雁屋哲の今日もまた

2008-06-18

最近のお笑い芸人

〈「子育て記」に「第一章 その3」を掲載しました。〉

 昔のお笑いというのは、今にしてみれば中々に高級であって、ヴェルレーヌの詩、
 ちまたに雨の降るごとく
 我が心にも雨が降る
 ・・・・・
 なんて文句を漫才で使っているのを聞いたことがある。

 しかし、最近のお笑いというのは、私には何が何だか分からない。
 NHKの番組で「爆笑オンエアバトル」というのがある。
 若い芸人たちがそれぞれの芸を披露して、会場にいる観客が面白いと思った芸人(芸人たち)に投票する。その投票結果でどの芸人の芸がテレビで放映されるか決まる。
 テレビの視聴者は、観客が選んだ芸人の芸をビデオで見ることになる仕組みだ。
 毎週十組くらい出演して、そのなかの五組くらいの芸が放映されるが、中には連続何週間も放映の栄誉を獲得している芸人もいる。
 時々私は、もしかしたらと言う期待を抱いてその番組を見る。

 私は昔からお笑いが大好きで、優れたお笑い芸人のビデオやDVDを集めているくらいだ。
 優れたお笑いは、心がよじくれている時など、その心のもつれを解きほぐして、すっきりさせてくれる。
 笑うことは、人間にしかできない高等な精神の働きだ。
 笑うことを下品と思う人もいる。男子は一年に一度、片頬をゆるめる程度でよい、などと馬鹿げた侍精神を立派なことと思っている人もいる。
 笑うことは人間の精神の働きの中で一番高等な物であり、笑うことを知らないのは、精神の発達が遅れた下等動物である。

 それで、私は、若い新しいお笑い芸人を発見出来るかもしれないと期待して、その番組を見るのだ。
 ところが、その番組を見ても、何一つ面白く感じない。
 面白くないどころか、心が寒々と冷え込み、白けてかさかさした気持ちになる。
 拷問にかけられたような気分になって、途中でスウィッチを切ることがしばしばだ。

 一体どうしてしまったのだろうか。
 会場の観客は笑っている。その観客は非常に若い。
 今の若い人達には、あの芸人たちの芸が面白いのか。
 すると、悪いのは私であって、私が時代に遅れてしまったと言うことなのか。
 笑いの質は時代によって、こんなに変質する物なのか。

 ここで、最近の芸人は芸がないとか、見た目がまず汚らしい、貧相だ、大声を張り上げて、意味不明な行動を取って、それで観客をとまどわせて失笑させる、それをお笑いと勘違いしている、とか、それを見て笑っている若い人達の頭の程度もひどいもんだ、とか、そんな批判をするつもりはない(と言いながら、しちゃってらあ)
 この訳の分からなさは何なのだろう、と不安になってくるのだ。

 この番組に出る芸人は正確に言うと芸人志望の段階であって、本職として認められた芸人ではない。
 では、本職として認められた若い芸人の笑いが面白いかというと、私には少しも面白くない。
 日本で民間放送の番組を見ていると、良く若いお笑い芸人が出て来るが、これが、「爆笑オンエアバトル」に出て来る芸人志望の連中と全く変わらない。
 どうして、こんな事でお金を貰えるのだろうと不思議になる。
 見ていて、笑うどころか、不愉快になるだけである。

 彼らを見ていると、笑いとは高等な精神の働きである、などと言えなくなってしまう。
 若者が持っているはずの、若々しい、みずみずしい、そして生き生きとした反抗的な感じが何もしない。
 廃墟を見るような無惨な感じ。荒廃した心を見せつけられた時の嫌悪感。そんなものだ。

 昔から、老人は、若者のすることをけなし、世も末だ、人間はどんどん悪くなる、社会は崩壊の一途をたどっている、と言うことに決まっているらしい。
 私も、ついにその老人の仲間入りをしたと言うことなのかも知れない。

 老人は若い者を批判するが、その若い者を育てたのは自分たちだという責任を忘れている。
 若い人達をけなすことは、自分をけなすことなのだ。
 それは分かっているが、自分の子供だって思うように育ってくれないのが現実だ。ましてや、よそ樣の子供たちとなったら手も足も出ない。
 どうして、こうなってしまったんだろう、とため息をつくしかない。

 お笑い番組をいて、気持ちが沈んでしまっては、これはお終いだ。
 はあ・・・・・、なんと言ったらよいのやら。

雁屋 哲

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