雁屋哲の今日もまた

2020-04-24

派遣労働者の危機

あまりに豚な私たちについての続きを書こうと思っているのだが、そのような原則論よりも、目の前の危機について考えなければならない問題が読者から提起されたので、今回はその問題について書いて行く。

 

最近、このページの読者の「よ」さんからメールを頂いた。

これは、私独りが読んで済ませる物ではなく、他の読者の方にも読んで頂くべきものだと私は考えた。

何回か頂いたメールを、私が、このページで読んで頂くのにあんばいが良いようにまとめた。

まとめた文章は「よ」さんに、確認して頂いた上、掲載を了承して頂いた。

 

「よ」さんは書いてこられた。

「私は、2014年から2015年の頃、父がかつてやっていた鍼灸院を使わせてもらってマッサージ店を開店しましたが、なかなか上手くいかず、夜間にHPのパソコン梱包工場(東京システム運輸)でライン作業のアルバイトをしました。派遣会社はヴィゴール。その他にはトップスポット、羽田、などいくつかの派遣会社が入ってました。

私がその夜勤のアルバイトをし、日雇い派遣状態をみたのは2014年から2015年の頃です。」
「よ」さんが見た派遣労働者の状況

「私は47歳です。

私は以前工場で夜勤のアルバイトをしたのですが、小泉竹中政権以来、派遣は日雇い状態です。その日の発注量が多いと複数の派遣会社から大勢のスタッフが集められ、翌日の発注量が少ないと途端に仕事に入らなくなる。給料は日払いで、仕事に入れる日と入れない日が不安定なので貯金もままならず、その日の日銭でその日暮らし、転職しようにも『貯金』がないと新しい仕事の面接のために休みを入れるとたちまち仕事を干されるので、面接したわりに断られたりするとますますジリ貧になって、水飲み百姓状態になるという。恐ろしい状況を目の当たりにしました。」

「水飲み百姓状態は、私自身ではなく同じ工場の子(20〜30代の男の子)が昼休みに工場備付けの給水機の水ばかり飲んでいるので、『どうしたのか?』と聴くと『安定した仕事につきたくて面接に行くために、この工場で稼働してほしいって派遣会社にいわれた日に休んだら、その後何日かは入れなくて、ついでに面接も断られたから、お金が全然ない』

という話しを聞きました。

他の子が来て『馬鹿だな逃げようとなんてするから。いいか、もし他のところに行けても、給料が翌月払いとかになるから、その間地獄なんだぞ』とか
『履歴書に貼る写真代を節約するために写真を忘れたテイで面接に行くから最初から印象悪くなる』

など様々な悩みを聞きました。
私自身は今の自営業が軌道に乗るまで、日中は自営業をし夜その工場に行っていたので、今は工場には行って無いのですが、日本の恐ろしい派遣=日雇いの現実を見ました。」

そして、「よ」さんは書いておられる。

「私が心配しているのは、おそらく同じような人達が武漢ショックで雇い止めされて、もう2月くらいから食べれてないのではないか。彼らは貧乏に慣れていてかなり生命力が強いのですが、それにしても、2月、3月、そしてもうすぐに4月後半です。人が栄養失調と餓死するには十分かと思います。

役所かどこかに行けば何処の誰ですかあっても食料を配給してもらえるとか、条件とか手続きとかは簡略化して、とにかく窓口に来た人にすぐに現金渡すとかしないと
そろそろ餓死者が出るのではないかと思います。

彼らがプライドを捨てて、ゴミ箱漁りでもいいからサーバイブするのだと気持ちを切り替えられていればいいのですが、気の優しい、おとなしい子が多いので、『じっとがまん』とかしてるうちに死んじゃうじゃないかと心配してます。」

 

「よ」さん、貴重なご報告を頂いて、心から感謝します。

「よ」さんからメールをいた代同じ時期に、YAHOOニュースで、藤田孝典氏が、

「⽵中平蔵パソナ会⻑『世界は数年痛い⽬を⾒る』 いやあなたのせいですでに散々痛い⽬を⾒ています」

と言う題で記事を書いている。

藤田孝典氏は、2007年にルーテル学院大学院を卒業されたとあるから、まだ30代。ご自身の自己紹介には、「ほっとプラス代表理事、反貧困ネットワーク埼玉。社会福祉士。NPOのソーシャルワーカー」と書かれている。

藤田様ここにその記事を無断で引用させて頂きますが、このような議論を広げるためとお考えになって、お許し下さるようお願いします。

 

⽵中平蔵元経済財政担当相の雇⽤改⾰は今でも甚⼤な効果を発揮し

ている

4⽉18⽇、19⽇に弁護⼠、司法書⼠、社会福祉⼠、労働組合員などが企画し、全国⼀⻫なんでも電話相談会が開催された。

新型コロナウイルスの影響により、⽣活困窮する⼈たちが多いため、全国の専⾨職などの有志が⽴ち上がった。

私も埼⽟県で活動する仲間たちと電話相談を受け、経済危機の実態が深刻であることを改めて実感するに⾄った。

朝10時から夜10時まで、埼⽟会場の5回線は受話器を置けばすぐに着信がある状態が2⽇間続いた。

2⽇間合計で、埼⽟会場には、全産業から雇⽤形態に関係なく420件を超える相談が寄せられている。

他にも、中⼩企業の社⻑、⾃営業者やフリーランスの⽅たちからも⽣活苦が語られた。

そして、なかでも⽴場の弱い派遣労働者、⾮正規労働者は、休業補償も受けられず⾃宅待機を命じられたり、所定の有給休暇を取得後に⽋勤扱いされているという相談が相次いだ。

