雁屋哲の今日もまた

2010-11-16

ひゃあ、白鵬、がっかり

 今日は、会社勤めの最初の第一日からお世話になった先輩「に」さんの家にお邪魔した。
 横須賀、秋谷の家から出発する際に、「に」さんの家の電話番号をカーナビに入れたのが大間違い。
 後で知ったことだが「に」さんは電話番号を登録していないと言う。
 では、私の車のカーナビは何をしたのか。
「に」さんの家は吉祥寺だが、カーナビが「ここが目的地です」と言って連れて行ったところは三鷹市役所だった。吉祥寺とは大違い。
 そこから、携帯で「に」さんに電話して「に」さんの奥方「と」さんにいちいち道順を教えていただいて、予定より大幅に遅れて、吉祥寺の「に」さん宅についた。
 カーナビなんかに頼らなかったら、私は良く知っている道順なので、もっと早く着けたはずだが、今日は月曜日で環八が込む、カーナビはその混雑を回避する道中を教えてくれるだろう、と思いこんだのが大間違いだった。

「に」さんは、私のために大変な被害を被った人の一人である。
 どう言う訳か、「に」さんは私が新入社員の時から、親切にしてくださって、当時の会社の出欠簿は手書きのサインだったために、私は、毎日遅刻するので、その度に、電話でお願いして、出席簿にサインしていただいていた。
 出席簿にサインしていただくだけでは申し訳ないので、退勤の際に、いつも遅くまで会社に残っている「に」さんに代わって「に」さんの退勤簿に私はサインして差し上げた。
 ただ、そのサインが、ちょっと問題で、「ピッチャーが、投げました。左カーブ、右カーブ、真ん中通ってストライク、応援団長がチャッチャッチャッ」と言う奴を毎日「に」さんの退勤簿に書いたのである。
 ついに総務課がたまりかねて「に」さんに「『に』」くん、いい加減にし給え」と文句を言って、「に」さんははじめて自分の退勤簿に私が何を書いていたのか知って驚いたのである。
 で、「に」さんは「てっちゃん、頼むから、退勤簿になにもかかないでくれ」と言った。私は不満で「ええ?そうなのお、ぼくは、『に』さんに日頃の恩返しのつもりで書いているのにー」といったら、「に」さんは、半泣きで「てっちゃん、頼むから、その恩返しとやらを止めてくれ」という。
 仕方がないので、退勤簿の恩返しは止めたが、それが、何時までも私の心に負担として残って、何としても恩返しをせねばと心に誓い続けているのである。
 さらに、私は会社勤めをしている際に夜遅くなると「に」さんの家に突然押しかけ泊めて貰い、翌朝、奥方の「と」さんも勤めに出、当然「に」さんも会社に行くわけだが、どう言う訳か、同じ会社に勤めている私だけが、「に」さんのアパートに居残り、「に」さんの家の冷蔵庫の中身を勝手にあさり、昼前にようやく会社にたどり着く。同僚たちは、「に」さんはいつもの通りに始業時間前に会社に着いているのに、どうして私がそんなに遅れるのか、不思議がったが、不思議がるのが間違いで、九時までに会社に来いという決まりが私の心身に適合しなかっただけである。
 私は会社勤めを辞めてからも、東京で編集者たちとの打ち合わせなどで遅くなると、11時すぎに「に」さんの家に「これから行くからお願いします」と電話をかけて、勝手に押しかける。
 かなり長い間、「に」さんの家は私の東京における拠点となった。
(ああ、本当に、なんと言う寛大な『に』」さん夫婦だったのだろう)
「に」さんが、ロスアンゼルス勤務になると、家族全員を引き連れてロスアンゼルスを襲い、ロンドン勤務になると夫婦でロンドを襲い、「に」さんは私からの電話が入ると、寒気がしてふるえが走るという状態が今でも続いている。
 そう言うわけだから、「に」さんが、会社の常務に昇進した時に、「に」さんは、「私が、今日あるのは、てっちゃんが早めに会社を辞めてくれたおかげだよ」と私に感謝してくれた。
 こう言う感謝のされ方は、喜んでいいのか、悲しんでいいのか、ちょっと困った。

 しかし、今日は大収穫が有った。
 連れ合いと、「に」さんご夫婦と話している間に、「に」さんが、「そうか、漫画原作者も大変だな。じゃ、これから月に6万円くらいなら上げるから」と言う言質を引き出した。
 おお、月に6万円。
 これだけあれば、夫婦二人で何とか暮らせる。しかも、「に」さんの家に転がり込めば、家賃もいらない、冷蔵庫の中も勝手次第である。
 これで、私達夫婦の将来は安心、生きる希望が湧いてきました。
 ありがたいなあ。
 持つべき物は、親切な先輩ですよ。

 で、帰りは渋滞もなく、順調に家に帰ってきて、ニュースを見て、ああ、大落胆。
 白鵬が負けてしまっているではないか。
 ああ、ああ、ああ、
 私は、白鵬が双葉山の記録69連勝を破ってくれのを本当に期待していた。
 多くの相撲ファンがそうだったと思う。
 あの双葉山の大記録を破る力士が現れた。
 それだけで、興奮するのに、もう、7日目で、それが達成できるかと思うと、わくわくしていた。
 それが、負けた!
 ああ、神は大相撲を見捨てられたか。
 ここで、白鵬が双葉山の記録を破れば、大相撲に再び多くのファンを集められたのだ。
 白鵬を破った稀勢の里は私のひいきの力士である。
 いつも、期待しているのに、何度も期待を裏切られてきた。
 とっくに、大関横綱をねらえる逸材だと思っている。
 実に辛いが、今日は、白鵬に勝って貰いたかった。
 白鵬、どうした。
 矢張り、重圧があったのか。
 ぎゃくに、稀勢の里には、この勝利を足がかりにして、これからどんどん伸びて貰いたい。
 そう有ってこそ、大相撲の人気が戻ると言う物だ。
 白鵬が負けたのは本当に残念だが、稀勢の里相手だったので、まだ良かった。
 稀勢の里、白鵬の記録を阻止したんだ。これからもどんどんがっばってくれよ。
 白鵬も、もう一度双葉山の記録に挑戦して貰いたい。
 今のところ、白鵬以外、それを達成できる力士はいない。
 しかし、本当に残念だった。

雁屋 哲

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