雁屋哲の今日もまた

2008-12-08

「嫌韓・嫌中」について その4

〈「雁屋哲の食卓」に「ピピーの焼きそば」を掲載しました〉

さて、「嫌韓・嫌中について」を再開しよう。

何故私が「親韓・親中」を貫くか。
それは人間としての誇りを持って生きたいからだ。
今の日本で「嫌韓・嫌中」を選択することは、人間としての誇りを失うことだと、私は信じている。

少し前に、このページの「お問い合わせ」に次のような投書が来た。
典型的な「嫌韓症状」を呈していて、「嫌韓」の本質を見るのに役に立つので、ここに掲載する。
この方の個人的な内容は含まれていないので、プライバシーの損害にはならないと考える。
(なお、今後も、このように掲載される恐れがありますので、掲載されるのが困る方はそのようにお書き添えください。また、フリーメール、あるいは偽のメールアドレスからの送信は、今後自動的にはじくように設定しましたので、「お問い合わせ」に投書される方は、こちらから返信可能な信頼できるメールアドレスから送信してくださるようお願いします。
私と読者諸姉諸兄との間の信頼関係を保つためです。ご理解下さい)

その方の投書は次の通りである。

> 雁屋先生初めまして。
> 歴史を専攻した者です。
> さっそくですが、先生のおっしゃる「親韓」とは何ですか?
> 日本人は永遠に韓国人には頭が上がらないのでしょうか?
> 韓国は日本と違い永遠に人を許さないという文化を有し、政府主導で反日教育を行っています。
> 竹島に関しても、幼い子が独島の歌を歌う。
> 歴史に関しても韓国が有利になるような数々の捏造があります。
> ご存知でしたか?
> 先生は韓国の新聞を見て驚いてるようですが、最近知ったのでしょうか?
> 失礼ですが、先生はちょっと韓国に対して無識です。
> 朝鮮人強制連行も分かっているのは200人程でほとんどが朝鮮からの出稼ぎです。
> 慰安婦強制説も信憑性がありません。
> 私は初め韓国を好きでしたが、韓国を知るにつれ嫌いになりました。
> 彼らが変わらなければ。
> しかし韓国政府、メディアが反日を煽って政治利用しているので当分無理です。
> 彼らは反日が生きがいなのです。
> 日本人がアメリカを恨んでいないのはなぜか分かりますか?
> 日本は親米教育だからです。
> 生まれつき植え付けられた韓国人の反日感情は簡単にはなくなりません。
> 先生はもっと勉強されて下さい。
> にわか仕込みの素人韓国論をマンガで展開しないでいただきたいです。
> 何も知らない子供に有害です。
> いくつかURLを貼っておきます。
> 今後の参考にされて下さい。

この人はのっけに、「歴史を専攻した者です」と書いている。
「専攻」という言葉は通常高校以上の教育課程でその学問を専門に学んだ事を意味する。
しかし、この人のそれに続く文章のあまりの幼稚さ、程度の低さから見て、到底「歴史を専攻した人間」とは思えず、これはいわゆる「煽り」と称される投書であって、まともに相手にしてはいけないと考えるべき物だろう。(中学生あたりの書いた文章に見える)

だが、日本で出されている本や雑誌の中に、有名作家や、大学教授を名乗る人で、この人と同じような程度のことを書いている例が多いので、敢えて、この投書を取り上げることにした。

私は、今の日本で「嫌韓・嫌中」を選択することは人間としての誇りを失うことだ、書いたが、この人の書いた文章を読むとその感をますます強くする。

この人は、
「失礼ですが、先生はちょっと韓国に対して無識です。朝鮮人強制連行も分かっているのは200人程でほとんどが朝鮮からの出稼ぎです」
と書いている。(この「無識」という言葉は夏目漱石あたりが使っている言葉で、最近使われることはあまりない。私は、この人を中学生くらいかと思ったが、もしかしたら、老人なのかも知れない)

今、私の手元に「神戸学生青年センター出版部」刊行の、「1991朝鮮人・中国人・強制連行・強制労働 資料集」がある。
これは、主に1990年3月6日から、1991年6月11日までに、殆どが日本で発行された新聞記事を複写して集めた物である。
複写機で複写しただけで、編集した人の意見などは一切書かれていない。正に新聞の切り抜きを集めたような物で、その分客観性がある。
わずか一年ちょっとの間に、日本各地で、朝鮮人と中国人の強制労働に関する記事が、様々な新聞に掲載されていることに、私はまず驚いた。
北海道から九州まで、全国で朝鮮人と中国人の強制連行と強制労働が記録されているのである。
炭砿で働かせ、地下工場で働かせ、松代の大本営の地下壕で働かせ、と手当たり次第、朝鮮人・中国人を連行して強制労働をさせている。
(第二次大戦末期、軍は大本営と皇居を長野県松代に移す工事を実行した。それに使われたのは多くの朝鮮人と・中国人たちだった。松代大本営は完成前に日本が降伏し、今では歴史資料として公開されている。)
ちょっと調べてみると、まさかと思うような県にも、強制連行と・強制労働の記録が残っている。

