福島第一原発の汚染水漏れ
ちょっと長い間、この頁から遠ざかっていたが、その理由を話し出すと長くなるし辛いので、それは省いて、不在はなかったことのようにしてこれまでの調子のまま書くことにする。
で、またまた、福島第一原発の話である。
私は4月5日に福島第一原発の敷地内に入った。
入ったと言っても、東電が仕立ててくれた小型バスに乗って敷地内を回るだけで、バスから降り立つことは許されなかった。
それでも、実際にこの目で原発敷地内を見ることの意義は大きかった。
一番心を打たれたのは、大勢の人々が原発が安全にこのまま収まるために力を尽くしていることだ。
東電の職員の方たちを始め、作業員の方たちが、私から見れば献身的と思える仕事をされていることに、深い感銘を受けた。
ただ有り難いとしか、原発で働いている方たちに言う言葉はない。
日本を破滅に追い込む可能性もある今回の不始末の責任は東電本社の首脳陣にある。
補助電源を津波に備えて高いところに移す案を費用がかかるからと採らなかったことなどその最たるものだ。
先頃亡くなられた吉田前第一原発所長や、週刊朝日に連載されていた「最高幹部」の話を読むと、遠く離れて東京にいる東電の首脳陣は福島原発の実際に疎いように思える。
今回明らかになった重大な汚染水漏れの問題も、現場の責任ではない。
タンクの構造自体がやわだったからだが、請負った業者は東電が費用を抑えたので仕方がなかったと言っている。
作りを見て驚いたのだが、鋼板をボルトで留めて鋼板と鋼板の間にパッキングをいれて水の漏れを防ぐ形になっている。
ちょっと待ってくれ、そんな簡易の作りのタンクがいったい何年保つと言うんだ。
原子炉という物は、安全に何事もなく何十年かの運転を終わって、更にまた何も問題なく廃炉の過程を進めても最低で30年かかる。
それが、福島原発のように、メルトダウンした燃料が今どうなっているのかも分からず、冷却装置も働かない状態では、完全な廃炉状態に持って行くまでに30年では収まるまい。
汚染水処理システムが水漏れのために使えず、原子炉を冷却するために掛け続けている海水の汚染を除去できないので海に流せない。
仕方がないのでタンクを作ってその汚染水をため込んでいるわけだ。
いや、その汚染水処理施設という物(ALPS)も、最初聞いたときにはこれで汚染水問題は片付くと期待したのだが、なんとALPSは例え完全に動いたとしても、60種類ほどの放射性物質は取り除けるが、トリチウムだけは取り除けない(原子力規制委員会の文書から)。
福島原発に溜まる処理水には排出が認められる法定限度の38倍のトリチウムが含まれている(2013年3月10日、東京新聞)。
東京新聞の報じたこの数字が正しいなら、ALPSで処理してもそのトリチウムは取り除けず残るとなると、結局汚染水は海に流せないではないか。
これを知ったときには、私は力が抜けた。
さんざん、除染装置だなどと、気を持たせておいて、一体それは何なのか。
結局汚染水は何をしても海に流せず、タンクにためるしかないではないのか。
となると、この汚染水は何十年間も海に流せない。トリチウムの半減期は12.32年。今の汚染水の中のトリチウムの放射線量が法定限度にまで下がるまで何年掛かるか、閑な方は計算してみてください。
そのタンクがこんなにやわな作りでは、とてものことにそんなに何年も保つわけがない。製造した会社は、「タンクは工期も短く、金もなるべく掛けないで作った、長期間耐えられる構造ではない」と言っている。
そんな物、なんの役に立つと言うのか。
一体東電の首脳は何を考えてこんなやわなタンクを作ったのだろう。
それとも、トリチウムの汚染くらいは無視して、法定基準の38倍の汚染水を海に流してしまおうというのだろうか。
4月5日に原発敷地内入って驚いたのは、そのタンクの数である。
以前、新聞の写真や、テレビの映像などで見た情景とは大違い。
タンクが敷地内にびっしりと言って良いほど立ち並んでいる。
毎日大量に掛け続けている海水を海に流せないから、それをためておくタンクをどんどん増設しなければならないのは当たり前の話なのだが、それにしても、実際にあのすさまじい数のタンクを見た時にはたじろいだ。
今回タンクが水漏れを起こしたのは地盤沈下による物だという。
最初に設置した場所で地盤沈下が起きたために解体・移設し、使い回した物で、地盤沈下によって鋼材がゆがみ、接合部から漏洩した可能性がある、と東電は認めている。
原発が簡単に地盤沈下するようなもろい地面の上に建っていると言うことがそもそも根底から間違っている。
東電の提供した写真をみると、設置されたタンクの基礎部分の地面に地盤沈下でひび割れが入っているのが分かる。
一つ一つのタンクは、しっかりした基礎を打ってその上に建造するのではなく、地面の上にのせてあるだけだ。
実に安易なやり方ではないか。
簡単に地盤沈下するような土地であれば、地震が起きたらどうなるか。
