雁屋哲の今日もまた

2017-12-28

「ウーマンラッシュアワー」の漫才を見て

私には、私の本を読んで下さるだけでなく、このブログにも応援と励ましのメールを下さる方が、大勢います。

大変に有り難いことです。

 

その中の一方が、「ウーマンラッシュアワー」の芸を見るように教えて下さいました。

私が最近の日本のお笑い芸に疎いことを心配してくださったのです。

 

私は落語漫才演芸を始め、お笑い芸には長い間親しんでいます。

ただ私はその読者の方がご心配頂いたように、最近のお笑い芸について関心を持てずに来ました。

早い話が、今のお笑い芸は、ちっとも楽しくない。

それどころか、テレビなど見ていると不愉快になる。

何故不愉快になるか、その理由を挙げていくと長い話になるので止めます。

私の性格の悪さゆえなのでしょう。

 

そのような私が「ウーマンラッシュアワー」の、17年12月17日にフジレビのTHE MANZAIという番組で放送された漫才芸を見ました。

とにかく早口なので音量を小さくしていては聞き取れず、音量を大きくして3度見て、ようやく理解できました。

その日の漫才の内容はすでにネットでも反響を呼んで様々な書き込みがなされているのでここでは深く取り上げませんが、村本大輔と中川パラダイスの二人の協調が大変に良く取れていることにまず感心しました。

声がひっくり返るほどの大声で恐ろしい早口でしゃべる村本に合わせて中川が明るい感じで合いの手を入れ、最後に、また中川が明るい声でまるでデモのスローガンに聞こえるのではないかと思われるほど朗々と締めの言葉を言う。

この二人の掛け合いは非常によく練習されていて狂いがない。

この芸を舞台にかけるまでの二人の猛練習がうかがえて、大変に感心しました。

宮川大助・花子も私の好きな漫才コンビですが、舞台の上ではのんびりと花子にいいようにしゃべらせているように見える大助が実はあの漫才コンビのリーダーで、一つのタネを舞台にかけるまでに大変な練習を重ねるということです。

落語でも漫才でも舞台ではお客を楽しませるために笑顔を浮かべているが、実際は舞台に出るまでに骨身を削る練習・稽古をつんでいるんですね。

 

で「ウーマンラッシュアワー」の漫才の内容ですが、原発、小池都知事、仮設住宅と東京オリンピック、沖縄、米軍に対する思いやり予算、と現在日本が抱えている諸問題を取り上げてきちんと迫りました。

視聴者にそのような問題があることを認識させることだけでも大きな意味があるものだと思いました。

そして、最後に村本が「このように日本には色々問題があるのに、議員の不倫、芸能人の不倫、そんなことばかりニュースになるのは何故か」と問いかけると、中川が「それは、見たい人が沢山あるから」と答え、それに対して村本が「だから本当に危機を感じなければいけないのは、それよりも」と問い詰めると中川は「国民の意識の低さーっ!」と絶叫してこのまんざいは終わり(この辺り私が非常に簡略化しています)、中川は「有り難うございました」と言って引き下がろうとしますが、村本は立ち止まって客席をにらんで指を突きつけて「おまえたちのことだ」と大声で言う。

私は今まで、芸人が舞台から客を指さして「お前たち」と罵るように叫ぶのを聞いたことがありません。

 

関西の芸人で「アホの○○」という名前で売った芸人がいました。(まだ健在かも知れない)。その芸人がテレビ番組の収録中に客席から「アホの○○」と呼ばれるとその客に向かって食ってかかるような勢いで「アホとはなんや」と喚いたことがありました。まあ、その時のその芸人の顔の醜いこと、恐ろしいこと、二十年以上経った今も忘れられません。

その芸人は、実は「アホ」ではなく、営業上そのようにして見せていただけだったのです。その芸人の姿を見て、私は「芸人はああいうことをしてはいけない」と非常に不愉快に思いました。「アホ」で売り出してそれでお客も楽しんでいるのに、そこで怒り出したら、何もかもぶちこわしだ、と私は思ったのです。自分の看板がなくなるではありませんか。「アホ」で押し通してこその「芸」でしょう。

しかし、今回、「ウーマンラッシュアワー」の村本が客席に向かって叫ぶのを見て不快どころか、「よく言った」とすっきりした感じを覚えました。

 

私に「ウーマンラッシュアワー」を見るようにすすめて下さった読者は、私の好きな「コント55号もここまで完成度の高い漫才はやれていなかったのではないでしょうか」と書いて来られました。

