雁屋哲の今日もまた

2014-04-08

RBB! You are great !

4月1日、私は、川崎の等々力陸上競技場に、川崎フロンターレとWestern Sydney Wanderersの試合を見るために、連れ合いと、次女と甥の四人で乗込んだ。

小野伸二選手が2年前に加入して以来 Western Sydney Wanderersのフアンになってしまい、私たちの住む地域としてはSydney FC を応援するべきなのだが、Sydney Cityではなく、Paramatta City に属するWestern Sydney Wanderersを応援するようになってしまったのである。

大Sydney地区としては、同じ地区に含まれると思うのだが、実際には、オーストラリアにイギリス人が住み始めて一番最初に栄えたのが、Paramattaであり、今でも人口重心(一つの地域の人口の稠密度を計る時に使われる用語である。日本全体の人口重心は関東地方になる、と言うのと同じ感覚である)はParamattaだそうで、オーストラリアに移民して来た人たちがまず住み込む先がParamattaのようなSydney全体からすれば、西南部の地域である。

当然Western Sydney Wanderersのサポーターたちは、私の住むSydneyのNorth Shore(Sydneyの北岸、ハーバーブリッジを渡った先である)では、滅多にお目にかかることの無い中東などの非常に濃い人たちである。彼らのかなりの人々が、私には理解できない英語以外の言語で話し合っている。

彼らは背も高く筋肉もモリモリで、日本に来て格闘競技の世界に入ったらたちまちスターになるだろうと思われる体つきである。

そのサポーターをRBBと言う。Western Sydney Wanderersのユニフォームが赤と黒を色調として使っているので、Western Sydney Wanderersと言えば、赤と黒である。

RBBは「Red and Black Block」という意味で、Western Sydney Wanderersのサポーター席のことを言っていたのが、サポーターの名前になった。

小野伸二選手が加入して以来、Western Sydney Wanderersは人気が急上昇した。

私達が2年前に始めてParamatta スタジアムに行き始めた時に比べると、RBBの人数は200人くらいから2000人以上に急増した。

いや、この数は、ゴール後ろのサポーター席に陣取る人間の数から見て言っているのであって、サポーター席から外れたところにも、Western Sydney Wanderersのユニフォームを着たファンが沢山いるから、RBBの実数はその数倍はいると思う。

2年前のParamattaでの試合は、総観客数が6千人などと言うことが普通だったが、いまや、競技場の容量限界の1万6千人が詰めかけるのである。(この競技場はサッカーとラグビーに特化した競技場であって、横浜スタジアムのように、陸上競技用のコース観客席の前になく、観客席の前はいきなりサッカーのピッチなのでその肉迫度、体感度が陸上競技と併用のサッカー場とは、我々観客の興奮度がまるで違う。横浜スタジアムで、中村俊輔選手など、一〇〇メートル以上離れたところでしか見られないが、Paramattaスタジアムでは、10メートル先に小野伸二選手を見ることが出来るのだ。

2年前までは、チケットを取ることなど、数日前でも良い席を取れたのだが、今や事情は違う。

二週間前に売り出してすぐに売り切れてしまう。秒殺、瞬殺の早業で売れてしまう。

私達はサッカーというと家族全員で行く習慣なのだが、六枚続きのチケットを取ることが難しくなってきた。

もう最近は、コネに頼って入手するしか無い状態だ。

このような、熱狂的なWestern Sydney Wanderers人気を引き起こしたのは全て小野伸二選手である。

サッカーは一人だけ優秀でも、絶対に勝てない。

と、同時に一人天才が入っただけで、チームの動きががらりと変わる。

ParamattaのWestern Sydney Wanderersという田舎チームが、小野伸二という世界的な天才プレイアーを得て、チーム全体が1段どころでは無く、5段も10段も成長した。

小野伸二がいると、チーム全体の動きがまとまるのだ。

これは全く不思議で、小野伸二選手がいないと、Western Sydney Wanderersは、みんなで何をしているのか、何をして良いのか分からない状態になる。

小野伸二選手がいなくなるとチーム全体を統率する要となる選手が、Western Sydney Wanderersにはいなくなる。

今年で、小野伸二選手の契約は切れて、小野伸二選手は、コンサドーレ札幌に移籍してしまう。

小野伸二選手がいなくなった後、Western Sydney Wanderersはどうするのか、これは厳しい話で、単にWestern Sydney Wanderersにとどまらず、オーストラリア全体のサッカー界に取って重大な問題である。

オーストラリアのサッカー協会、Football Federation Australiaにとっても、深刻な問題だろう。

もともと、オーストラリアではサッカーの人気は低かった。

オーストラリア人はとにかくマッチョマンが高く評価される風土で、 ラグビー、オーストラリア式フットボールに比べると、サッカーは肉体的にぶつかり合うことが少ないといって(これは、大いなる誤解なのだが)、サッカーは弱虫のするスポーツと言われてきた。

オーストラリア人が熱狂するのは、ラグビーが一番、ついで、オーストラリア式フットボールという、奇怪なルールのラグビーとサッカーの中間のゲームである。(クリケットも人気があるのだが、私は何度見てもあのゲームの何が面白いのか、さっぱり分からないので、言及しないことにする)

二つとも、体に力の余っている者同士が、如何にその力を無意味に発散するかを競うゲームであり、ラグビーに至っては日本の相撲取りのような体の大男たちが、ただぼこぼこぶつかり合って、押し合うだけの競技で、相撲の持つあのスリリングな技の掛け合いなど無く,ひたすら押しまくるだけの力比べなのでラグビーを見ると、そのあまりの単調さに腰が抜けるほど驚く。

