雁屋哲の今日もまた

2009-05-05

長良川の現状

 5月2日に、天竜川、長良川の取材の旅から帰ってきた。
 今回の取材は、肉体的にも、精神的にも厳しかった。
 3日は何も出来ずにぼーっとして過ごした。
 4日は更にひどくなり、食慾も失せて、へたりきってしまった。

 1993年に、「美味しんぼ」の第39巻に私は「長良川を救え」という題で、長良川の河口堰が出来たらサツキマスが滅びると描いた。
 それから15年経って、どうなっているか見に行った。
 当時の岐阜大学の教授は、河口堰に魚道を造るから、サツキマスの遡上には問題はない。70パーセントのサツキマスは遡上すると言った。
 何を根拠にそんなことを言うのか。
 毎年70パーセントしか遡上しないことが続いたら仕舞いにはゼロになるだろうと言ったのだが、がんとして自分たちが正しいと言って聞かない。
 で、今回、長良川で60年サツキマス漁をして食べてきた大橋さんご兄弟と、大橋さんの釣ってきたサツキマスを全て買い上げてきた料亭「末木」の当代のご主人に事情を伺った。
 私の予想より遙かにひどかった。
 河口堰が出来るまでは、一晩170本くらい当たり前に獲れた。
 それが、私達が行った日は前の晩に3匹だけ獲れただけだという。
 脂がのって、特に頭が美味しかった。頭をばりばり食べるのである。
 大変に美味しい魚である。
「末木」のご主人によれば、もう、サツキマスは滅びるのではないかと言う悲観的な状況であるようだ。
 大橋さんご兄弟に、サツキマスの流し網漁に同乗させていただいた。ご兄弟とも、本当に心優しい楽しい方で、川面を吹く川風のさわやかな心地よさに当然となり、これなら何もつれなくてもいいや。とまで思った。
 第一、サツキマスは日没時から釣れる。それでは写真が撮れないので、獲っている姿だけを演じていただこうと言うことで、流し網漁を実施していただいた。
 普通二艘の船の間に網を張って流すのだが、大橋さんのお父さんの発明になる流し網は、船と反対に浮きを流し、浮きと船の間に張った網を流して漁をすると言う非常に優れた漁法なのだ。
 4キロメートルほど流して一旦網をたぐる。
 すると、おお、サツキマスが一匹かかっているではないか。
 こんな時間にかかるとは奇跡だよ、と大橋ご兄弟も大喜び。
 私も実に嬉しかった。

 大橋さんは、河口堰が川をふさぐまでは、このサツキマスを一晩に軽く100匹釣っていたのが、今ではまるでだめ。
 サツキマスだけでなく、鮎も、シジミもだめになったと言う。
「第39巻」にも描いたが、その時点で、地域の人は河口堰はいらないと言っているのに、官僚、ゼネコン、政治家が無理矢理作ったものなのである。
 いったい日本と言う国はどうなっているのか。
「末木」も大変立派な料亭で客筋も豊かな方ばかりとお見受けした。
「末木」の売り物はサツキマスである。
 それなのに、今では、お客さんが「釣れたら連絡してくれ」と言うようになってしまった。
 存在する意味の全くない河口堰を作り、長良川の最大の資産である川魚を絶滅の危機にまで追い込んでおいて。国も、県も、学者達も何も反省しない。
 あの時、魚道を付けるから、70パーセントのサツキマスは必ず遡上して来るから大丈夫だと言った岐阜大学の教授の名前をここで公表してやっても良いが、武士の情けだ。黙っていてやろう。
 もっとも、1993年当時の岐阜大学の河口堰に関わった教授なんて、すぐにばれてしまうけれどね。

 いっぺんにあれもこれもと書くと、読む方が大変だろうから、これから、沖縄の泡瀬がたの問題、六ヶ所村の問題、築地市場の豊洲移転の問題、天竜川の問題、など、次々に、書いていく。

雁屋 哲

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