雁屋哲の今日もまた

2008-08-21

「嫌韓・嫌中」について その3

 2008年7月24日の朝日新聞に、君島和彦東京学芸大学教授の「教育の現場におしつけるな」と言う意見が掲載された。
 下に、そのコピーを掲載する。(写真はクリックすると大きくなります)

君島和彦教授の意見

 この文章の中で、君島和彦氏の述べている要点は、次の通りにまとめられるだろう。

  1. 中学の学習指導要領解説書の中で、竹島(独島)について記述したことは、事実上「竹島は日本の固有の領土」と教えることになる。
    政府は、外交関係で韓国政府に「大人の関係」を求めると言うが、これでは日本側の主張を認めなさいと言う一方的な押し付けでしかなく、これでは「未来志向の関係」は築けない。
  2. 今度の措置で見過ごせないのは政治的・外交的に解決出来ない問題を教育の場に押し付けたことである。
  3. 政府は、解説書を改訂し、以前のように「竹島・独島」について記述のない段階に戻してから話し合いを求めるべきだ。
  4. 日本政府が記述を撤回したなら、韓国政府も話し合いの席に着くべきである。

 この記事に対して、韓国の「中央日報」紙は、「日本内部から出る良心の声」という題の社説を書いた。
 その要旨は次の通りである。

「大勢に対立してひとりで声を上げるということはたやすいことではない。真実を追い求める良心と勇気なしにはできないことだ。学生たちに独島(トクト、日本名・竹島)は日本領土だと教えることにした日本政府の方針に正面から反旗を掲げた日本の教授の例から、我々は日本人に知性が生きているということを確認できた。」

「独島が韓国領土であることを裏付ける歴史的・国際法的資料は多い。学者的良心を持ってアプローチすれば異なる主張ができない。徹底的な史跡検証のあげく内藤正中島根大学名誉教授が1905年2月、日本閣議の決議による「無主地先行獲得論」を日本政府が独島に対する領有権主張の根拠として提示してきたのは過ちだと結論づけたのはよく知られた事実だ。君島教授も内藤教授の主張に同調している。」

「真実を追い求める良心的な学者がいて、良心の声に紙面を割く勇気あるメディアがあることは日本の底力だ。問題は政治家と高位官僚など国家運営の主体がどれだけその声に耳を傾けるかという点だ。少し早ければ周辺国家に言えない苦痛と被害を与えた軍国主義的侵略戦争の過ちも避けることができたのではなかっただろうか。日本政府は周辺国との未来指向的関係を言う前に中から聞こえる良心の声から聞かなければならない。」

 私が不快に感じたのは、この社説の「日本内部から出る良心の声」と言う題名であり、そのなかに、「良心的な学者」「良心の声」と言う言葉を使っていることだ。
 それでは、君島和彦教授以外の日本人は、良心のない人間だというのか。
 竹島・独島問題は、以前にも書いたが、純然たる領土問題である。
 領土問題は、日本と韓国の間だけでなく、世界中で起こっている。
 それぞれの国にそれぞれの主張がある。その主張を述べ合い、話し合って解決をする。それが、一番理性的な領土問題の解決法である。
 領土の主張をするのに、良心などを持ち出すのは、奇怪なことだ。
 韓国の言うことは何でも正しく、日本の言う事は何でも間違っていて、韓国の望むようなことを言う人間は、日本人の中でも「良心のある人間」というのか。

 君島和彦教授が良心的な学者であるのは当然である。
 しかし、その「良心的」という意味が、この「中央日報」の社説を読むと、韓国を満足させることを言う、と言う意味にされている。
 こんなことを、書かれては、私だったら我慢が出来ない。
 それこそ、君島教授は学者としての良心から物事を言っているのであって、韓国を満足させるために言っているのではない。
 現に、君島和彦教授は、最後に、「韓国も話し合いの席に着くべきだ」と書いているではないか。
 このようなことをされると、私だったら非常に不快を感じる。
 私の言う事を、このように、韓国の都合の良いように歪曲して、韓国の宣伝として使われたら、まことに迷惑だ。

 一方、「朝鮮日報」は、『「独島は韓国領」 日本のある大学教授の勇気』と題した記事で、君島和彦教授にインタビューをして、次のような談話を掲載した。

『-歴史学者の立場で独島の領有権をどう判断するか。
「竹島専門家ではなく、一次資料を研究したことはない。しかし、(独島は歴史的に韓国領だと主張する)内藤正中・島根大名誉教授の意見に同意する。竹島は韓国領だという主張が正しいと思う。それに反対する主張は説得力がない」』

 これに対して、同じ「朝鮮日報」の鮮于鉦(ソンウ・ジョン)特派員が、「記事に掲載されなかった君島教授の話」という題のコラムで、

『25日付の本紙総合1面インタビュー記事で、東京学芸大学の君島和彦教授(東アジア近代史)には失礼申し上げた。第一に、約40分間の長いインタビューで十以上の回答をいただいたのにもかかわらず、たった二つの短い回答しか掲載されなかった点、第二に、インタビューの終わりに、ご自身が「竹島専門家ではない」ことを前提として述べた「独島(日本名:竹島)は韓国領土だという研究を支持する」という見解が大見出しになったという点だ。その日、わたしたちが聞きたかった内容だけが掲載され、ほかの内容はすべて消えてしまったのだ。
 聞きたかった内容というのは、「日本人も“独島は韓国領土”と話している」という言葉だったと思う。もちろん、君島教授もそのように考えていたが、同教授は独島の研究者ではない。知韓派学者として君島教授が言いたかったのは「韓日の未来のために中学校の新学習指導要領解説書にある独島領有権の記述は白紙化すべきだ」ということだった。このように、趣旨が一方的に変わったとき、好意的だった人々ですら韓国に対し戸惑う様子を、わたしは日本で何度も見てきた。』

 と言う書き出しで、君島和彦教授とのインタビューを更に詳しく再現した。

 この鮮于鉦(ソンウ・ジョン)特派員、の態度は公正で、好感が持てる。

 しかし、最初に書かれた『「独島は韓国領」 日本のある大学教授の勇気』と言う記事が世間に伝えた印象は消えない。

 君島和彦教授は「韓国も話し合いの席に着くべきだ」と言っていることが、どこにも反映されていない。
 君島和彦教授が、「竹島(独島)は韓国領」であると、考えているのは確かなのだろう。
 しかし、君島和彦教授の趣旨は「政治的・外交的に解決出来ない問題を教育に持込むな」と言うことであり「韓国政府は話し合い席に着くべきだ」と言うことで有ることは明らかだ。

「朝鮮日報」は、自分たちの聞きたかった言葉だけを大見出しにし、君島和彦教授の言わんとした趣旨を変えてしまった。

 鮮于鉦(ソンウ・ジョン)特派員も書いているように、こう言うことをされると、「好意的だった人々ですら韓国に対し戸惑う」のは、当然である。

 この、君島和彦教授の文章を自分たちの都合の良いように利用する韓国のやり方を見ていると、私も、私の意に反して自分の書いた物を歪曲して利用されることを非常に恐れるのである。

 それでも、私は、「親韓」を貫く。

(続きはまた明日)

雁屋 哲

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