雁屋哲の今日もまた

2009-04-10

食と環境、取材は続く

 今、東京の築地の市場の豊洲への移転が大きな問題になっている。

 私は、現在、日本全県味巡りの和歌山県篇に取り組んでいるが、次は、「食と環境の問題」を「美味しんぼ」で取り上げたいと考えて、今回日本へ来て以来取材を続けている。

 東京の築地市場は、東京都民だけでなく、周辺の県の人間も巻き込む大市場である。従って、その影響は大きい。環境と食の問題を考えるときに無視できない。

 問題は、移転先の豊洲が、元東京ガスの事業跡地で、ガスを作った際に出た危険な物質が高い水準で検出されていることだ。

 移転反対派の人は、そんな土地はとても危険で食品を扱う環境に無いと言い、東京都は専門家の意見を聞いて土壌の安全処理を行うから、食品に危険性はないという。

 今日は、築地市場の、豊洲移転反対派の方たちにご意見を伺って、その後に、豊洲の新しい市場の土地の土壌の安全検査を担当された都庁の課長さんに、豊洲の土壌問題について伺った。
 数日前には、築地の中卸組合の理事長さんの話も伺った。
 移転賛成・反対、それぞれの意見が百八十度違う。
 青森の六ヶ所村の、核燃料再処理工場の取材の時と、その構造が実に似ているのに、驚いた。
 行政は、再処理工場の推進に多額の金をつぎ込んで、安全を主張しているのに、周辺の住民は不安を抱いている。
 東京都も、市場を築地から豊洲に移すのに安全のために大変な予算と努力をつぎ込んでいるのに、肝心の、市場の卸業者たちの過半数が移転に反対している。
 行政と住民の思いの乖離である。

 いずれの場合にも、行政は、新しい事業を推進したい。
 しかし、その事業は、危険をもたらすのではないかと住民や従業者に不安を抱かせる。
 住民や、従業者は、したがって、行政のすることに反対する。
 住民や、従業者は自分たちの命がかかっているから悲愴である。
 行政は、新しい電力や流通市場の建設に、図面を引いて、事業としても大きく育つし、それが未来の日本に役に立つという、上からの視線で物事を見ている。
 この両者の態度は、百八十度異なっている。
 こういうことが、環境がらみで、日本中で起こっている。
 考えれば考えるほど、難しくて、頭が分裂する。
 私自身、考えがまとまらない。
 明日は、沖縄で、また環境問題の取材だ。

 きつい日々が続く。
 どうして、こんな歳になってこんな辛いことをしなければならないのか、自分自身を呪いたくなるが、どうしてもしなければ自分の気が済まないのだ。
 救いは、明日、沖縄の「あ」と会えることだ。
 明日の夜の食事は、「あ」に責任を負わせた。
「あ」よ、まずかったら殺すぞ。
 泡盛飲んで騒ごうな。

雁屋 哲

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