雁屋哲の今日もまた

2018-04-19

漫画村問題

「漫画村」という海賊版サイトが問題となっています。

4月18日に放映されたNHKの「クロ現」によると、掲載されている漫画は5万点以上、1ヶ月のアクセス数は1億7千万ということです。

漫画を読む人が本を買って読んで下されば、その代金が出版社に入り、一部が印税として漫画家の収入になります。

出版社は本の売り上げで会社としての活動を続けることが出来、漫画家は売り上げの一部の印税で生活を支えています。

しかし、本を買って下さる人がいなくなると、出版社の経営も不可能になり、漫画家も生活していけません。

 

私は1974年から漫画の世界で生きています。

この海賊版漫画サイトが盛んになったのはスマートフォンが2007年に出来てからだと思います。

それまでは、このような海賊版サイトの問題はこれほど大規模なものになることはなく、漫画の読者は漫画の本を買って読んで下さっていました。

一時問題になったのは、ブックオフが中古本を売り始めたときで、その際も出版社は危機感を表明しましたが、今の海賊版サイト問題はブックオフとは比較にならない実害を漫画関係者に与えています。

ブックオフは中古本を売ると言っても、その中古本自体は一度は買われたものです。

しかし、現在の海賊版サイトの読者は中古本すら買わずに、一切お金を払わずに読んでいるのです。

このような海賊版サイトは私たち漫画関係者だけでなく、他の出版物にも手ひどい痛手を与えます。

小学館は、日本で最大の国語辞典、「小学館国語大辞典」(第二版で全13巻、別冊1巻、50万項目、100万用例)を発行しています。このような大辞典を編纂するのには巨額の費用がかかります。

発行した所で、利益は薄いと思われます。

しかし、そのような国民的財産とも言うべき「国語大辞典」の編纂、出版を可能にしたのは、漫画の売り上げがあったからだと言われています。私は、その通りだろうと思います。

小学館、講談社は優れた本を数多く出版しています。中には、大変に優れた出版物ではあるが大衆性はないので、利益は余り望めない物も少なくありません。

売上利益は余り望めないが、優れた本を出版することが出来るのも、両社は漫画で大きな利益を上げているからです。

もし、海賊版サイトがこのままの勢いで増えていけば、出版社の売り上げは減り、漫画だけでなく、それ以外の優れた出版物も出せなくなります。

 

私が漫画の世界に入ったときは、このような問題に遭遇することはなく、良い作品を書けば読者が本を買って読んで下さって、それによって印税収入を得られるということを当てに出来ました。

しかし、NHKの番組の中で若い漫画家が言っていましたが、連載中に海賊版サイトにアップロードされてしまっては、たまった物ではありません。

通常の漫画は月刊誌なり週刊誌なりに連載をして、その10話分ほどをまとめて1冊の単行本にします。

それを、単行本にする前に無料でいつでも読める状態にされてしまえば、その単行本の売り上げに悪影響が出るのは当然です。

通常、雑誌連載で読んで面白かったから単行本にまとめられたら買う、というのがこれまでの読者と漫画の関係でした。

その関係を海賊本サイトは壊してしまいます。

いつでも、どこでも、何度でも、無料で読めるとなれば、単行本を買う必要がないと考える人間がいても不思議ではありません。

 

漫画家の生活は楽な物ではありません。

雑誌の連載となると漫画家一人ではできません。数人のアシスタントの助力が必要です。アシスタントを雇う費用は出版社からは出ません。漫画家が支払います。

毎回、原稿料は出版社から支払われますが、原稿料だけでは、アシスタントや仕事場の家賃などの費用を支払うとかつかつか、赤字になります。

ですから、単行本の売り上げからの印税は漫画家にとって命の綱なのです。

その単行本が売れなくなることは、漫画家は生活が出来なくなることを意味します。

この状況が続けば、更に悪化すれば、漫画家は生活できないので漫画をやめて他に生活の手段を見つけなければならなくなります。

このままでは、漫画家の数は減っていくでしょう。

と言うことは、漫画作品の数も減ることです。

漫画作品が減ってしまえば、海賊版サイトで無料で漫画を読もうと思っても、読むことの出来る漫画作品自体がないという事態になります。

更に状況が悪化すれば、日本の漫画そのものが消えてしまうことになります。

大げさに言っているように思われるかも知れませんが、このインターネットが社会に与える影響は加速度的に大きくなっています。

今言ったような最悪の状況も、あり得る、と思わなければならないでしょう。

 

しかし、しかしです。

今回の政府が緊急対策として発表した、ブロッキングでサイトに対するアクセスを防ぐと言う手法には強く反対します。

それに対する議論も正式に行われておらず、法的な根拠もなく、政府の考えだけで、一つのサイトをブロックするなど、飛んでもないことだと思います。

これは、強権政治の典型だと思います。言語道断です。

一度、このようなブロッキングを許すと、次には、「緊急対策」と称して政府に都合の悪いサイトをブロックするのは容易になるでしょう。

安倍晋三内閣のこれまでの政治の動かし方を見ていると、私の心配は杞憂だとは思えません。

「共謀罪」法案が強引に押し通された今、安倍晋三首相でなくとも、その後を継ぐ政治家が、「共謀罪」を盾にしてどんなことでも取り締まりの対象にすることは容易に想像できます。

そうなると、サイトのブロックということは、政府にとって有力な手段になります。

 

この海賊版サイトの基本的な問題は、読者の考えだと思います。

正直に言えば、漫画家に限らず、物を書く人間は自分の書いた物を誰かに読んで貰うとそれだけ大変に嬉しい物なのです。

物を書く人間は最初から報酬を考えてはいないと思います。本当に欲しいのは読者の共感です。読んで下さるだけでなく、讃めたりされると天にも昇る思いがします。これが物書きの本心です。

しかし、悩ましいのは、読んで貰って嬉しい、と言うだけでは生活が出来ず、製作活動も出来なくなることです。

その点を漫画を愛し読んで下さる読者の皆さんにもお考え頂き、広範に意見を交わし、どうすれば良いのかその解決策を見出して頂きたいと思うのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雁屋 哲

最近の記事

過去の記事一覧 →

著書紹介

頭痛、肩コリ、心のコリに美味しんぼ
シドニー子育て記 シュタイナー教育との出会い
美味しんぼ食談
美味しんぼ全巻
美味しんぼア・ラ・カルト
My First BIG 美味しんぼ予告
My First BIG 美味しんぼ 特別編予告
THE 美味しん本 山岡士郎 究極の反骨LIFE編
THE 美味しん本 海原雄山 至高の極意編
美味しんぼ塾
美味しんぼ塾2
美味しんぼの料理本
続・美味しんぼの料理本
豪華愛蔵版 美味しんぼ
マンガ 日本人と天皇(いそっぷ社)
マンガ 日本人と天皇(講談社)
日本人の誇り(飛鳥新社)
Copyright © 2024 Tetsu Kariya. All Rights Reserved.
掲載の記事・写真・イラスト等のすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。