新型コロナ禍は全ての⼈々に襲いかかっているが、派遣労働を含む⾮正規労働など⽴場が弱い⼈々へのダメージはより深刻だった。

このような派遣労働、⾮正規雇⽤を増やす政策を推進してきた張本⼈といえば、⽵中平蔵⽒であることは⾃明である。

いわゆる⼩泉・⽵中改⾰という雇⽤の流動化政策は「就職氷河期世代」(私は「棄⺠世代」と呼んでいる)を⽣み出し、ワーキングプアと呼ばれる低賃⾦労働者を⼤量に作り出すことに貢献したと⾔ってもいい。

彼らが権限を⾏使して進めてきた雇⽤政策では⼀貫して、⾮正規雇⽤が増え続けた。

近年はようやく増加が⽌まったが、まさに彼らの政策で不安定雇⽤が急増したことは間違いない。

リーマンショックの際には、その影響が「派遣切り」という形態で可視化されて、⽵中平蔵⽒らの雇⽤政策の失敗が⽣活困窮者を⼤量に⽣み出すことを明らかにした。

そして、今回の新型コロナウイルス禍でも、同様に⽵中平蔵⽒の改⾰の失敗による効果は甚⼤だった。

派遣労働者や⾮正規労働者は、貯⾦を形成する余裕もなく懸命に働いてきたが、またリーマンショック時と同様に、雇い⽌めや⼀⽅的な解雇などの犠牲になっている。

リーマンショックの際も「雇⽤の調整弁」という⾔葉で表現されたが、真っ先に解雇や「休業補償なき⾃宅待機」で影響を受けていたのは今回も⾮正規労働者だった。それにもかかわらず、⽵中平蔵⽒は⽇本経済新聞の取材に対し、現在と未来の⽇本を以下のように語っている。

 

「今の時代は世界的に保護貿易主義が主流です。

その上最近では新型コロナウイルスの流⾏も相まって、⼈の移動について報復合戦も⾒られました。

この根本は社会の分断にあると思いますが、10年後にはその解消に向け、様々な⼯夫が⾒られる時代になっているでしょう。

世界はこれから数年、痛い⽬を⾒たあとに、少なくとも5年後には、解消に向けた議論が真剣にされているはずです。

新しい技術が世間に⾏き渡るイノベーションも、次々と起きることになるでしょう。

次世代通信規格「5G」は、技術的にはすでに確⽴していますが、遠隔医療などに⾒られるように、規制が障壁になり実⽤化が遅れているものもあります。

今後10年は先端技術が⺠間で実⽤化されるために、⼀つ⼀つ議論する時代になるのだと思います。

ですが、それに伴って今ある職業が急になくなるような状況もあるかもしれません。そこで必要なのが、最低所得を保障する「ベーシックインカム」です。

⼈が⽣きていくために最低限必要な所得を保証することができれば、⼀度失敗しても、積極果敢に再びチャレンジできる環境になるはずです。

出典:「社会の分断 正す10年に」 ⽵中平蔵⽒ 4⽉18⽇ ⽇本経済新聞」

あなたのせいでどれほどの痛い⽬を⾒てきて、現在の経済危機でもどれほどの被害を受けている⼈がいることか。極めて無責任である。

また、最低限必要な所得を保証してきた雇⽤を不安定化させてきたのは⽵中平蔵⽒らである。

「ベーシックインカム」などを語る以前に政治・政策の失敗を振り返るべきだろう。

過去の失敗を振り返れない⼈間が未来を展望できるはずがないし、その資格はない。

そして⽵中平蔵⽒は、どの⼝が⾔うのか、と思うが「⼈への投資」を平然と推奨する。

その⼀⽅で安定していた終⾝雇⽤や年功序列制度が悪いことだといういつも通りの主張を展開してインタビューは終わる。

もはや呆れ果てて⾔葉を失いそうになる。

派遣労働者、⾮正規労働者の多くは、⼈的投資としての教育や職業訓練、企業内の研修機会に⼗分恵まれず、ひたすら正社員やコアスタッフの周辺で働くことを余儀なくされてきた。

