雁屋哲の今日もまた

2009-02-01

入れ墨につられて

 入れ墨のことを書いたら、読者の方から、メールを頂戴しました。
 入れ墨によるC型肝炎の蔓延がひどいと言うことでした。

 ああ、私は愚かでしたね。
 入れ墨の件ですが、私はやくざの話をそのまま聞いていていて、医学的な考証をしませんでした。
 入れ墨の色素が、そんなに長い間、肝臓に悪影響を及ぼし続けるというのはおかしな話だとずっと思っていたのですよ。
 そうか、肝炎だったんだ。
 B型は進行が早いが、C型は遅い。
 あの、全身クリカラモンモンのやくざは、入れ墨の色素ではなく、肝炎のビールスに感染して、肝臓を壊していたんだ。
 ううむ、実は数年前にスペインに行ったときに、バルセロナの繁華街で、入れ墨屋が繁盛しているのを見て驚いたんです。
 店の待合室に、入れ墨の順番待ちの若い男女が、無数に集まっていて、タトゥーの模様見本の本を熱心に回覧していたんです。
 みんな、見た目に美しい男女でした。
 特に女性の場合、どうしてこんな美しい女性が肌を汚すようなことをするのか、他人事だから、口出しは無用と分かっていても、一人一人店の外に連れ出して説得したい気持ちにかられました。
 しかし、その時一緒にいた長男が「父ちゃん、関係しない方がいいよ。考え方と感覚が、父ちゃんとまるで違うんだ。父ちゃんとは時代が違ってるんだよ」と意見してくれた。
 長男の意見は、中々受け入れがたかったが、現実はその通りで、今や、若い人の間で入れ墨はファッションになっている。
 ファッションなんだから、いつかは、また消えてなくなることを私は願っている。
 それに、如何に電気針で入れ墨をすると言っても、その針の扱い次第で肝炎は伝染するだろう。恐ろしい話である。

 私は、谷崎潤一郎という作家が大嫌いだが、嫌いならきちんと全部読まなければいけないと思って全集を買った。(こう言うところが私のおかしなところだ。最近、私は福沢諭吉全集をそろえました。
 福沢諭吉を徹底的に批判するためにね)
 谷崎潤一郎が、世に出たのは、「刺青」という短編小説である。
 これは、若い女性が、入れ墨をされて、それ以来男を自分のサドの対象にすると言う話で、今読んだら実に面白くも何ともない話だが、これを、その当時、一番若くて西洋帰りで、日本の文学の旗手のように思われていた永井荷風が褒め称えたので、谷崎潤一郎は一躍新進作家として認められて、その後も、大作家としての道を歩んだ。
 私は非常に卑怯な人間で、他人様が褒め称える作家は、きちんと読んでおかなければ恥ずかしいという恐怖観念に捕らわれている。
 その結果、谷崎潤一郎全集も、永井荷風全集もそろえたが、ああ、二つとも、実につまらない。
 面白いのは、荷風の日記だけ。
 荷風の小説なんて、何が面白いんでしょう。
 面白い物は一つもない。
「墨東綺譚」が荷風の生涯の傑作だ、なんて言われると、読んでいて情けなくなる。
 日本人の作家というのは、こんなものしか書けないのか。
 そして、日本文学界では、こんなものを傑作というのか。

 日本人作家は、外国語を読めないのか。
 フランス語や、英語で書かれた小説は読んだことがないのか。
 私は大学の時に、Camusの「L’étranger」やMarguerite Durasの「Moderato Cantabile」、それにSherwood Andersonの「Winesburg Ohio」、James Joyce の「The Dubliners」などを読んで、文学とはこう言う物かと思い知らされた。
 ヘミングウェイの様々な短編小説にも、圧倒された。

 それに比べて、日本の文学はひ弱で、情けない泣き言の繰り返しではないか。
 日本文学を読んでいる限りでは、井戸端会議で、つまらん人間たちが、全くその先の発展も展望もない愚痴をこぼしているだけか、底の浅い快楽に酔って、その自慢をしている物としか思えない。

 あ、入れ墨の話が、日本の文学の話になってしまった。
 で、言って置きますが、私がもう熱烈に愛する日本文学と言えば、
「伊勢物語」と「万葉集」だね。
 この二つがあるから、私は、自分は日本人だとしっかり思えるんだ。
 この二つのことを考えると、体中が、ふるえるよ。
 本当に、よくぞ、日本人に生まれけり、と思う。
 この二つに対抗出来る文学作品なんて、他に絶対にない。
 読んでいなかったら、是非読んでくれ。
 特に、「伊勢物語」は何度も何度も声を出して読んでくれよ。
 なんと言うか、ああ、人生って美しい物なんだなとおもう。
 文章も短く美しい。その短い文章で、人生の深さを残りなく描き出している。読んでいると、恍惚となる。これが、本当の文学だよ。
 万葉集は、人生の悲しさ苦しさ楽しさ、その全ては、千年前と少しも違わないと、教えてくれて、その昔の人々が自分の隣に生きていて息をしているように感じるのだ。年に何回か取り出して読む度に涙が流れる。これも、必ず声を出して読んでくれ。

 どうも、またまたま、入れ墨から話がはずれてしまったね。
 ま、私の頭は、組織だった考えには向いていないんだろう。
 かんべんね。

雁屋 哲

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