雁屋哲の今日もまた

2008-09-06

今日は1440メートル

 ところで、昨日言及した「子育て記」ですが、私は、その本を出版するために、自分で出版社を立ち上げてしまったんですよ。

 十数年前にこの「子育て記」を出版する話が持ちあがった。
 シドニーの日本人向けの雑誌「ジャパン・プレス」に毎月、「子育て記」を連載していて、それをまとめて本にしようという事になったのだ。
 作業は進んで、残りの原稿の仕上がりも間近という時期に、担当編集者から、「論を入れないでくれ」という注文が入った。
 教育について鬱陶しいことを論じたりしないで、漫画原作者がシドニーで子育てをしているというその実態だけを、読者に興味を持たせるように書いて欲しいと言うのである。
 はてよ、と私は考え込んでしまった。
 私が、日本からシドニーに来たのは、日本の教育制度から逃げ出すためだ。
 シドニーに来たからと言って、何も教育の当てはなかったが、子供たちを一旦とにかく日本の教育制度から引っぺがしてやって、二度と日本の教育制度に戻れないようにするのが目的だった。
 いい中学、いい高校、いい大学、いい会社、あるいは国家公務員などのいい職業。
 そのような、日本の制度がたまらなくいやだった。
 遊び半分、楽しみを求めてシドニーにやって来たわけではない。
 子供たちを日本の教育制度から引っぺがすなどと、暴挙と言われてもしたがない。
 しかし、日本の受験勉強第一の教育制度から逃れたかった。
 そこまで、切実な思いを抱いてシドニーに来たのだ。
 子育て記に、そのような思いが反映するのは当然で、教育について論じるのも自然なことだ。いや、論じなければいられない。
 論じなければ、自分の子育て記を書く意味がない。
 七面倒くさいことを論じたりせず、漫画原作者の、異国での面白おかしい日常記なんか書けば、当たるかも知れないが、それは私にとって、むしろ自分の大事な物を台無しにすることだ。

 締め切り直前で、降りた。
 その出版社では、出版の予定を組んでいて、広告だの販促だの、全社的に体制が出来ていたのに、寸前で私が降りたので大変な迷惑が掛かったと言われた。
 その点については大変申し訳なく思うが、論を封じられては、そんな本は書く意味がない。

 その後も「子育て記」を自分と連れ合いと、そして子供たちのために、書いて残しておきたいという気持ちは強く持ち続けていた。
 しかし、最初の件で懲りたので、どこか出版社に持っていくのはやめようと決めた。
 内容について、あれこれ言われるのは、もういやだ。
 大事な物だから、自分の書きたいように書く。
 そのためには、自分の出版社を持って、自分で出版することだ。
 そう思って、出版社を作った。

 出版社の名前は「遊幻社」とした。人生は、遊びと幻だ、と言う意味でつけた。
 しかし、失敗した。有名な大出版社で「幻冬舎」というのが有るのだそうだ。
「幻」という一字が、その出版社の名前に重なっている。
 独創性を本分とする者としては、これは痛い失策だ。
 余りに長い間日本を離れていて、日本の出版界の事情を知らなかった報いだ。
 しかし、登録してしまった物は今更取り消せない。
 私の出版社の方が大きくなればいいんだろうと腹をくくった。
 最初に、岸朝子さんとの対談本「美味しんぼ食談」を出版し、つぎに「クジラから世界が見える」を出版した。
 収支はとんとんだが、人件費を入れると大赤字だ。
 いや、出版は難しいもんですよ。

 今度の「子育て記」も中々厳しいだろう。
 どこかの出版社に頼んだ方が、売り上げは望めるだろう。
 しかし、一度つまずいたので、意地になっている。
 どうしても、自分の出版社で、自分の思うような本を出したい。

 これからの予定もあるから、どうしても、十月中に出版しなければならない。
 そのために、今、必死で書き続けているんです。

 出版したら、読者諸姉諸兄のみなさん、売り上げに協力して下さいね。
 一人最低十冊以上買って、みんなにばらまいて下さい。
 書評なんかで取り上げてほめて貰えるように協力して下さい。
 どんどん宣伝して下さい。
 へ、へ、へ、図々しすぎますな。

 ま、そう言うわけで、今追い込みで大車輪なんです。

 今日、シドニーは冬に逆戻り。木枯らしのような風が吹き渡り、雨が降り続けている。
 寒い。
 とても、外を歩けないので、玄関の戸口から、一番奥の長女の部屋までの廊下を40往復した。
 1往復36メートルだから、40往復で1440メートルの計算になる。
 2167歩。昨日より、190歩ほど少ない。
 数歩に一度、「いて、て、て、て」となるが、そこは根性で歩き続ける。
 40往復したら、流石にぐったりとなった。

 歩く前に、40分ほど、予備運動をする。
 一つ辛いのは、仰向けに寝て、足首に、1キロの重りをつけて、脚をまっすぐ上に延ばす運動だ。
 上に延ばしきったところで連れ合いに足首を支えてもらう。そこで一旦、力を全部抜く。
 そして再び、筋肉に力を入れて、脚を突っ張ったところで、連れ合いは手を離す。
 そこから、ゆるゆると出来るだけゆっくり、脚をベッドの上に戻す。
 この、ゆるゆるというのが辛い。太ももの筋肉が思い切り力んでいるのが分かる。

 他にも幾つか運動を取り混ぜている。

 私の人生で、こんなに運動をするのは初めてだ。
 しかし、大分光明が見えてきたから、ここを先途とがんばるぞ。

 と言うわけで、日記の再開は、もうちょっと・・・・

雁屋 哲

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頭痛、肩コリ、心のコリに美味しんぼ
シドニー子育て記 シュタイナー教育との出会い
美味しんぼ食談
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美味しんぼア・ラ・カルト
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