⾼度な専⾨性を有した派遣労働者はごくごく⼀部であり、⼤半は⾮熟練の地位に置かれた労働者である。

そして、給与が低いこと、⾮正規雇⽤であることは能⼒が低い、⾃⼰責任ということにされ、まともな待遇が保証されないまま現在に⾄る。

相変わらず、同じ仕事内容でも正社員との給与格差は⼤きい。⾮正規雇⽤というのは差別処遇と⾔っても差し⽀えない働かせ⽅だろう。

だからこそ、経済危機のたびに最初に悲鳴を上げるのは⾮正規労働者である。

今後、⾮正規労働者は⽣活困窮者と変化して、苦しい⽴場に置かれることとなっていく。

新型コロナウイルスが収束した後の⽇本社会を展望する際には、少なくとも彼のような「過去の経済⼈」による雇⽤政策の失敗を繰り返してはならない。

取り返しがつかない被害を社会に与え、現在も免責されるのであれば、将来の⽇本に禍根を残すこととなる。

もう昔の⼈を知識⼈、経済⼈と尊重するのではなく、きちんと責任を問いただし、⼆度と政策決定の中枢に関与できないように監視するべき時だろう。」

 

藤田孝典氏の言うとおりだと思う。

ただ、氏は「改革の失敗」「政策の失敗」という言葉を使っている。

竹中平蔵の行った経済政策の中の「派遣法改正」について言っているのだろう。

かつては職業安定法で間接雇用である派遣紹介業は禁止されていた。

それが、小泉内閣経済財政を担当する大臣として任命された竹中平蔵の力で派遣業が大幅に広い職種で許されることになった。

これは、国民の立場からすれば、政策の失敗であるだろうが、竹中平蔵や派遣労働者を雇うことによって人件費を削減できている企業からすれば大成功な政策なのだ。

そして、今回のコロナヴァイルスによる経済の混乱時にも、派遣労働者によって人件費を抑えることが出来ることは、企業にとって有り難い事なのだ。

現在アメリカの経済学の主流は企業による完全な自由を主張している。

全ての規制を取り除いて企業が自由に経済活動をすることが一番重要なこととされている。

竹中平蔵が、終身雇用制度に反対するのも、それが企業の人件費を高くし、企業の自由な活動を制限するからだ。終身雇用制度は労働者の側からすれば安定した生活が得られる物で、ありがたいものなのだが、竹中平蔵のように企業の利益しか頭にない人間にとっては有害無益としか思えないのだ。

竹中平蔵はアメリカで経済学を学んできて、企業の利益が第一で、それを阻害するものは徹底的に取り除かなければならない、と信じ込んでいる。

竹中平蔵は最初から労働者側に立っていない。大企業と、大企業と癒着した政治家の側に立っている。

労働者のことなど考えたこともないし、これからも考えることはないだろう。

リーマン・ショックを最小の被害で乗り越えられたのも、雇うのも解雇するのも企業の思うとおりに動かすことの出来る派遣労働者があったからだ。

今回のコロナヴァイルスによる経済破綻から立ち直るためには、やはり、正社員の数を減らし、派遣労働者の数を増やすことが必要だと企業は考え、その通りに行動するだろう。

氏は、竹中平蔵について

「少なくとも彼のような「過去の経済⼈」による雇⽤政策の失敗を繰り返してはならない。」

と書いているが、竹中平蔵は過去の経済人ではない。

19年の5月期の売上額が3450億円の大企業パソナの取締役会長を務めている。

パソナは人材派遣業である。

この売り上げ、3450億円は、本来なら労働者のものになるはずの金である。パソナは企業と労働者の間に入って、労働者の受けとるべき賃銀を途中でかすめ取っているのである。

このように、労働者と企業の間に入って金を稼ぐ行為を防ぐために、以前は職業安定法で間接雇用である派遣紹介業は禁止されていたのだ。

神戸の山口組が日本一の暴力団にのし上がったのは、神戸港などの港湾労働者を暴力で支配して、労働者を海運会社や、土建会社に派遣し、企業の支払う労働賃金の上前をはねたからだ。

その暴力団と同じことを、竹中平蔵のおかげですることが出来るようになったので、パソナという会社が3450億円という売り上げを得られるようになったのだ。

それにしても、竹中平蔵という男は常識では考えられない倫理観の持ち主だ。

労働者の賃金のピンハネをするのは暴力団と決まっていたのを、パソナのような会社でも出来るように法案を改正し、その労働者の賃金ピンハネによる甘い利益で太るパソナの会長になった。

自分が労働者の賃金をピンハネしてかすめ取ることが出来るように法律を改正したのだろう、と言われても反論できないだろう。

竹中平蔵は暴力団に使われていると思ったら、自分も暴力団の幹部になってしまったのだ。

竹中平蔵は過去の経済人どころか、現在もこれから先も、日本の経済を牛耳っていくだろう。

 

「よ」さんが報告してくれた、派遣労働者の苦難はこれからもっとひどくなるだろう。

「よ」さんが恐れているように、餓死者が出てもおかしくない。

私達は、竹中平蔵に代表される強欲で、残酷で、労働者の命など屁とも思わない人食い共にどう対応していくか考えなければならないのだ。

日本では、労働者に許された、ストライキ、デモンストレーションがなし崩し的に行われなくなっている。

お隣韓国では、経済大国になった今も、労働者は会社の言うなりになっておらず、デモ、ストライキを行って労働者の権利を主張し続けている。

私達はもう一度、労働運動をきちんと捉え直し、人食い共に対抗する運動を構築して行かなければならないと私は考える。

いまこそ、立て万国の労働者、という言葉をきちんと捉え直すときだ。

 

雁屋 哲

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