私は十数年前に、日本軍に捕らえられたオーストラリア兵の日本における待遇を調べるために、オーストラリアのキャンベラの、オーストラリア戦争博物館を訪ね、そこの資料室で様々な捕虜たちの残した記録を読んだ。
その中で一番多かったのは、自分たちが日本軍から、残虐な待遇を受けた記録だったが、同時に、九州の炭砿で強制労働させられたオーストラリア兵は、自分たちと一緒に、強制連行されてきた朝鮮人と中国人がそれこそ奴隷に劣る状況で無惨な強制労働をさせられていたことが記されていて、そんなことを予想もしてなかった私は、激しくたじろいだ。
日本政府による、朝鮮人・中国人の強制連行、強制労働を否定する人達は今でも少なくないが、まさかオーストラリア兵がその証言をするとはその人たちには思いも寄らぬ事ではなかったか。正に思わぬ所に伏兵あり、である。

日本でも、官僚の上層、政界の上層部、大会社の上層部あたりの地位に足が掛かると人々は突然、舌がねじれてしまい、まともなことを言えなくなるようだが、新聞に登場する普通の人達は率直に事実を物語る正しい心を失っていない。
多くの日本人が、朝鮮人・中国人を強制連行して強制労働させたことに対して、申し訳のないことをしたと、罪の意識を持っておられる。
さてこの資料集に、幾つかの記事がある。

☆その1、「神戸新聞 1991年3月6日」

「労働省は、約9万人分の強制連行者の名簿の写しを外務省を通じて韓国大使館に手渡した。
これは、米戦略爆撃調査団がまとめた連行数66万7千6百84人の13パーセントにとどまり、韓国政府や韓国世論は満足していない。」

☆その2、「神戸新聞 1991年9月11日」

「国立国会図書館に保存してあった特高作成資料で、強制連行朝鮮人は24万人に上ることが、日本辯護士連合会と、朝鮮総連で組織する『朝鮮人強制連行真相調査団』の調べで分かった。」

☆その3、「毎日新聞 1991年5月23日」

「昭和十八年に当時の厚生省健民局が作成した文書が発見された。中には『強制連行した朝鮮人の契約期間終了後も、戦時下で生産能力増強のため日本国内で働かせる必要がある』とも記された文章が付け加えられている。」

書き出すときりがない、日本各地にこのような例無数にがある。

これらの例はすでに歴史的に確定した事実である。

この人の書いてきた「200人程度で、ほとんどが朝鮮からのでかせぎです」と言うのは、一体何なのだろう。
もう20年も前に明らかになった事実なのに、この人はいまさらなにを200人程度などというのだろう。

好意的に見て、無知(その人風に言えば「無識」)と言うことになるが、「歴史を専攻した者」がこの程度の基本知識を持っていないことは、信じられないことだ。
この程度の基本的な知識も持たずに、歴史について、他人に語ること自体、無知を通り越して犯罪的である。真実を損なうからだ。
知っていて、こんな事を言うとしたら、それは嘘つきか、デマを飛ばして人を扇動しようとする人である。
無知も、嘘つきも、デマを飛ばして人を扇動する人間も、恥ずべき存在である。
人間としての誇りを失っている。

この人は「日本人は永遠に韓国人には頭が上がらないのでしょうか?」
と書いている。
どうしてこの人は「日本人は韓国人に頭が上がらない」と考えているんだろう。
人の深層心理というもは、思わぬ片言隻句に表れる物で、この人はこんな事を言う事で、自分自身、気がつかないうちに心の底で「韓国人に頭が上がらない思いをしている」心理状態を示してしまっている。

この人が、心の深いところで「韓国人に頭が上がらない思いをしている」理由は、韓国人に対する罪の意識を深く持っているからだろう。
この人の文章の特徴は、「韓国人が反日的である」事を強調するだけであって、どうして韓国人が「反日的」になったのか、その原因を少しも書かないところである。

本当に「歴史を専攻した者」であれば、十九世紀から、日本が朝鮮に対してどの様なことをしてきたか、知らないはずがない。

日本が朝鮮・韓国、そして中国どんなことをしてきたか、そんなことを今更ながら復習するのは馬鹿らしい話だが、この投書を送ってきたような人が日本には少なからずいるようなので、馬鹿らしいと、高みの見物にとどまらず、馬鹿馬鹿しいことは一つ一つしらみつぶしにいていかないとならないと思う。
ああ、こんなに、辛いことはないのだが、乗りかかった船だ。
愚者を愚者とを罵るだけではだめで、悪質な愚者に誘われかねない、無垢な人のために、きちんとしたことを書いていかなければならないと思う。

ここから先は、日を改めて書くことにする。

雁屋 哲

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