雁屋哲の今日もまた

2011-09-19

福島第一原発の汚染水処理施設の現実

前回、台風12号が各地で猛威を振るっているのを見て、福島第一原発を心配した。
和歌山や愛媛の大雨による被害を知ってから雨雲の移動状況を見ると恐怖を押さえることが出来なかった。
大きな雨雲が福島全域を覆って行くことが明らかになっていたからだ。
和歌山、愛媛を襲ったあの豪雨が福島第一原発地域を襲ったらどうなるのだろ。。
台風12号が過ぎ去って、福島原発に対する被害を聞かないので、ひとまず安心したので、ここで、なぜ私が恐怖を抱いたのか、説明したいと思う。

「週刊朝日」は7月22日号、7月29日号、で2回続きの連載「福島第一原発最高幹部が語る、フクシマの真実」を掲載した。
福島第一原発が今どうなっているのか、政府、東電からは全くその情報が出て来ないので、この連載は貴重だった。
良く「週刊朝日」は微温的だなどと批判される。
私が週刊朝日を1970年代から、定期購読しているというと、社会的に先鋭的であると言われている人に、あからさまに白けた表情で「ええっ、あんな週刊誌を」などと、言われたことが、何度かある。
私が定期購読を始めたのは結婚して両親から独立したからであって、結婚前、実家にいたときも私の家では昔から「週刊朝日」を購読していた。
小学生の頃に、当時有名だった徳川無声が時の有名人相手に対談をする「問答有用」などの記事を愛読した。
「週刊朝日」とはずいぶん長いつきあいで、私が多くの人に「 微温的」だとか「体制順応派」とか「穏健派」とか「プチブル(死語)」などと、揶揄され批判されるのも「週刊朝日」を長い間読んでいて、その影響を強く受けたからなのかも知れない。(「週刊朝日」は、ふざけるな、と怒るだろうね。ほ、ほ、ほ、ごめんなさいですね)

しかし、その「週刊朝日」が、福島第一原発の事故に関しては、よく頑張ってくれているのである。
扇情的な記事で騒ぎ立てる週刊誌ではなく、その中庸を保つ姿勢だからこそ、その福島第一原発に関する記事は、信頼できるのである。

7月22日号、29日号で取り上げられた「福島第一原発の真実」の中で、最初記事の中身にばかり気をとられて、掲載されている写真に対して注意を払わなかったのだが、読み直すと同時に写真を改めて見て、私は、心底震え上がった。
「一体、これは何なのか。こんなことがあって良いのか」
という恐怖が私を包んだのだ。
一体、その写真とはどんな物なのか。

私は読者諸姉諸兄にお見せしたいと思い、「週刊朝日」に、その写真の掲載されているページをスキャンする形でこのブログに掲載させて欲しいとお願いしたのだが、断られた。
「取材源や担当者とも話したが、今回は難しい」という結論だそうだ。

残念だが仕方がない。
私が、スキャンして皆さんにお見せしたいと思ったのは、福島第一原発の汚染水処理の現実の姿を撮した写真である。
写真をお見せできないので、まだるっこしく、真実を伝えるのが難しいが、とにかくやってみよう。
福島第一原発では、原子炉を冷却するために炉内に注水している。
その水は全部熱によって蒸発しきる訳ではなく、汚染水としてたまっていく。
それが限界に近づいて、このままでは海に捨てなければならなくなるので、汚染水処理施設を作った。
その汚染水処理施設を見て、私は震え上がったのだ。
汚染水が貯蔵されるタンクに、汚染水処理施設まで、何本ものホースが繋がれている。
しかし、そのホースは、なんと地面にごろりと転がっているだけなのだ。
ホースは、原発敷地の中を一周4キロに渡って巡らされている。
その途中で、ホースは何本も繋がれている。
しかし、その繋いだ個所は白い土嚢で覆われているだけである。
そのホースは特殊で頑丈で、家庭で使うホースよりは丈夫だそうだが、所詮はホース。
そのような、ホースが、何の耐震装置も、大水対策もされず、地面に転がっているのである。
それも、全長4キロも。
もし、台風12号がもたらしたような洪水に、福島第一原発が襲われたら、こんなホースはたちまちぶち切れてしまうだろう。
そんなことになったら、福島第一原発の敷地内に汚染水が広がって、もう誰も近寄ることが出来なくなる。
遠く離れたところから水をかけることが出来ても、その汚染水はどんどん海に流れ出る。
第一、誰も近寄れなくなったら、これ以上の修復工事は出来なくなる。
本当の破局ではないか。
現実に、7月14日には、その配管が完全にちぎれる事故が起きている。