 

そのオーストラリアのサッカー界に突然登場したのが天才小野伸二である。

小野伸二選手が所属したWestern Sydney Wanderersは全く勃発的にと言って良いほど、人気が発生し、多くのファンが集まった。

私はこの現象を前にして、如何に天才的なプレイアーが人の心を掴むのか理解した。

 

で、私はWestern Sydney Wanderersのファンになったわけだが、そのWestern Sydney Wanderersが川崎に戦いに来るとなっては、これは放っておく訳には行かない。

恐るべき事に、川崎フロンターレのメインスタジアムは工事中というといことで、正面スタンドが完全につぶれている。

チケットを発売直後に購入しようとしたのだが、まず、指定席が手に入らない。

仕方がないので、7時キックオフの試合なのに、5時半にスタジアムに到着して、良い席を選ぼうとした。

ああ、それでも遅かったんだよ。

正面の一番良い席は、どう言う訳か、タオルとか、何かビニールの包みとかで押さえられていて、近寄れない。

そんなに早くついたのに、向こう正面の向かって右のゴール近くの席しか取れない。

悔しいけれど仕方がない。

その席から見ると、RBBの席が左手ゴール奥に見える。

ところが、その席に殆ど人がいないのである。

しばらく、待っていたが、試合が始まるというのにRBBの席に人がいない。

私は、これではならじ、と思ったね。

一緒に来ていた次女に交渉させて、どうせ自由席なので、RBBの場所に移って良いと会場係員に許可を得たので、Western Sydney Wanderersのサポーター席に、移動した。

だって、Western Sydney Wanderersの選手達が試合をするのに、何時ものような応援がなかったら力がそがれるではないか。

少なくとも、私達一家で、応援してやらなければならないと使命感に燃えたのだ。

ところが、キックオフの十分前くらいに、突然聞き慣れたやかましいというか吠え声が会場に鳴り響いた。

「来たかっ」と思ってみていると、RBBの一聯隊がWestern Sydney Wanderersの横断幕を掲げて入場して来るではないか。

それ以前に、私の連れ合いは、「RBBの連中はバスを仕立てて来るはずだ。そのうちに、バスが到着すれれば連中は現れるわよ」と言っていたのだが、その通りになった。

私は、何時ものWestern Sydney Wanderersの試合を応援しに行くときとの興奮が呼び覚まされて、ぐわーっと良い気分になった。

RBBの人間は体が大きい、声が大きい。

体は容量で言うと日本人の1・5倍はあるが、声の大きさは3倍以上である。

私は、Western Sydney WanderersのホームであるParamatta競技場に行くときには、必ず、耳栓を持って行く。耳栓をはめないと、連中と観客の騒ぎで頭が痛くなるのだ。

RBBもうるさいが、観客もRBBに合わせて騒ぐ。

耳栓無しでは、頭がおかしくなる。それくらい、連中は騒ぐ。

とにかく、オーストラリア人の声の大きさと来たら世界的に悪名がとどろいている。

その日、等々力陸上競技場に来たRBBは100人ほどだろう。

それでも、うるさかった。

それに対してフロンターレのサポーター3000人以上いたと思うのだが、耳栓が必要なほどの騒ぎはなかった。

私は、RBBの途方もなくうるさいWestern Sydney Wanderersに対する応援の歌声を聞いていて、なんだか、とても幸せな気持ちになった。

小野伸二選手が退団したら、Western Sydney Wanderersともお別れだなと思っていたのだか、RBBの連中を見ていると、「よし、次のシーズンも、Western Sydney Wanderersを応援しに行こう」と思ってしまった。

 

試合は、ご存じの通り、フロンターレが2対1で勝った。

後半、私達がいる、Western Sydney Wanderersの側に全然ボールが運ばれなかった。

私達は目の前で、小野伸二選手のコーナーキックが見られると期待していたのだがそれどころではなかった。

私達は、遠く、反対側のサイドで展開される試合を見ているだけだった。

もともと、Western Sydney Wanderersのディフェンスはひどくて、シドニーの新聞でも「高校生のディフェンス」と酷評されるくらいで、フロンターレ戦でもあのままで2点ですんだのが奇跡と言うくらいで、5、6点取られても仕方のない戦いだった。

今回のような、リーグ戦のチャンピオンシップを争うゲームは国籍に関係しないので、とても楽しかった。

私はWestern Sydney Wanderersのファンであって、ワールドカップで日本を応援する自分とは別人なのだ。

で、今回考えたのだが、国籍別のワールドカップはそろそろ止めた方が良いと思う。

おかしなナショナリズムがサッカーという素晴らしいゲームにつきまとうのは我々の叡智で断ち切って、ワールドカップもチーム単位のゲームに持って行くべきだと私は考える。

ナショナルチームなどと言う考えは、くだらない。

もともと、サッカーというのは、殺した相手の頭を都市国家である相手の陣営に蹴り込むことから始まったと言われるくらいに、地域性の強いゲームである。

こう言う性格をのこすか、地球人全体が楽しめるゲームにするか。

21世紀のサッカーは、もっと、アンチ・ナショナルな、インターナショナルな形にしたい物だと思う。

サッカーのような素晴らしいゲームをナショナリズムで汚してはいけない。

今回、フロンターレを敵にし、Western Sydney Wanderersのユニフォームを着ながら観戦して、心から、サッカーをインターナショナルにするべきだという思いが突き上げてきた。

雁屋 哲

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