雁屋哲の今日もまた

2008-07-28

パレスティナ問題 その11

〈「雁屋哲の食卓」に「ベビー・スピナッチのサラダ」を掲載しました〉

 さて、ユダヤ教だが、キリスト教で言う旧約聖書がユダヤ教の聖書だ。
 一番最初の創世記では、皆さんご存知の通り、神が六日間で天地のすべて、生き物も全てを作ったと書かれている。
 宇宙物理学が進んで、ビッグ・バン理論などで宇宙の始まりなどが論議されている時代に、神が大地を作り、太陽や月を作った、などと言う話を読むと白けるが、三千年以上も前は画期的な発想であっただろう。
 しかし、いまでも、ユダヤ教徒や、キリスト教徒、イスラム教徒はこの天地創造説を心から信じているのだろうか。
 そうだとしたら、それも凄いことだ。

 聖書は、律法、預言書、諸書の三つから成り立っている。
 律法とは、最初の五書「創世記」「出エジプト記」「レビ記」「民数(みんすう)記」「申命(しんめい)記」のことを言う。
 この五つの書には、モーセがシナイ山などで、神から伝えられた律法が編纂されているので、「モーセ五書」とも言う。
 この「モーセ五書」がユダヤ教の根本だろう。

 聖書を順に読んでいくと、ユダヤ人の動きが分かる。

  • まず、アダムとイブが神によって作られる。
  • アダムとイブが最初に持った子供が、カインとアベルである。
  • カインがアベルを殺した後、アダムとイブは、セトを持った。
  • 十代目に、ノアが生まれた。
  • 神は余り人間達が悪いのに嫌気がさしてみんな殺してしまうことにしたが、ノアだけは神に従う無垢な人間だったので、ノア一族と動物たちだけを箱船にのせて、大洪水を起こし地上の生き物を全て殺した(ノアの大洪水)
  • ノアの子孫は大いに栄え、地上の諸民族は洪水の後、ノアの一族から別れでたものである。
  • ノアから十一代目に、アブラムが生まれた。
  • アブラムは、神に「父の家を離れて、わたしが示す地に行きなさい」と言われて、甥のロト、妻のサライを連れて、カルデアのウルを出て、カナン地方に入った。
    ここで、どうして突然神が現れてくるのか分からない。唐突に現れるのだ。
    聖書では、神による召命という。召命とは「神に選ばれて救いを与えられること」だ。神が、アブラムを選んだのだろう。
  • カナンに入った時神が現れて、アブラムに

「あなたの子孫にこの土地を与える」(創世記 第12章)

と言った。
(注意!ここで初めて神がユダヤ人にカナンの地を与える約束をした)

  • アブラムは旅を続け、ネゲブからエジプトへ行き、再び、ネゲブを経てカナンに戻ってきた。
    そこでまた神が現れて、アブラムに

「さあ、目を上げて、あなたがいる場所から東西南北を見渡しなさい。見える限りの土地をすべて、わたしは永久にあなたとあなたの子孫に与える」(創世記 第13章)

という。
(神がカナンの地をユダヤ人に与える約束の、第二回目)

  • アブラムは、ヘブロンにあるマムレの樫の木の所に住む。
  • 周辺の王たちとアブラムは戦って勝つ。
    その後、また、神が現れて、アブラムと契約を結んで言う。

「あなたの子孫にこの土地を与える。エジプトの川から大河ユーフラテスに至るまで、カイン人、ケナズ人、カドモニ人、ヘト人、ペリジ人、レファイアム人、アモリ人、カナン人、ギルガシ人、エブス人の土地を与える」(創世記 第15章)

という。
神がユダヤ人にカナンの土地を与える約束の第三回目。ここで、驚くのは、カナンの土地には既に他の人間が住んでいることだ。
他の人間が住んでいる土地をユダヤ人に与えると、神は約束する。
ここのところが、のちのち、大変重要になってくる。

