男どもよ、座れ!
ひやあ、6月になっちゃったい。
3月18日に手術を受けてからの日々が、まるで空白のように思える。
幾ら時の経つのは早いものだと言っても、これは早すぎる。
これだけ、空虚に過ごした二ヶ月半もない物だ。
いや、常に自分の膝の調子と向き合っていたから、自分の体とは濃密なつきあいをしてきたわけで、その点からすると空虚という事は無い。濃い密度の毎日が続いている内に時間が経ってしまったと言うことか。
しかし、リハビリの手伝いから、リハビリに行く車の運転から、日常の細々としたことから全て連れ合いにおんぶにだっこで、連れ合いがいなかったら、私は一日も生きて行けない。
手術前なら自分で出来たことが今は出来ないことが多い。どうしても、連れ合いの手を借りなければならなくなる。
自分をこんなに無力に感じたこともない。
連れ合いは私の面倒を見ながら、他にも家事で忙しい。
コマネズミのように働き続ける連れ合いの姿を見ると、実に申し訳なくなる。他の男と結婚していればこんな苦労をせずにすんだろうに。
私みたいに手の掛かる男と結婚してしまって、貧乏くじを引いてしまった物だ。と言っても、返品期間はとっくに過ぎてしまったから、亭主の返品は出来ないし。可哀想に。
昔流行った浪曲で「壺坂霊験記」というのがある。もともとは文楽の物らしい。視力を失った夫、沢市を、妻のお里が面倒を見る、と言う筋書きだが、その冒頭の文句と節を今でも私は憶えていて、最近、その一節を唸って連れ合いに聞かせる。(若い人には分かりづらいだろうから、説明すると、浪曲は歌うと言わずに、唸る、と言うのだ。浪曲を聞いた感じでは確かに、唸る、と言う語感がぴったり来る)
その文句は次のような物である、
「妻は夫を労わりつ、夫は妻をしたいつつ」
正に私の家は今や、「壺坂霊験記」状態である。
といっておいて、こんち、尾籠なお話で失礼します。
最近、どこのお宅に行っても、手洗いに男性用の立って放水作業をする便器はなく、座って用を足す便器が一つだけのことが多い。
レストランでもそうだ。
そこで、男性は如何に放水作業を行っているか。
これは、圧倒的に立ったまま行っている男が多いでしょう。
私も長い間、便座を上げて放水作業を行っていたのだが、ある時、しみじみ観察してみると、これは大変に不潔であると言うことが分かった。
不潔であるゆえんを列挙しよう。
- 男性はしばしば狙いを外す。
遠くに飛ばしすぎて、便座の奥を超えたところに着弾させてしまう。
右や左にそれて、便器の外にこぼす。酔っぱらっていると、その狙いの外し方が激しくなる。 - しぶきが立って飛び散る。
運良く、便器の中に着弾しても、放水の勢いが強いと便器の内壁、あるいは便器の底に溜まっている水にぶつかって、しぶきが立つ。
そのしぶきは、細かい飛沫となって便器の周りの床や壁に飛び散る。
これは暗い手洗いでは分からないが、明るいとよく見えて愕然となる。 - 男性は己を過信する。
男性は己の放水器の寸法を過大に考える傾向がある。
便器に立つのも、己の放水器の寸法に対して適正な距離より遠く離れて立つ。
その結果、放水器と便器の間に距離が出来て、放水の最後の段階で放水の勢いが落ちると、便器まで水は届かず、便器の手前の床にぼたぼたと落ちる。
過信はいけない。己自身を知れ。
私はシドニーと日本の間を年に何度か往復するが、その度に、うんざりするのが、飛行機の手洗いが、離陸して数時間経つと汚くなることである。
特に、便器の前の床に液体が落下しているのが恒常的になる。
客室乗務員は結構まめに手洗いを清掃しているようだが、客席数に比べて、飛行機の手洗いの数は少ない。乗務員が清掃してもすぐ数分後には、己を過信した男性客が、便器の前の床を汚していく。切りがない。 - 男性は己の放水器の構造を良く理解していない。
男性の放水器の中には管があり、放水作業完了後も、管の中には水が残っている。
男性は、作業終了後、犬がしっぽを振るのを真似た動きを己の放水器に、大抵の場合上下に、念を入れる人は回転させて加えて、それで管の中の水は全て放出できた気になっているが、それは大きな間違いである。
数回犬のしっぽふりをしただけでは、水を完全に放出することは出来ないし、大抵の男性は、徹底的に放出し終わったかどうか確認しない。
更に、もう一つの問題として、放水作業は通常両手を離しては行えないという事実がある。
従って、放水器の寸法に合わせて、片手あるいは両手で放水器を保持するのが一般的である。
しかも、放水作業の後の、犬のしっぽ振りの段階では、放水器をしっかり掴む必要があるから力が入って、その部分の管は圧迫される。
圧迫された管の前方部分に残る水は完全に振り切れたとしても、圧迫した部分から後ろに残った水はその段階では外に出て行きようがない。
男性が、犬のしっぽ振りを終えて、これで良しと思って放水器を掴んでいる手をゆるめた途端、背後の管に残っていた水が、流れ出る。
