魯山人と美味しんぼ
2016年12月24日に「魯山人と美味しんぼ」と言う本が発刊されました。
小学館 刊 定価907+税
もともと、私は「美味しんぼ」を始める前からに、北大路魯山人の作品と、その料理、書、陶芸についての考え方に深く心を動かされていました。
私と魯山人との出会いはどのような物だったか、私は魯山人のどこに価値を認めたか、私はどのようにして魯山人の料理の哲学に導かれたかを、この本ではまず書きました。
矢張り、どう考えても、「美味しんぼ」は魯山人の影響を強く受けていると私は思います。
と言うより、魯山人の「美」に対する考え方、「食」と「料理」に対する考え方を支えにしなかったら、「美味しんぼ」は海図も羅針盤もなく大海に乗り出した船のように、漂流の果てに沈没していたでしょう。
私は長い間、あちこちと食べ続けて、結果として私が完璧であると思った和食の料理人は、この本に登場して頂いた、佐藤憲三、徳岡孝二、西健一郎、の御三方なのです。
この本の御三方の並び順は、こういうことにうるさい人がいるので、いろいろと大変だったのですが、私はこの御三方に性格の違いがあっても料理の質は、私の乞い願う通りの「料理は芸術である」という命題をそそのまま表象して下さっている方と考えて、ならび順などとと言うこそくな考えを抱くことはなかったのですが、偶然、佐藤さんが憲三、徳岡さんが、孝二、西さんが、健一郎と言うことで、「三、二、一」で丁度よかったと私の妻に言われて安心しました。
今回発売された「魯山人と美味しんぼ」に掲載されている料理の数々はその食材に一番あった料理法が示されることは勿論、もしかしたから、これから先この食材は手に入らなくなるかも知れないと恐怖を抱かせるほどのもので、二百ページにも満たないものですが、もし本気で日本料理に命を懸けようと思う若い人がいたら、この本で佐藤憲三、徳岡孝二、西健一郎の三氏が見せてくれた料理に一歩でも迫る努力をしていただきたいと思います。
この「魯山人と美味しんぼ」に掲載された、佐藤憲三、徳岡孝二、西健一郎の三氏の料理は日本料理の一つの極限として、今後日本料理を学ぶ人にとっては到達すべき目標となると思います。
この御三方の料理、そして、その料理を支えた魯山人の器。
こんな贅沢な料理の企画はこれから先めったにできないだろうと思うのです。
私は、考えてみれば、飛んでもない贅沢な企画を立てて、それを通してしまったものだと、今になってみれば、寒けがします。
本の内容をざっとご紹介すると、
◎私と魯山人の最初の出会い
◎シカゴの世界的に有名な美術館「アート・インスティテュート・オブ・シカゴ(シカゴ美術館)」を訪ねた時に、偶然、魯山人の陶芸も展示されていたという幸運に出会ったこと。
私は、自分は魯山人の陶芸を芸術だと思っていましたが、世界中の美術品・芸術品と比較してもなお素晴らしい芸術品と言えるのか、それを確かめたいという強い思いに動かされて、世界の美術史上最高の名品を多く集めたシカゴ美術館の最上階から全ての美術品を一つ一つ自分の目にしっかり焼き付けて、その目を持って、再び魯山人の陶芸品の前に立った時の感動。
◎食は芸術なのかということ。
◎私が考えた、「魯山人の料理の大原則」
◎私がこれまでに出会った中で、最高の料理人と考える、佐藤憲三さん、徳岡孝二さん、西健一郎さんに、「魯山人の大原則」どおりで、しかも「芸術品」である料理を作って頂いて、その写真を載せてあること。
◎その料理ごとの、お三方の言葉も載っています。
この本の著者は、私
写真は、安井敏雄さん。
安井さんは、この15年ほど、「美味しんぼ」のための写真撮影に協力してくれています。
その腕前は,この本で、明かです。
香りまで感じ取れるような見事な写真です。
お三方のお話など、本分の構成をしてくれたのは、安井洋子さん。
安井洋子さんも、この15年ほど、「美味しんぼ」の取材に協力してくれています。
私と取材先の人たちとの会話はすべてカセット・テープ(この時代に、まだデジタルでないのがすごいところ)に記録して後で文章に起こしてくれます。
「美味しんぼ」の「日本全県味巡り」も、東北大震災後の「被災地篇」「福島篇」も書くことが出来たのも、この安井敏雄さんと安井洋子さんの助けがあってのことです。
そして、当然、絵は花咲アキラさん。
漫画家は、キャリアが長くなると、「絵が枯れる」と言われるようになります。
最初の頃の勢いやみずみずしさがなくなって、上手なんだろうが何だか生気が乏しくなる。
そういう漫画家は少なくないのです。
しかし、花咲アキラさんはちがいます。
この表紙の絵を見てください。
まず、線がくっきりとなめらかで生き生きとしています。
これだけきれいな線を引ける漫画家は滅多にいません。
そして、山岡と雄山の表情の豊かなこと。
今まで、「美味しんぼ」はテレビや映画に映像化されましたが、その際に一番困ったのは日本の俳優の中に雄山を演じることの出来る人がいないことでした。
私は俳優年鑑を開いて一人一人俳優を見ていったのですが、花咲アキラさんの書く雄山を演じることが出来るだけのすごみのある俳優はいませんでした。
昔、テレビで放映されていた「隠密剣士」という番組で悪役を務めていた「天津敏」ならと思ったのですが、残念ながら、亡くなっていました。
こういう人物を作ることが出来る、花咲アキラさんは凄い漫画家だと思います。
雄山が登場しなかったら、「美味しんぼ」はこんなに人気は出なかったでしょう。
と、まあ、色々な方のご助力を得てこの一冊の本が出来上がりました。
私の料理についての考え、「美味しんぼ」で何を言いたかったか、つたないながらも精一杯書きました。
「まさかの福澤諭吉」とは、まるで違う本ですが、両方ともぜひご愛読下さるようお願いします。