《読売新聞・電子版から引用》
「 東京電力は14日、福島第一原子力発電所の汚染水処理システムが配管から
の漏水で停止している問題で、ポリ塩化ビニール製の配管接続部が完全にちぎ
れていたと発表した。
 破損部周辺は、放射線量が毎時100~150ミリ・シーベルトと非常に高
く、作業員1人あたり1~2分程度しか作業を続けられない。東電では同日中
に稼働を再開したいとするが、放射線の遮蔽や作業方法について慎重な検討が
必要で、修理の見通しは立っていない。
 水漏れは13日、仏アレバ社製の放射性物質の凝集・沈殿装置で、薬液を汚
染水に注入する配管で起きた。
(2011年7月14日12時32分 読売新聞)」
このときは、一個所だけだったので、何とか処置できたようだ。
しかし、地震や洪水となると一個所だけではすまない。
あちこちがずたずたに、なるだろう。

私は信じられないのだ。
ずさんさにも程度という物があるだろう。
頑丈な金属製のパイプで、きちんと耐震設備・大水対策などが施された配管装置だと誰でも思っていたのではないか。
それが、幾ら家庭用の物より丈夫だと言っても、所詮はポリ塩化ビニール製のホース。
7月14日の事故のように配管接続部で完全にち切れるのだ。
そんなホースが、4キロメートルに渡って、敷地内の地面の上に直接ごろんと転がされている。
私は、台風12号が通り過ぎるまで、生きた心地がしなかった。
9月10日になって、東電がその汚染処理状況を動画で発表した。
それを見ると、「週刊朝日」の写真のとおり、配管が、ごちゃごちゃ地面に置かれている。

それにしても「週刊朝日」はあっぱれだ。
今度は、9月16日号で、今西憲之氏と「週刊朝日」取材班が、福島第一原発の内部に突入した記事を掲載した。
今西氏が、特殊ゴーグルをはめて、完全武装で、福島第一原発の内部に直接入ったのだ。
マスコミの中で、このような直接現場に乗込む取材をしたところが他にあっただろうか。
今西氏の報告は詳細で、同じ完全武装で作業している作業員がどんなに苦しい思いをしているか、きちんと伝えてくれた。「ひどいときには、汗が防毒マスクのゴーグルにたまり、水中にいるよう」だと言う。

また、そこに掲載された写真は、非常に衝撃的で、また、その実際に福島第一原発をその目で見た報告も見事としか言いようがない。
東電、政府がひた隠しにしていた福島第一原発の実状を写真と文章で明らかに見せてくれたのだ。
政府や東電によると、建屋の覆いを作るなどと言っているが、とても、覆いなど作れる状況ではない。
1,3,4号機の破壊状況は凄まじく、特に3号機は、原形を留めていない。
3号機では核爆発が起こったのではないかと、言う人も少なくない。
2号機は外観はまともなのだが、中がひどいのだという。
津波以前に、地震で内部が破壊されたという。

今西氏によれば、4号機の建屋の中で、「頭上から、時折、細かいコンクリートの破片が落ちて来る」そうだ。
また「爆発の影響で燃料プールの強度が充分でなく倒壊の恐れがあるために」作業員たちが補強工事をしているという。
こんな物に、覆いをかぶせてどうしようというのだ。そんなことになんの意味があるのだ。

「週刊朝日」は9月23日号で、更に詳しく内部の状況を報道している。
汚染水処理施設の配管の樣子も、東電が発表した動画より更に詳しく写っている。

図書館などに行けば、「週刊朝日」のバックナンバーは置いてあるだろう。
ぜひ、読者諸姉諸兄におかれては、ご自分の目で、ご覧になるようにお勧めする。
(「週刊朝日」に拍手だ。オーストラリアにいてまでもずっと定期購読してきた甲斐があったと、今回の記事を読んで思った)

台風15号が、太平洋側に接近している。
雨雲の予報では、どうも、福島県全域に雨が降るようだ。
あの、ずさんな配管が、どうか無事でありますように。

雁屋 哲

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