男性が放水器を自分の衣服の中に格納するまでの間に、その水は、便器の前にしたたり落ちることになる。もちろん、格納された下着の中にも残留分が出て来る。
私はこの世の中で、男性の裸体を見ることほど厭なことはない。
しかし、温泉などに行くと、否が応でも男性の裸体を見なければならない。私が温泉の雰囲気は大好きだが、温泉に入るのは嫌いなのは、湯当たりしやすい体質であることに加えて、男性の裸体を見るのが気持ち悪いからである。
その温泉に更衣室という物がある。そこで、浴衣など脱ぎ、下着も脱ぎ、裸になる。
そこで、不運にも他の入浴客と一緒になることがある。私は自分で自分を呪うのであるが、そう言う場合、私の眼は、見なければよい物を必ず見てしまう。
私は男性の下着の中で、ブリーフと言う奴が、大嫌いである。生地の感じと言い、形と言い、あれだけ恥ずかしい物は滅多にない。
あんなものを身につけるくらいなら、私は新聞紙を身体に巻き付ける方がましだと思う。
時にとなりの客がそのブリーフを脱ごうとしているところに目がいってしまう事がある。「あ、早く目を離さなければいけない」と自分では思うのだが、眼が勝手に動いて、身の毛のよだつような物を見てしまう。
ただでさえおぞましいブリーフの一部分が黄色に変色しているのを私の眼は捉えてしまうのだ。
ブリーフに限らない。トランクス型の下着でも何でも、殆どの男性の下着のしかるべき部分は黄色に変色していると断言しても間違いない。男性諸君、直ちに自分の下着を点検し給え。私の正しいことが分かるはずだ。
それも、ひとえに、放水作業の後の始末が上に述べたとおりに間違っているからである。
どんなにおしゃれをした紳士でも、その下着のある部分が黄色く変色しているかと思うと、気が抜ける。
さて、1)から、4)までに述べたことが原因となる、手洗いの汚れ、下着の汚れ、に対してどう対処するか。
それは、
- 男性も、便器に座って小用を足すこと。
私は、家に遊びに来る男性客には、必ず放水作業は座って行うように厳しく言う。
男性の中には、座って小用を足すのは、男の沽券に係わるなどと言って、嫌がる者が多い。
そんな奴は私の家では手洗いを使わせない。
立って小用を足すことのどこが男の誇りに係わるというのか。
そんな事を言い張る男は実に肝が小さい。貧相である。
手洗いを汚しておいて、男の誇りもないもんだろう。
アラブでは男も座って小用を足す習慣になっているという。
当然のことだろう。
これで、手洗いのの汚れのかなりの部分が解決する。
で、下着の汚れの問題だが、それは、 - 放水作業後、トイレットペーパーで、放水器をきれいに拭うこと。
そんなことはおかしい、と言う男は、汚れた下着を着ても平気な男であって、不潔きわまりない存在である。
どうして、水をきれいに拭わぬまま放水器を格納するのか。ああ、きったねえ、と私は思うね。
実際に拭ってみると、如何に大量の水が残っているか分かって驚くだろう。
イスラムの世界では、放水作業後、水で洗うという。
実に正しいではないか。
長女は去年、数ヵ月フランスを中心にヨーロッパを旅してきたが、帰ってきて、私にお土産をくれた。
それは、ドイツ製のステッカーで、手洗いの便器の前に貼る物である。
そのステッカーには、男性が放水作業を行っている姿が、非常口などの案内板に国際的に使われている、頭は丸、身体は楕円形の略画(あのデザインは日本が作った物で、その企画をロシアの案と競ったと言うことだ)で描かれているが、立って作業をしている人間には×、便座に座っている人間にはよろしいと言う印が付いている。
なんと、ドイツでは男性が立って放水作業をすることが法律で禁止されているのだそうだ。
私が何時も口やかましく、男どもに座って作業をするようにと言っているのを知っている長女が、それをドイツで見つけて買ってきてくれたのである。
流石はきれい好きのドイツ人だ。
法律で決める所など、立派だ。
私はそのステッカーを、私の家で客が使う手洗いの便器の前に貼った。
残念なのは、ドイツ語で書かれていることだが、世界共通の略画が描かれているので、オーストラリア人にも日本人にも理解できる。
流石のドイツ人も、上記ロ)の項目については法律では決められていないようである。
しかし、清潔を真剣に考えるなら、慣習にとらわれず、格好悪いなどと思わず、ロ)を実行していただきたい。
どうせ人に見せて行うことではないのだから。
おかしいとか、変だという人には、それなら、あなたは大きい方の場合にもお尻を拭かないのかと尋ねたい。同じことではないか。
これは真剣なことなんだ。
真面目に受取っていただきたい。
幾ら上品なことを言っても、美味しい物を食べても、おしもが不潔だったら話にならないぜ。
手洗いを汚し、汚い下着を着ている男なんて、気持ちが悪い。最低だな。