  • アブラムが九十九歳になったとき、また神が現れて言う。

「これがあなたと結ぶわたしの契約である。あなたは多くの国民の父となる。あなたは、もはやアブラムではなく、アブラハムと名乗りなさい。
あなたを多くの国民の父とするからである。(中略)
わたしは、あなたとの間に、また後に続く子孫との間に契約を立てて、それを永遠の契約とする。そして、あなたとあなたの子孫の神となる。わたしは、あなたが滞在しているこのカナンのすべてのとちを、あなたとその子孫に、永久の所有地として与える。わたしは彼らの神となる」(創世記 第17章)

神がユダヤ人にカナンの土地を与える約束の、第四回目。実にしつこいね。同じ約束を四回もする。
しかし、これが、ユダヤ人にとっては、本当に大事な約束なのだ。

 このあと、いろいろと興味深い話が沢山続くのだが、それを追って行っては切りがない。
 パレスティナ問題に関係のあるところに的を絞って進もう。

  • アブラハムの子供イサクの子供ヤコブは神に祝福されて

「あなたの名はヤコブである。しかし、あなたの名はもはやヤコブと呼ばれない。イスラエルがあなたの名となる。」(創世記 第35章 イスラエルという名前の登場)

また、神は言う。

「わたしは、アブラハムとイサクに与えた土地をあなたに与える。
また、あなたに続く子孫にこの土地を与える」(創世記 第35章)

ついに五回目だ。まったくしつこい神様だ。

  • アブラハム、改めイスラエルの一番年下の息子ヨセフは優れていたのでイスラエルに可愛がられた。
    そのために、兄たちに憎まれ、エジプトに売られてしまう。
  • エジプトで、ヨセフは才能を発揮し、エジプトの王に認められ、宮廷の責任者として、エジプトを支配する者となる。
  • 当時、世界的に飢饉が起こり、イスラエルもヨセフの兄十人にエジプトに穀物を買いに行かせる。
    ヨセフの兄たちはエジプトの支配者が自分の弟ととは気がつかないが、ヨセフは気がつき、仇を討つどころか、帰って兄たちに良くしてやる。
  • イスラエル一家は、飢饉でますます困り、とうとうヨセフを頼って一家を挙げてエジプトに移り住む。
  • こうして、イスラエルの子孫はエジプトの地で大いに数を増した。
    聖書は「出エジプト記」に入ると、アブラハムの子孫を「イスラエル人」と記すようになる。
  • イスラエルとヨセフさらにその兄弟の死後も、イスラエルの子孫はエジプトで数を増していった。
    ヨセフのことを知らない新しい王が、「イスラエル人という民は、今や、我々にとってあまりに数多く、強力になりすぎた。ぬかりなく取り扱い、濃い上の増加を食い止めよう」という。
  • こうして、イスラエル人は強制労働を科せられ、虐待された。

「しかし、虐待されればされるほど、彼らは増え広がったので、エジプト人はますますイスラエルの人々を嫌悪し、イスラエル人々を酷使し、粘土こね、れんが焼き、あらゆる農作業などの重労働によって彼らの生活を脅かした。彼らが従事した労働はいずれも苛酷を極めた。」(出エジプト記 第1章)

アブラハムの子孫、イスラエル人(ユダヤ人)は飢饉のために逃げて来たエジプトで大いに数が増えたのだが、それが返って、エジプト人の反発を買って、ひどい虐待にあうようになった。

 イスラエル人は窮地に陥った。
 イスラエル人にとって、エジプトは異郷の地。自分たちの土地は神に与えられたカナンの地だ。
 このままでは、異郷の地のエジプトで野垂れ死にしてしまう。

 そこに登場したのが、モーセ、である。

 このモーセが、イスラエルの民を率いてエジプトを脱出して、カナンの地に向かう所が、聖書の一番光り輝く個所だろう。

 今回覚えて置いて頂きたいのは、神が、アブラハム、ヤコブ改めイスラエルに通算五回も「カナンの地を与える」と約束したことだ。
 これが、パレスティナ問題の大事な鍵なのだ。

(つづきは、明日)

雁屋 哲

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