府の助けを借りずに自分で帰って来い」

要するに、「この人質になった人達はお上(おかみ)に迷惑をかけた不届きものである。こんな、不届きものには国が援助をする必要がない」、と言うのである。

「お上の意に従わないものは、他国の武装勢力に殺されるなら、殺されれば良い。」と言うのである。

この「自己責任」をイラクから帰ってきた三人にぶつけて、脅迫することもそこに集まって「自己責任」という文句を書いた紙を掲げた人間達の目的だろうが、もっと大きな目的は、国の方針に従わないとこのように痛めつけられる、と言うことを社会全体に思い知らせることなのだ。

この、3人の人質が空港で受けた脅迫は社会全体を対象にして行われたものなのだ。

「自己責任」と書かれた紙を顔の前に広げて、卑怯にも自分の顔を隠して3人のジャーナリストを脅迫した人間たち。

彼らは、その統一された振る舞いから、政府に逆らう人達を攻撃して、人々が豚の安穏な生活に引きこもるように仕向ける意図を持った団体・組織の人間であることが見て取れる。

彼らは、政府のために働く、自警団なのだ。

目覚めた豚を、柱の天辺に縛り付ける豚の自警団と同じだ。

このマンガの結末は悲惨だ。

目覚めた豚は、柱に縛り付けられて、食事も与えられないから痩せ細っている。

目覚めた豚を売った一般大衆としての豚たちは、飼い主から目覚めた豚を捕まえたごほーび、として、1日10食べさせさてもらえるようになり、まるまると太って、飼い主たちが上機嫌で屠場に連れて行く。

目覚めた豚は、餓死する。

飼い主に忠誠を尽くした一般大衆としての豚は飼い主に食べられる。

このマンガには救いがない。

飼い主に従順にえさを食べて太り、飼い主に食べてもらうか、飼い主の手から逃れようとして、仲間につかまって、飼い主の懲罰を受けて飢え死にをするか、この二つの道しか、豚には残されていない。

 

さあ、現実の私達はどうだろうか。

私達豚である大衆は、我々の飼い主、安倍晋三氏に食われるのを待つだけなのか。

次回は、安倍晋三が如何にして日本をドブ泥の沼に変えたか、検証する。

 

 

雁屋 哲

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