雁屋哲の今日もまた

2009-06-17

ああ、負けちゃった!

 畜生! 畜生!
 わあ、わあ、わあーっ!
 口惜しいっ! 口惜しいっ! 口惜しいっ!
 これを百万回喚いても、私の口惜しさは収まらない。
 今夜、メルボルンで行われた、サッカーのワールドカップ予選で日本がオーストラリアに負けたのだ。
 私は、テレビの前に座り、私の愛する中澤の名前を記した、日本の公式ユニフォームを着て、もう、命がけで応援した。
 前半、上手く、闘莉王が頭で入れてくれて、1−0で終わった。
 何とか、後半も上手く進めて欲しいと思っている内に、後半に入るとオーストラリアに2点も入れられてしまった。
 この、口惜しさは骨身にしみる。
 なまじ、私がシドニーに住んでいるからこそ、口惜しいのだ。
 ああ、明日から、オーストラリア人に会うごとに、奴らに、なんやかやと言われるのだ。
 日本にいるのとは違うぜ。
 こっちは、オーストラリアに住んでいるんだ。
 畜生!
 明日、例えば肉屋に行けば、肉屋がにやにやして、「へっへっへ」という。
 八百屋に行けば、「いやあ、残念でしたね」とにやにやする。
 ああ、この口惜しさ!
 でもね、試合を見ていて負けるのは当たり前だと思った。
 選手の運動量が全然違う。
 日本の選手は子供みたいだ。
 体の大きさの問題ではない。
 エネルギーが違う。
 ここぞという、絶対間違いないと言う場所でシュートして、そのシュートがゴールの遙か上にふらふらと力なく飛んでいく。
 あるいは、相手に軽く止められてしまう。
 もう、私のような愛国者にとっては、死んでしまいたいくらいの悲しさだ。
 なんで、日本の選手は走れないんだ。
 大事な所で突っ込めないんだ。
 今夜は最低だ。
 精神安定剤と、睡眠薬を飲まないと、寝られない。
 口惜しい、口惜しい、本当に口惜しい。
 長い間患っていた鬱病が一気に悪化した。

 私は、フランス大会以来、日本の出場するワールドカップには必ず行っている。
 日本が勝ったのを見たのは、日韓共同開催の、大阪会場の時だけだった。
 フランスでは、クロアチアに負けた。ドイツでは、クロアチアと引き分けた。
 私は、それ以来、クロアチアという名前を聞くと理性が曇る。
 勿論、クロアチア人に対して何も悪いことはしない。悪感情も抱いていない。
 しかし、サッカーに関してだけは、クロアチアは許せない。
 そして、許せないのが、オーストラリアだ。
 もう、私の我慢も限界が来た。
 こんな国にはいられない。そろそろ、オーストラリアを離れよう、と言ったら、子供たちに笑われた。
 次にオーストラリアに勝つまで待てばよい、と言う訳だ。

 しかし、今夜は口惜しくて、睡眠薬を飲まなければ、とても眠れない。

 ああ、口惜しい、口惜しい、口惜しい、悲しい、悲しい。

 本当に口惜しいんだよっ!

 誰か、この口惜しさを分かってくれないか!

雁屋 哲

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