病院の食事1
昨日、ちょっと書いたが、私は三月十八日に右膝の関節を人工関節に入れ替える手術をした。
普通、この膝の人工関節入れ替え手術はそれほど大した手術ではないのだが、私の場合は特別だった。
私は六歳の時に、右の股関節結核を患った。三年近く入院と自宅治療を続けた。その間、当時の医者の行った治療は、牽引療法という物で、右脚全体を絆創膏でぐるぐる巻きにして固定し、その先端に紐を結び、紐の先に重りをつけ、脚全体を引っ張るという物だった。引っ張ると、股関節の、大腿骨と骨盤が接触する部分に隙間が出来る。その隙間を作ることで、治療がしやすくなると言うわけである。
それはいいのだが、三年近く、いや、中学二年の時に股関節結核が再発して半年入院したから、それも合わせると三年以上、引っ張ったので、その影響が膝に来た。膝の関節が変形してがたがたになった。
若い間は、筋肉がしっかり膝を固定しているから問題がなかったが、五十を過ぎて筋肉が衰えると膝を固定することが出来ず、同時に膝の変形が進んで、激しい痛みを覚えるようになった。
股関節も同じことで矢張り筋肉の衰えと共に、痛みがひどくなって歩くのに不自由になった。そこで、十年ほど前に人工股関節に入れ替えた。数年間は調子が良かったのだが、その内に、再び痛くなった。調べるとその人工股関節に使われていたプラスティックが擦れて小さな粒子になって周囲の筋肉に入り込み、それがまた新たな痛みの原因になっていることが分かったので、四年ほど前に、股関節の入れ替え手術を再び行った。そんな人工関節を使った医者の責任なのだが仕方がない。当時は、そんな材料しかなかったのだ。
その手術をした医者W氏は、オーストラリアでも権威のある関節専門医で、年間の手術数は三百を超える。
そのW氏に、膝も痛いから人工関節にしてくれと頼んだら、それは出来ないという。なぜなら、私の右脚は子供の時から成長を止めてしまって、左脚より十八センチ以上短い。(だから、私は、特別に靴の底を高くした靴を右足に履いている。一頃、若い女性の間に異常に底の高い靴が流行ったことがあった。当時、私の娘たちは、靴のデザイナーの誰かが、お父さんの靴を見て、それを真似たのよ、と言った。しかし、両方共ならともかく、片方だけ、異常に底の高い靴を履いているのは余り美しいとは言えない。初めて私に会う人はみんな私の靴を見てびっくりする。人様を驚かせて申し訳ないが、この靴を履かないと歩けないので仕方がない)
短いだけでなく、右脚の骨は子供のように細い。
その細い大腿骨に、既に人工股関節の軸が上から入っている。
そこに今度は、膝の人工関節の軸を下から挿入すると、骨が細いから折れてしまうというのである。
では、どうすれば良いのかと尋ねると、痛み止めを飲んで我慢するしかないという。
言われるとおりの痛み止めを飲んだが、この痛み止めは大して効かず、しかも、飲むとなんだか眠くなり、胃腸の具合も悪くなる。生活の質が大幅に下がる。
これではたまらない、ファミリードクターに、誰か他に医者はいないか調べてくれと頼んだ。すると、もう一人権威がいると言って、股関節の手術をしてくれた医者より若い医者WG氏を紹介してくれた。
そのWG氏は、私の脚のエックス線写真を見るやいなや、「大丈夫、出来る」と言うではないか。私は驚いて、あの権威のあるW氏が出来ないと言ったんだ、と事情を説明すると、今度の医者、WG氏は、自分が過去に行った手術のエックス線写真を見せて説明してくれた。
大腿骨の周りに、他人が献体で呉れた骨を添え木のように当ててワイヤーで縛り付ける。そうすると、上下から人工関節の軸を入れても骨が折れることはないというのである。これを、骨移植という。
二年経つと他人の骨が私自身の骨になって血も通い始めるという。
実例を見せながら自信たっぷりに言われると、こちらもその気になる。それで、手術を頼むことにした。股関節の手術をしたW氏に、一応報告すると、W氏は、ちょっと口惜しそうな顔をして「Bone graft(骨移植)をするのか」と言った。
そんな訳で、痛みが取れること、それだけを願って、三月十八日に手術を行った。そして、三月三十一日に退院した。
手術の詳しい話はまた後にするとして、病院の食事についてお話しよう。
以前股関節の手術で入院したときもそうだが、オーストラリアの病院では、昼前に、夕食と翌日の朝食、昼食のメニューが配られる。
この中から、自分の好きなものを選ぶのである。
私が、このメニューで選んだ、のは、
まず、Vegetable pasta bake。野菜と、パスタ(ペンネ)をマッシュルーム、グリーンピース、タマネギなどと、ホワイトソースで炒めた物。
付け合わせは季節の野菜。ズッキーニと人参。
スープは、人参とオレンジスープ
それに、パンと、デザートの、Peach Semolina pudding。
とこんな物である。
夕食にパスタだけかと日本人は驚くが、オーストラリアでは、パスタだけの夕食はごく普通である。
この、ペンネは恐ろしく食べでがあった。付け合わせの野菜も食べると、腹一杯になる。
メニューが出て来たり、料理の名前も立派で、まるでホテルみたいだ。贅沢なもんだ。
では、味は、とお尋ねか。
それについては、また明日。
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