天皇制とのしイカ
私は天皇制反対主義者だが、現在の皇族の人々に何らの反感も抱かない。むしろ、現在の天皇、皇后には良い感じを抱いている。
阪神大震災の際に、どこかの体育館のような広い場所に避難している被災者たちを、天皇・皇后がお見舞いに行ったとき、天皇・皇后は、さっと被災者の前に膝をついて、被災者の手を取って、「大変だったでしょうね」と慰めた。それが、実に自然に心からでた態度だったのでみんな感銘を受けた。さらに、美智子皇后は、帰る車の中で両のこぶしを胸前で握って「頑張るのよ、頑張るのよ」という仕草をした。言葉は聞こえなかったが、くちびるの動きから、そう言っているのが、理解できた。
それに引き替え、当時の首相、社会党の村山富市は、被災者の待つ避難所に入ってきて、両手を後ろに組んだまま「ふん、ふん」と被災者たちを見回すだけで、励ましの言葉もかけず、すたすたと出て行った。被災者たちから、流石のことに、落胆と非難の声が上がった。慌てたお付きの者が大声で、被災者たちに「首相によく言っておきますから。首相も、皆さんのことは考えておられますから」と必死になって取りなした。
そもそも、それ以前に長い間自民党に反対してきた社会党が突然自民党と組んで、首相まで出したこと自体、それまで社会党が自民党の過ちを糺してくれると信じていた多くの日本人に対する裏切りである。社会党で党の議員になれるのは、組合運動を続けて来た人間の長年の功労に対する恩賞だと言われてきた。
私はその時の村山首相を見て「ああ、所詮は組合幹部上がりか」と落胆した。日本人は馬鹿ではなく、その様な節操を欠いた党は、完全に見放され、昔は自民党とあらそう力があったのに、今は無力な極小政党に陥落した。権力の誘惑は恐ろしい。何十年もかけて築き上げてきた信頼を社会党(社民党)は一夜にして失った。
その村山富市と、天皇・皇后とでは、人間の格が天と地ほど違うと思った。
天皇・皇后に限らず、皇族の他の人達も好感の持てる人達が多い。
その様な人達が、一切の自由を認められず、赤坂の区切られた土地の中に皇族全員が押し込められているのは、余りに理不尽と言うしかない。天皇制賛成主義者は、表面では天皇崇拝を言うが、その実天皇や皇族の身の上のことなど何も考えていないのではないか。天皇を自分たちに都合よく使うために崇拝するふりをしているのではないか。
天皇の行事予定表を見て仰天した。それこそ分刻みに様々な公務が入っている。それも、天皇を利用したいという人間共の要請でおこなされる公務である。みんな、天皇にひどい労働を課している。
本当に天皇を崇拝し愛しているのなら、天皇と皇族にもっと楽しい人生を送ることが出来るように配慮するべきだ。
例えば、修学院離宮を建てたのは後水尾上皇だし、桂離宮は八条宮家の別荘だった。昔の天皇・皇族はそんな別荘を造る自由もあった。何も、今の天皇や皇族に贅沢をさせろと言うのではない。住みたいところに住めるようにして上げるべきだ。したいことをさせて上げるべきだ。
一番耐え難いのは、皇位を誰に譲るかそれまで他の人間に指図されることだ。
皇太子には愛子さんという娘がいる。皇太子のあとの天皇を次ぐのに愛子さんで何が悪いのか。
女系天皇反対派というのがいて、彼らが強硬に女性が天皇になることに反対している。
早い話が、愛子さんを天皇にするなと言うのである。そんなことは、皇太子家に任せておけばよいだろう。よその人間が口を差し挟む問題ではない。
奇怪なのが、ある女系天皇反対派の親玉の大学教授が、「Y染色体が大事なのだ」と言いだしたことだ。彼が言うには、Y染色体は男子にしかない。愛子さんは女性だからY染色体を持っていない。それで、他の男と結婚したら、生まれた子供は神武天皇から続いたY染色体を持たないことになり、そこで、皇統が途絶える。だから、愛子さんを天皇にしたらいけない、と言うのである。
私の大学の同級生で東大の物理の教授をしている男がいる。私は彼に、東大の生物学の教授に事の真偽を問いただしてくれ、と頼んだ。彼は、直ちに生物学の教授に尋ねたところ、Y遺伝子が男性の特性を伝えることは間違いないという。Y遺伝子には神武天皇からの遺伝的特性が伝わっているという。
すると、女系天皇反対派の大学教授の説は正しいように思えるが、ところがどっこい、そうは行かない。現在の天皇は第百二十五代目である。大正、昭和の両天皇はそうではないが、明治天皇以前の天皇は多くの側室を抱えているの普通だった。だから、子沢山で十人やそこらの子供を持つ天皇は珍しくなかった。その中で、何人かは皇族として残したが、かなりの数の男子が、臣籍降下と言って、皇族の身分を離れて一般市民になった。それが百五十代続いたのである。一体何人の男子の皇族が一般市民になったことか。
彼らは、全員神武天皇のY染色体を持っている。臣籍降下した男子からも次々に男子が産まれる。百五十代、二千年の間にそれが重なると、一体どれだけの日本の男子が神武天皇のY染色体を持つようになったことか。弥生時代の日本の人口は六十万人、奈良時代には四百五十万人、平安時代に六百八十万人、と言われている。
その人口が今の一億一千三百万人にまで増える過程で、神武天皇のY染色体を持った男の数も爆発的に増えたことは容易に推測できる。常識的に考えて、日本人男性はかなりの割合で、神武天皇のY染色体を受け継いでいるのは明らかだ。
だから、愛子さんが結婚するとして、その相手が、神武天皇のY染色体を持っている確率は非常に高いのである。
女系天皇反対派の大学教授の説は日本の歴史を考えたときにおよそナンセンスな物と言わねばならない。
それよりも、そんなことを言い散らかすことで、皇太子夫妻をどれだけ傷つけていることか。女系天皇反対派は皇太子夫妻に、皇太子夫妻の愛娘を天皇にするなと言っているのである。
なんと残酷なことを、皇太子夫妻に対して言うのだろう。
これでは皇太子妃が精神を病むのも無理はない。
彼らは、天皇、皇太子夫妻、皇族に対する尊敬心も、人間としての同情心も何も持っていない。天皇を尊敬するふりをして、自分たちに都合の良い、天皇制を維持したいだけなのだ。
このような非人間的な制度は早く廃止するべきだ。
これまで、日本のために色々と犠牲になったのだから、天皇家を国が守るのは当然だが、天皇制を廃止して、天皇家と皇族を自由の身にしてあげるべきだ。
私は、天皇・皇后、皇太子夫妻、その他の皇族をテレビなどで見る度に気の毒でたまらない。
あの人たちにこれ以上辛い思いをさせるべきではない。
こんな残酷な制度は世界の恥だ。
去年、柴又の帝釈天に行ったとき境内で面白い屋台が出ていた。
のしイカの屋台である。
スルメをコンロの上で焼いて、右に見える大きな丸い鉄ののし板で平らにして、ローラーにかける。
すると、イカがのされてにょろにょろと出て来る。
さらに出て来る。
ここまで出て来て出来上がり。これを丸めて袋に詰めて売る。これが懐かしくて、乙な味だ。
私はその時思った、天皇も皇太子も、こんな楽しくて美味しい物を知らないだろうな、可哀想だ。
天皇や皇族が、帝釈天の縁日に自由に遊びに来られるようにしてあげるべきだ。
写真はクリックすると大きくなります。