雁屋哲の今日もまた

2009-06-12

辻井さんおめでとう、それにしても

 アメリカのテキサスで行われた、バン・クライバーン国際ピアノコンクールで、日本の辻井伸行さんが優勝した。
 本当におめでとうございます。
 辻井さんは全盲で、一歳半からピアノ練習を始めたという。

 ところが、その件で、私達六年二組の掲示板が騒ぎになっている。

 同級生の一人が、次のように書き込んだ。

「その辻井さんに 新聞記者が質問をして答えを書いていました。
 その質問は、
『一日だけ目が見えたら何がみたいですか??』
『両親の顔がみたい!』と答えが返ってきた・・・って書いてあるのよ!!!!

 どう思います!!!
 どうかしてない この新聞記者!!!!!
 おおばかやろう!!!! じゃない!!!!!」

 断っておきますが、この同級生は、とても上品な女性です。
 彼女が「おおばかやろう」なんて言葉を使うのは初めて見ました。
 そんな言葉は口にしたことのない女性です。
 その彼女がそれだけ激高した。

 私も含め、他の同級生たちも、怒った。
 なんと言う新聞記者だ。
 なんと言う無神経な質問をするのだ。
 新聞記者以前に、人間として最低だ。
 私達の掲示板に怒りの渦が巻いた。

 当然だろうと思う。
 辻井さんが、楽譜を見ることなしに、あんな複雑な曲を全て覚えてしまうその超人的な能力と、そのすさまじい努力に、それだけで、もう私のような怠け者は頭を上げられない気持ちがするが、そんな新聞記者のような無神経な質問にも怒らず素直に答えたところが、辻井さんは人間的に大きいと思った。
 それに引き替え、そんな質問をした新聞記者のなんと卑しいことか。
 本当の人間の価値なんて事を考えたことがないんだな。
 その新聞記者は、顔の真ん中に、ガラス玉状のものが二つついているが、それは、何も真実を見ることの出来ない、クズの石っころだ。

 最近、新聞記者や、テレビの記者・アナウンサーの質の低下が問題になっていて、今や「マスコミ」ではなく「マスゴミ 」でと言われているが、この新聞記者も、こんな記事を通した編集長も、「マスゴミ」の一員だ。

 この新聞社は、かつて、佐藤栄作が総理大臣の時に、沖縄に核を持ち込む秘密協定をアメリカと結んだ、と言うスクープをものにして、大騒ぎになった。
 佐藤栄作にとっては命取りだし、日米安保条約も危うくなる。
 ところが、権力(官僚)の力は凄い。
 スクープをものにした記者は外務省の女性職員からその情報を得た。しかも、男女の情を通じて得たという話を流した。
 たちまち、他の新聞もテレビも、肝心の核の持ち込みはそっちのけで、新聞記者と外務省の女性職員の「男女の情」についてわいわい騒ぎだし、結果的に、「核の持ち込み秘密協定」はうやむやになり、スクープをした新聞記者と、外務省の女性職員が処分を受けて幕が下りてしまった。
 当時、私は学生だったが、あまりのことに、呆然となった。
「核の持ち込み」は真実なのか、どうなのか、その追究は全くなされず、スクープをした新聞記者と外務省の女性職員について、浅ましい憶測記事やニュースだけが日本中を席巻し、佐藤栄作は勝ち誇って「うん、うん、そう言うことなんだよ」などとほざいて一件落着した。
 更に驚くべき事は、それ以来、その新聞の部数が激減したことだ。
 いったい、日本人はどうなっているんだ。
 真実を追究しようとした新聞記者を返って悪者に仕立て上げる、官僚の悪質な手にころっと丸め込まれ、自分たちで真実を追究しようという気概がない。
 こんな国が、民主国家であってたまる物か。

 それ以来、私はその新聞をひいきにしてきたのだが、ああ、その新聞でさえ、辻井さんについて、そんな記事を載せるのか。

 なんてことだ。
 貧すれば鈍するとはこのことか。

雁屋 哲

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