完成度から言えばコント55号の演じたものの中には今回の「ウーマンラッシュアワー」より高いものが幾つもあると思いますが、コント55が活躍していた60年代、70年代は、大学闘争、70年安保問題、三里塚問題、ベトナム戦争、など問題続きの政治の時代でしたが、コント55をはじめ、他の、漫才も落語もコミックバンドも、いわゆる芸人は政治問題に言及することはもちろん、その時の演目の主題とすることなど一切ありませんでした。

いや、60年代、70年代どころか、21世紀を迎えた現在まで、寄席芸で社会の抱えている問題をあからさまに取り上げることは、明治の始めの自由民権運動の盛んな頃の「壮士」と呼ばれた周辺の人びとが「演歌」などを歌って人気を取って以来なかったことです。

当時の「演歌」は今の歌謡曲のえんかと違って、「演説」を歌にしたような物で、当時の政府を批判する内容のものです。

当時の演歌師は袴をはき、バイオリンを弾きながら、今聞いて見ると実に不思議な節で(日本人にしみついている音感を西洋の12音階に合わせたもの)当時の政府を批判し、自由民権運動を鼓吹する歌を歌いました。

当然、政府は自由民権運動もそれに同調する言論も厳しく弾圧しました。

讒謗律、新聞紙条例、出版条例、保安条例、集会条例、など様々な法律を作り政治的運動・言論を取り締まりました。

大正昭和に入ると、治安維持法が布かれ、一切の言論の自由はなくなりました。

最初の英国人の落語家、快楽亭ブラックも、興行先で警察につきまとわれたりして、言いたいことを自由に言えなかったそうです。

 

だから、1945年までの芸人が政府や体制批判をすることはありませんでした。

戦争前に、芸人が舞台で「今は昭和の中つ頃」と言って警察にとっちめられたという話しもあります。その当時で昭和も半分というと、昭和の世の残りは少ないことになる、それでは天皇陛下に対して不敬であろう、という理由です。

これでは、とてもやって行けませんね。

 

しかし、最近の芸人はそのような取り締まる法律があるわけでもないのに、「ウーマンラッシュアワー」が取り上げたような話題には一切近づきません。

それも無理のないことで今は国会議員として活躍している山本太郎氏はテレビ番組で原発について批判的に語ったためにテレビ番組を降ろされました。

テレビ局はスポンサーの怒りを買うのを恐れて山本太郎を番組から降ろしたのでしょう。

民間放送はスポンサーあっての商売なので,スポンサーのご機嫌を損ねることを異常に恐れます。実際にスポンサーが怒る以前に自分から引いてしまうのです。

 

そんな中で今回の「ウーマンラッシュアワー」のまんざいは大げさに言えば、自由民権運動以来初めて社会批判をした演芸、ではないでしょうか。

私の友人で自分自身も大学時代に落語研究会に属して高座名まで持っている男の今回の「ウーマンラッシュアワー」の芸についての批評をのせます。ちょっと辛口ですね。

 

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風刺漫画があるように、風刺漫才があっても良いと思います。

 

大昔は、川上音二郎のオッペケペーなんかがありましたし、アメリカやイギリスには体制批判のコメディアンが数多く居ますので。

ウーマンラッシュアワーの漫才は、色々ある漫才のパターンの一つかと思います。

ここ何年も、若者の笑いの質があまりにも変わってきているので、時次郎としてはTHE MANZAIとかM1グランプリを見ても、ただ大声を出す、ただ派手なアクションをするという漫才の何が面白いのか分かりません。(時次郎は本人の高座名です)

ウーマンラッシュアワーの漫才は、「持ち上げておいて落とす」の繰り返しで笑を取るという、よくある(古典的な)パターンの漫才ですが、そのネタが体制批判というだけかと思います。このパターンの漫才は基本的にウケるので…

① 内容を深く知らなくてもテンポとパターンでウケている若者

② 政治ネタを新鮮と感じてウケているそこそこの知識人

という両方の層を獲得しているのでしょうね。

こういうのは出た頃は新鮮な感じがしてウケるのでしょうが、肝心の演者の中味がないと長続きしません。

 

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さて、「ウーマンラッシュアワー」の今後がどうなるか。

たのしみですね。

私としては久しぶりにお笑い界に興味を抱けてうれしかった。

これも良い読者を持ったおかげです。

「ま」さん、有り難うございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雁屋 哲

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