雁屋哲の今日もまた

2009-05-12

環境問題

 三月の中旬に日本へ戻って以来、一月半ぶりにシドニーに帰ってきた(戻ると、帰ると、この二つの言葉の意味の深さが私の心を傷つける。私は、いったい何者だ。私は、国際的な浮浪者か)

 日本では、環境問題の集材に加えて、「美味しんぼ」の「日本全県味巡り」和歌山県篇の執筆に時間を取られ、生きた心地のしない日々を送った。
「美味しんぼ」の「和歌山県篇」が読者の皆さんに受け入れていただければ有り難いのだが、さあ、どうなることだろうか。

 それに加えて、今度は、環境問題を「美味しんぼ」で書こうと思っている。
 厳しい取材を重ねて、日本環境破壊の実態の一端を掴むことが出来た。いや、一端などというお粗末な物ではない。日本の環境破壊の根源を掴んだと思う。

 なんで、漫画で、こんな面白くもない題材を扱わなければならないのか。漫画というのはもっと面白おかしい物を読者に提供して健全な娯楽として存在するべきなのではないか。
 私の漫画の書き方は間違っているのではないか。
 そうは、思うのだが、こう言う題材を扱える漫画は他にないので、支持してくださる読者諸姉諸兄をあてにして、こんな漫画を書き続けている。

 私は日本の未来に何とか光を見いだしたいと思う。
 こう言う時に、本当の「愛国者」はどんな物か、はっきりする。
 無闇に、他国を攻撃的し、自分の正しさを強調することで自分の虚栄を充たすだけの人々が「愛国者」を名乗ることが最近多すぎる。
 自分自身に自信を失うと、精神的に余裕がなくなり、その不安を外国人攻撃で紛らわせようとする。
 これは、世界史を見れば、みんな同じことをしている。
 そして、そのような、外国人排斥を行った国は全て滅びてきた。

 人類は、科学的な進歩を飛躍的に推し進めた十九世紀以来、非常に攻撃性を増した。
 もともと、人間の歴史を見ると争いと戦いの歴史ばかりで、人間の本性はお互いに戦いあい傷つけあう物であるのかと悲観的になるが、科学の力を利用できるようになると、その攻撃性が一層増大して、戦場に赴く人間は、一昔前なら異常な殺人鬼と呼ばれるような人間でなければ勤まらなくなった。

 その行く先は人類の滅亡である。
 むかし、人類の滅亡というと、SFの空想物語として語られた。
 しかし、今は違う。
 原子炉が、一つ、二つチェルノブイリ状態を起こしただけで地球は滅びる。
 愚かな指導者が、核兵器を、どこかに使用しただけで、地球は滅びる。
 最近の、科学の調査の教えてくれることは、地球の今の環境はまるで奇跡的に出来上がった物で、危うい釣り合いの上に成り立っている、と言うことである。
 わずか、一部分の綻びが、全体の釣り合いを破壊する。
 地球全体が全く奇跡的に出来上がった生き物の連鎖の結果であり、その連鎖の一つながりが壊れるだけで全ての構成が崩れる。
 地球は実にか弱い生き物なのである。
 永遠に頼りになる大地、なんかではないのである。

 こんな時に、人々が争いあってどうする。
 環境の保全を図ることと、世界から戦争や争いを失くすことは同時に進めなければならないことだと、深く理解した。

 大きな課題だ。
 私は、次世代の人間、三十代、二十代の人間に期待する。
 というより、脅かしておく。
 幸いなことに我々は、地球の最後を見ないですむかも知れないが、君たちはこのままでは絶対に、地球の最後に直面して惨めに苦しむぞ、と。
 だから、今何とかしなければならないんだ。
 今回の辛い、辛い取材を通して、そのことを痛感した。

 ああ、私だって、のんびり楽しく生きたいよ。
 文句ばっかり言っている人生はいやだよ。
 だから、頼むから、私に文句を言わせるようなことを、しないでくれよ、と官僚や、ゼネコンや、政治家に言ったところで聞きやしない。
 では、破滅するしかしないのか。
 そこで、必要なのが、我々市民の力だよ。
 しっかり、事実を受け止めよう。
 地域のボスの圧力なんかに負けるな。選挙で自分の意志を示そう。
 自分の子供がちゃんと生きて行ける環境を残すことが出来なくて自分が親だなんて威張るんじゃない。
 我々は、かろうじて生きて行けても、私の子供たち、孫たちはどうなる。
 党派制を越えてこれは考えて貰いたい問題なのだ。
「美味しんぼ 環境篇」を是非お読み下さい。

雁屋 哲

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