雁屋哲の今日もまた

2008-08-20

「嫌韓・嫌中」について その2

 韓国では、「日帝強占下反民族行為真相糾明に関する特別法」という法律が、2004年に成立して、それに基づいて「親日反民族行為真相糾明委員会‎」が設立され、日本の韓国統治時代に、日本に協力した人間を「親日派」と規定し、同じく2005年に成立した、「親日反民族行為者財産の国家帰属に関する特別法」によって、設立した「親日反民族行為者財産調査委員会」が、「親日派」とされた人間の財産を調べあげ、それを没収することにした。

「親日派」に指定されるのは、日本統治時代に爵位を貰ったりした政治家にとどまらず、大学の教授、画家、などにまで広がる。

 2005年に、高麗大学は、「親日教授」10人の名簿を発表した。
 この名簿にはこの大学の設立者である金性洙(キム・ソンス)氏をはじめ、兪鎭午(ユ・ジノ)氏、申奭鎬(シン・ソクホ)氏、高元勲(コ・ウォンフン)氏、張徳秀(チャン・ドクス)氏、趙容萬(チョ・ヨンマン)氏、崔載瑞(チェ・ジェソ)氏など、同大学の総長や教授をしていた7人と、李丙燾(イ・ビョンド)氏、イ・カクジョン氏、ソン・ウスン氏など、同大学の卒業生3人が含まれていた。(朝鮮日報)

 また、韓国の次期高額紙幣には、朝鮮王朝時代の女流画家で、
 李栗谷(イ・ユルゴク)の母として知られる申師任堂(シンサイムダン、1504~1551)の肖像が有力視されていたが、申師任堂(シンサイムダン)の故郷である江原道江陵市が、これまで標準として使用されてきた申師任堂の肖像画を変更する方向で検討している、と報道された。
 烏竹軒(オジュクホン)市立博物館にある申師任堂の肖像画は以堂・金殷鎬(イダン・キム・ウンホ、1892~1979)の作品で、1986年に政府が申師任堂の標準の肖像画として指定した。
 しかし、最近、親日人名辞典の編纂過程で、以堂・金殷鎬(イダン・キム・ウンホ)が親日派として記載されたのを受けて、肖像画を描き換えると言うのである。
「親日派」とされると、画家の作品まで否定されるのである。
 芸術的な価値より、「親日派」という政治的な判断が優先する。

 さらに、大田(テジョン)国立墓地に埋葬されながら、親日行為が判明した徐椿(ソ・チュン、1894~1944)の墓の移転を市民団体が要求し、徐椿の息子(74)ら遺族が「父の墓が国立墓地にとどまることで国に迷惑がかかるのはわかっている」とし、「秋夕(旧盆)前に必ず移転するので、移転先を見つけるまで待ってほしい」と要請した。
 徐椿と言う人間について、我々日本人は良く知らないが、徐椿は1919年2月8日の東京留学生の独立宣言当時、実行委員11人の一人として参加した功労が認められ、大統領表彰および愛国志士敍勲を受け、1989年に大田国立墓地に埋葬されたが、朝鮮総督府の機関紙「毎日新報」社の主筆を歴任するなど親日行為が判明し、1996年に敍勲を取り消された、のだそうである。(朝鮮日報)
 朝鮮日報に掲載されたその徐椿の墓の樣子を転載する。(写真はクリックすると大きくなります)

破壊された、徐椿氏の墓

 個人の墓を、破壊するとは、すさまじい。

 私は、韓国の内政に干渉する気はない。
 韓国人の、日本の統治時代に対する恨みと怒りも良く分かる。
 それに対してどの様な行動を取ろうと、韓国の問題だ。
 しかし、現在決めた法律で、過去の人間を裁くというのはどう言う物だろうか。
 通常の法治国家でこのような法律が存在する物なのだろうか。
 これでは、政権を握った者が、過去の政敵を葬り去るのに利用できるのではないか。
 それに、「親日派」と指定された人間は既に亡くなっている。その「親日派」の財産没収というのは、「親日派」と指定された子孫から、財産を没収することである。
 特に、親の墓の移転を迫られた人は可哀想だ。日本人もそうだが、韓国人にとって先祖の墓というのは大事な物なのではないのか。その墓を壊し、移転しろと迫るとは、肝が冷える思いだ。
 親の罪を子が引き受けて、その償いをする、と言うのは、普通の法治国家ではあり得ないことだ。

 しかし、それもあくまでも韓国の内政問題だ。
 私にとやかく言う権利はない。
 しかし、看過できないのは、この「親日派」というレッテル張りが現在にも及んでいることだ。
 昨日取り上げた、歌手の趙英男(チョ・ヨンナム)氏も「親日派」とされて、テレビの司会を下ろされた。芸能人としては、死活問題だ。
 これでは、韓国で、芸能人に限らず全ての人間が、日本と親密であることは悪とされる。
 高麗大学で「親日派大学教授を指定」した問題を取り上げた「朝鮮日報」はその記事を

「学生たちに“親日派教授”という烙印を押されれば、それを乗り越えることができる教授はいないだろう。特に、日本植民地時代について研究する教授らは、研究と教育でも学生たちの監視の視線を意識せざるを得ないだろう。そんな大学は結局、文化大革命時代の中国の大学に似ていくだろう。」

 と締めくくっている。

 この「親日派」にたいする処断は全韓国民に対する大いなる見せしめだ。
「親日派」というだけで、韓国では、人間としての尊厳も何かも奪われてしまう。
 こうなれば、韓国人で日本人と親しくしようと思う人間はいなくなる。
 少なくとも、日本人と親しいところを見せては、まずい、と思うのは自然の成り行きだろう。

 韓国では「親日」は絶対的な悪、とされている。
 それも昔の問題ではない。現在の問題なのだ。
 現在も、「親日」は悪なのだ。
 日本と親密にすることは、現在の韓国では、「悪」なのだ。
 こう言う状況を知れば、「嫌韓派」の人達の韓国に対する嫌悪感は、増すばかりだろう。

 私個人にしても、私がいくら「親韓派」と言って、日韓友好に力を尽くしたいと思っても、相手の韓国がこれでは、どうにもならないのではないか、と疑問を抱くこともある。

 韓国の、反日に利用される恐れがある。
 実際に、その例もある。

(続きはまた明日)

雁屋 哲

最近の記事

過去の記事一覧 →

著書紹介

頭痛、肩コリ、心のコリに美味しんぼ
シドニー子育て記 シュタイナー教育との出会い
美味しんぼ食談
美味しんぼ全巻
美味しんぼア・ラ・カルト
My First BIG 美味しんぼ予告
My First BIG 美味しんぼ 特別編予告
THE 美味しん本 山岡士郎 究極の反骨LIFE編
THE 美味しん本 海原雄山 至高の極意編
美味しんぼ塾
美味しんぼ塾2
美味しんぼの料理本
続・美味しんぼの料理本
豪華愛蔵版 美味しんぼ
マンガ 日本人と天皇(いそっぷ社)
マンガ 日本人と天皇(講談社)
日本人の誇り(飛鳥新社)
Copyright © 2024 Tetsu Kariya. All Rights Reserved.
掲載の記事・写真・イラスト等のすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。