やわな地盤の上にやわな作りのタンク。
ちょっと大きな地震が福島原発を襲ったら、あんなやわなタンクはひとたまりもない。倒壊するか、倒壊しないまでも、鋼板がずれて中の汚染水は外にあふれ出るだろう。
毎日増え続けて8月末で1000基あると言うタンクの中の汚染水が原発敷地内にあふれ出たら、これは一巻の終わりだ。
この間に漏れた汚染水は300トン。
この汚染水は一リットル当たり8000万ベクレルの放射性物質を含んでいる。
1トンは1000リットル。
で、計算してみよう。
300×1000×8000万ベクレル=24兆ベクレル。
これは恐ろしい。
京都大学の小出裕章氏は「広島の原爆の放出した放射能は24兆ベクレルだ」と言う。
タンク1基は1000トンの容量である。1つのタンクの汚染水の3分の1だけで、広島原発に相当する放射性物質を含んでいる。
8月末現在で、タンクで保管している汚染水の総量は43万トンと東電は言っている。
これが地震で1000基あるタンクが幾つも壊れて汚染水が外にあふれて出たら、これはだれも手も足も出せない状況になる。
高濃度の汚染水につかった敷地には人が立ち入れない。
人が立ち入れなければ、現在続けている原子炉の冷却作業も続けられない。
冷却を続けなかったら原子炉はどうなるか。
メルトダウンした燃料も問題だが、例えば4号機の使用済み燃料はどうなるか。
久木田豊・原子力安全委員会委員長代理(2011年3月当時)は「燃料が溶けて、さらに火災が起こってプールの底が抜けてバラバラっと燃料棒が落ちていく。それが最悪」と言っている。
そうなると、ますます原発敷地内に入ることは難しくなるどころか、放射性物質は首都圏まで及ぶという。
東京にも人は住めなくなる。私の家のある神奈川県も駄目だ。
悪いことは次々に重なる。
さらに・・・・・。
この先話を進めていくと、途方もないことになって心も凍えてくるからこの辺で止めるが、実は途方もないことが何時起こっても不思議ではない状況なのだ。
起こりうる事態を考えればこうなると言う理性的な話なのだ。
今の日本は、福島原発に関しては、感傷におぼれていて、理性的に危険を指摘すると、「いたずらに人心を煽ることはやめろ」と言う声が強くなる。
そう言う人は、福島の原発事故が起こる前にも、原発事故の危険性を指摘すると、やはり「いたずらに人心を煽るな」と言っていたのだ。真実を認めることが出来ない人達が、いや、真実を押し隠そうとする人達が、目の前の欲に駆られて、真実を語ろうとする人間を排除し続けているのだ。
福島第一原発に話を戻すと、私は第一原発を見て回って、「何もかも応急処置だ」と思った。
廃炉にするまで30年以上かかるという現実にそぐわない、その場限りの応急処置が取られていると見た。
タンクの数が凄まじい数に増えていることもその1つ。
タンクに汚染水を移送するパイプがもう一つ。
このパイプについては、この頁で、2011年9月19日に、「福島第一原発の汚染水処理施設の現実」として取り上げている。
汚染水移送パイプが何本ももつれるように敷地内をうねうねと這っている状況を、週刊朝日に掲載されていた写真で見て、非常に危険だと考えたのだ。
今回、原発の敷地で実際にそのパイプを見て、私はますます危機感を強くした。
そのパイプは、そこらにある一般に使われているビニールパイプと同じで、放射線に強い特別な材料で作られていると言う物ではない。
私は、これから使用するために準備されている新品のパイプが積まれている所を見たが、肉も薄く、材質もやわな感じで、本当に普通のビニールパイプだった。
以前、雑草がこのビニールパイプを突き破って地面からパイプの上まで伸びて、それで水漏れ事故を起こしたことがあったが、雑草に突き破られるようなパイプを汚染水移送に使うとは、東電はどう言う安全感覚を持っているのだろう。
タンクもやわだし、タンクに汚染水を運ぶパイプもやわだ。
信じられないことだが、一番危ない急所の部分に恐ろしく脆い物を使っている。
東電は何を考えているのか。
今度の汚染水漏れの件から見て、東電はもう自分で物事を解決する能力も気力もないのではないか、と思う。
私が原発に入った直後、地面に掘った汚染水をためる地下貯水槽7基が水漏れしていることが分かって、その中の汚染水をタンクに移した。
その地下貯水槽なる物はどんな物だったか。
地面に穴を掘ってその穴の表面をビニール・シートで覆ってそこに汚染水をためると言う物だった。
ところが、そこに使われたビニール・シートが一般用に使われている物で、放射線に対して特別に対策を施した物ではなく、しかも、シートとシートの継ぎ目から水が漏れた。
それを聞いて、私は「東電にまかせておいては駄目だ」と思った。
たまる一方の汚染水には、私は以前から危機感を抱いていた。
それが現実の物になってしまった。
これから先、福島はいや日本はどうなるのか。