雁屋哲の今日もまた

2008-05-13

「雁屋哲の食卓」について

 先日から開いた「雁屋哲の食卓」について一言書いておきたい。
 私の子供から聞いた話だが、まだ私達が日本にいる時、私の子供が学校にお弁当を持っていったら、近所の主婦が「一寸見せて」と言って、家の子供の弁当の中味を見て、「美味しんぼの弁当だから、どんなかと思ったら、普通のお弁当なのね」と言ったという。
「美味しんぼ」を書いてきて、非常に誤解されるのは、私や私の家族が、いつも大御馳走を食べているのではないか、と言う事だ。
 とんでもない。
 それは「美味しんぼ」自体を見ていただくと分かるが、主人公の山岡も、社員食堂、町場の居酒屋、文化部付属の調理場で作った自作のうどんなど、普通のサラリーマンと変わらない物を食べているし、山岡とゆう子の家での食事もありふれた日本人の家庭のお総菜である。
 勿論、山岡は、例えば「京味」などの、特級の料理屋にも行くし、高価なワインも飲んだりするが、それは「究極のメニュー」を作成するという職務上やむを得ないことであって、「美味しんぼ」の食べ物の殆どは、その気になればだれでも手に入る物ばかりである。
 それでもやはり、読者諸姉諸兄の中には、「雁屋哲はいつもどんな物を食べているんだろう」と知りたがる人が多いと聞いた。
 現実に、私自身、その様な質問をいろいろな人から厭になるほど何度もされてきた。
 それなら、「美味しんぼ」も一区切りつけたことだし、読者諸姉諸兄の好奇心を満たすと同時に、私の実像を知って貰うために、私が日常的に食べている物を、お見せしようと決めた。

 ただ、私の家族や、周りの者からは、「なあんだ、美味しんぼの原作者はこんな物を食べていたのか」と読者諸姉諸兄をガッカリさせることになるからやめた方が良いと言う意見も出た。
 それも一理ある。
 自分の私生活については何も言わず、見せず、秘密めかすのは自分の価値を高める一つの手段である。一種の神秘化、と言うのかな。
 だが、私は「美味しんぼ塾」の中で、さんざん私生活について喋っているから、今さら、神秘化もないもんだ。
 むしろ、私自身の毎日の食事をお見せした方が良いと思われることもある、と私は考えた。

 その理由は、「お総菜主義」にある。
 私は、家族と外食に出かけるのが大きな楽しみの一つとしているが、それは、多くても月に三度くらいで、後は三食家で食べている。
 私は、物書きで、一日中家にいるから、必然的に家で三食食べることになる。
 以前、「亭主は元気で、留守がいい」などと言う言葉が流行ったことがあった。私の連れ合いも、ご近所の主婦連とお喋りをしているときに、「亭主が毎日家にいるなんて、いやねえ」と言われたそうである。
 それからすると、私など、主婦にとって迷惑きわまりない亭主、と言うことになるのだろう。

 会社勤めの人からすると考えられないくらいに毎日家にいて、しかも、毎日連れ合いに「美味しい物を食べさせてくれ」と言い続けるのだから、連れ合いにとっては私と結婚したことは、生涯の災難と言うべきだろう。
 連れ合いの迷惑も顧みずに言えば、私にとって夕食の時の一家団欒が一番楽しい時間である。
 そのために一生懸命働いている所がある。
 私は色々と、何が一番人生の中で幸せなことだろうかと考えてみたが、この、家族揃って楽しく食事をすることほど幸せなことは考えられない。
 巨万の富を持つことも、美女四千人を擁する後宮をを構えることも、私のような小人物にとっては有り難くない。
 子供たちの顔を眺めながら、お喋りをし、笑いさざめき、そして美味しい物を食べる。私には、これ以上の幸せという物は考えられないのだ。

 そこで重要になってくるのが、お総菜である。毎日の食事だ。
 私は、美味しい店を食べ歩くのも好きだ。変わった味を探検して歩くのも好きだ。
 しかし、私の食の根底は家庭のお総菜、毎日の家庭で作る食事なのだ。
 お総菜こそが、一番価値のある食べ物である。
 それが、私のお総菜主義である。

 そこで、「雁屋哲の食卓」である。
 ここには、基本的に、私の家で作った物を並べてある。
 勿論、どこか美味しい店に食べに行ったときは、その美味しかった物を紹介もするが、基本的に、我が家のお総菜である。
 私の食べているお総菜をご覧に入れて、私のお総菜主義とはどんな物か、読者諸姉諸兄にお分かり頂きたいのだ。
 ときに、トリュフなどと言う、家庭料理にはそぐわないと思われる物が出たりするが、あくまでも、自分の家で、家庭料理として作ったところに意味がある。
 お総菜主義とは、家庭で美味しい物を作り、皆で和気あいあいと食べて、家族が幸せになることだ。
 それをいいたいが為の「雁屋哲の食卓」なのであります。

 家庭の食事を人様に見せるなんて、私生活をさらすことで、一寸やり過ぎの感がないこともないが、ま、これも流れに身をまかせると言うところか。
 お総菜主義とは何かお考えいただいて、ついでに楽しんでいただければ、大変に幸せである。

雁屋 哲

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シドニー子育て記 シュタイナー教育との出会い
美味しんぼ食談
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