雁屋哲の美味しんぼ日記


悲しい国だね

2010年2月1日(月)@ 11:20 | 雁屋哲の美味しんぼ日記

 米原万里氏の書いた「打ちのめされるようなすごい本」という、本の書評とエッセイの合わさったような本がある。
 打ちのめされるのは、米原万里氏の紹介した本よりも、米原万里氏本人にである。
 その知識、頭の良さ、見る目の鋭さ、潔癖さ、人間を完全に信じるその心の豊かさ。
 2006年にガンのためになくなってしまったが、どうしてこのような素晴らしい人がこんなに若く亡くなってしまうのか。

 むかし、神は才能のある人間を早く自分の手元に上げたいので、美しい人才能のある人間は早死にをするのだ、と言われていた。
 そうとでも思わなければ、とても納得がいかない。
 私のような下らない人間がのうのうと生き延びているのに、米原万里氏のように「打ちのめされるようなすごい人」が若くして亡くなってしまう。
 米原万里氏はこの「打ちのめされるようなすごい本」の中に、これはどうしても読まなければならないと思う本をいくつも取り上げているが、そのなかで、今日の話題にふさわしいのは「もっとも恐ろしい武器とは」という副題付きで、高木徹著「戦争広告代理店」を取り上げた頁だろう。

 21世紀にもっとも恐ろしい武器となるのは情報である、と言う真実を雄弁に裏付ける本である、と米原万里氏はこの本を紹介する。

「本書では、メディアに乗せられた情報が戦争の趨勢に決定的な役割を果たす様が、ユーゴ内戦時、新興国ボスニアに雇われたアメリカの広告代理店の活躍を通して伝えられる。対セルビア戦を有利に展開し、国際的承認を勝ちとるまで、ボスニア政府首脳に言葉遣いから発言のタイミング、敵に不利な情報を流すためのネーミング(例えば「民族浄化」という語によってナチスを連想させる)など、手取り足取り指導して行く様が具体的に紹介されている。これでもかこれでもかと、セルビア武装勢力による残虐行為を世界中のメディアにばらまく一方で、ボスニア側による勝るとも劣らない蛮行は巧妙に伏せられ、先進国、わけてもアメリカの戦いには「人道と民主主義」とい名分があると世論に浸透させる。」

 ここからが大事なので、きちんと読んで欲しい。

「偽情報であれ一面的情報であれ、大量に繰返し叩き込まれたそれは、事実以上の重みを持って人びとの意見を立場をコントロールしていく。」

「圧倒的に多数の人びとは自由なる意志に基づいて、己の意見や立場を決定していると無邪気に思い込んでいる。あたかも自身の意志で、さして必要もない商品を喜々として買い求め、インタビューに際しては、テレビキャスターや新聞の論調を反復する。(中略)それが情報操作の結果であるなんてつゆほども思わない」(本書471頁)

 誠に、恐ろしい話である。高木徹氏はボスニアとセルヒアの戦いについて語っているのだが、米原万里氏はそれを現在の日本の状況に布衍して語っている。
 そして現在、それが現実になっている。

 今朝の毎日新聞の世論調査の結果によると、小沢氏の辞任を76パーセント人が求めている。
 この人たちは、何を根拠に、自分たちの態度を決めたのだろう。
 毎日検察が垂れ流すリークを、それが正しいかどうか検証することなく紙面に載せていく新聞、ニュースで流すテレビ、その影響によるものだろう。
 要するに、76パーセントの人びとはテレビ、新聞を操る検察の意のままに、彼らの言葉を反復しているに過ぎない。
 これまでの新聞やテレビの通じて知った限りでは、私自身、小沢一郎氏がどんな罪を犯したのか犯さなかったのか、分からない。検察のリークからだけでは何事も判断できない。今までのリークから判断すること自体が間違いだ。リークは証拠にはならないのだ。それなのに、この76パーセントの人びとは何を根拠に小沢一郎氏の辞任を求めるのだろう。

 この検察のやり方は本当に恐ろしい。
 無罪か有罪かはっきりしないうちに、いかにも有罪と思われる情報を垂れ流しにして、人びとを操る。戦争広告代理店のやり方と全く同じだ。小沢一郎氏に負の印象をこれでもか、これでもかと植え付けてきた。
 この手を使えば、どんな人間でも、その社会的地位を失わせることが出来る。
 逮捕した石川議員がこんなことを言っている、などと、平気でばんばん流している。それは、違反だろう。公判で言っていることではない。検事に対して言っていることである。これを表沙汰にする権利が検事にあるのか。
 これでは、公平な裁判など期待出来る訳がない。
 司法制度が公平に出来上がっている先進国から見たら、日本のこの状況は信じられないほどでたらめなものに見えるだろう。検察のしたい放題がここまで許されては、民主主義も何もあった物ではない。検察という大きな権力を握った者の思い通りだ。

 小沢一郎氏が怪しいのは、10年も前のことからだろう。なぜその時にきちんと調べておかなかったのか。
 どうして、民主党政権が出来てから慌てて、鳩山、小沢と、やり玉に挙げ始めたのか。
 小沢一郎氏は野党にいたから、西松建設などから献金を貰っても、賄賂として追及できない。
 せいぜい、帳簿の付け方という形式的なことになってしまうだろう。
 一方、自民党の二階氏は、自民党の権力者と君臨し、小沢一郎氏より多額の金をあちこちの建設会社から貰っている。和歌山県に行ってみればすぐに分かる。あの道も、橋も、トンネルもぜんぶ二階先生が作ってくれたという。完全に収賄罪が成立する。
 その二階氏には検察は手を出さない。小沢一郎氏よりはるかに、二階氏を洗う方が政界浄化として意味があるのにそれをしない。
 検察の意図はあまりに見え見えである。検察は政界を浄化したいのではない。自分たちにとって邪魔な小沢一郎氏を取り除きたいだけなのだ。
 見事に、検察は、小沢一郎辞任要求76パーセントという世論を獲得した。何の証拠もなしに。ただ、疑いがある、疑いがある、というだけで。国民は見事におどってくれた。

 悲しい国だね。日本って。


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