安部首相の大嘘
2020年のオリンピックの東京開催が決まった。
新聞やテレビで見ると日本中が大喜びしていて、めでたい、めでたい、これで日本の景気が良くなるとか、これで東北震災からの復興が早まるとか、祝賀気分一辺倒である。
新聞やテレビで見る限り、日本中が浮かれているように見える。
本当かな、と私は思う。
本当にみんな喜んでいるのだろうか。
新聞やテレビは意図的に人々を煽る。
すると、人々はその扇動に簡単に乗る。
みんながそんなに喜んでいるんじゃったら、わっちも日本人なんやから空気を読まねばならねえびゃあ。一つ喜んで見せちゃろけー。
騒ぐとなにやら浮かれて来よってからに、現実から逃避できるしのう。
んだけんど、7年後に本当に無事にオリンピックを東京で開けるんかいにゃあ。
それまで、日本が保つかちゅうとんじゃよ、本音を言うたらよおー。
てなことじゃ、ないだろうか。
今回、東京が開催地に決まったのは、安部首相の力が大きいという声が喧伝されている。
アメリカの新聞が安部首相を讃めているという記事が殆ど全ての大手新聞の電子版に乗っている。
これで、安倍首相の人気は上がったのだそうだ。
このオリンピック招致の手柄で人気を上げた安部首相は、この勢いで、憲法改定、秘密保護法の制定、などに突き進むのではないか。
大変なオリンピック効果という物だ。
しかし、IOC委員会の総会で、安部首相は飛んでもないことを言った。
汚染水問題に対して出された質問について、
1)「結論から申し上げれば、全く問題無いということであります。汚染水による影響は、福島第一原発の港湾内の0.3平方キロメートル範囲内で完全にブロックされています」
と答えた。
2)その上で、
「健康問題については今までも、現在も、将来も全く問題ないと約束します」と強調した。
3)さらに、プレゼンテーション終了後、安部首相は記者団に対して、
「不安は払拭できたと思う。1部に誤解があったと思うが誤解は解けたと思う」と語った。(9月8日 新聞各紙)
私は2011年11月15日に、いわき市薄磯の採鮑組合の組合長鈴木孝史さんと、副組合長の阿部達之さんにお話を伺った。
このときのことは、最近発売された「美味しんぼ」第110巻の「福島の真実編 上」の65頁以後に書いてある。
採鮑とは、その名の通りに鮑を採ることだが、鈴木さんたちは鮑だけでなくウニも採る。
ウニ4個をホッキガイの貝殻に詰めて焼いた「ウニの貝焼き」は1個2000円で市場に売れた。
鮑は一番高い物は9000円で売れたと言う。
例年5月から9月まで40回くらいの量で10トンから11トンの水揚げがあった。
貝焼きの値段と鮑の値段から計算すると、大変によい収入になった。
その良い収入を上げることの出来た豊かな漁場というのが、お二人にお話しを伺っている薄磯の浜辺から目と鼻の先にある岩礁なのである。
浜辺から、300メートルあるかないかの至近距離である。
その辺りは海草が多く、鮑やウニの宝庫なのだという。
こんな近くでそのような豊かな漁が出来るとは、天国ではないか。
また、鈴木さんは東北のサーフィンの開拓者であって、鈴木さんは薄磯にサーフィンに来るサーファーのための店も経営していた。
薄磯は本当に豊かな浜だった。
その全てを、第一原発が破壊した。
ウニからも鮑からも高い放射線量が検出されるので、漁は禁止されている。
浜から海に入ることも禁止されている。
海の監視も厳しく、海に入ったりするとすぐに捕まるのだそうだ。
サーフィンも出来ない。
鈴木さんと阿部さんは、目の前に見えるその宝の山の岩礁を見ながら悲しげに、しかし静かに私に語ってくれた。
鈴木さんも阿部さんは、東電や政府を非難して喚いたり、泣いたりしてもおかしくないのだが、何一つ声高に言わず、淡々として事実を語る。
この冷静な所が日本人、東北人の見事な所だ。
我慢強く、節操を保つ意志が強固なのだ。
美しい姿だった。
その鈴木さん、阿部さんに比べて、安部首相は無残なまでに醜い。
嘘をつく人間は実に醜い。
安部首相は「汚染水による影響は、福島第一原発の港湾内の0.3平方キロメートル範囲内で完全にブロックされています」
と言った。
汚染水は、福島原発のある港湾の外に出ていないと言ったのだ。
いわき市薄磯は福島第一原発から、約50キロメートル離れている。
その薄磯で、鈴木さんたちは海に入ることすら許されない。鮑漁もウニ漁も禁止されている。
「汚染水は福島原発の港湾内で完全にブロック」、とは一体何のことだ。
鈴木さんたちが漁に出られない、海に入ることも出来ないことを、安部首相は鈴木さん、阿部さん、そして薄磯の人達にどう説明するのだ。言ってみてくれ。
薄磯だけではない。福島沿岸の漁業はいま殆ど操業できない。
タコ、ツブなどは最近漁獲が許されていたが、今回の汚染水漏れ以後、それすら売れなくなった。
福島の沿岸漁業は昔から盛んだった。
三陸は世界でも有数の漁場で、量だけでなく質も高い。三陸の魚介類は味がよいのだ。
築地でも三陸沿岸の魚は特別の売り場が設けられ、高く売れた。
その沿岸漁業がいま出来ない。
福島原発の港湾から遙か離れた沖合で捕れた魚からも高い放射線量が測定されているからだ。
漁業関係者は早く試験操業から本格操業まで歩を進めたいと期待していた。
それが、今回の汚染水漏れで、操業開始のめどが立たなくなった。
福島の漁業は、海水の汚染のために停止しているのだ。
安部首相はどこの福島の話をしているんだろう。
どうしてこんな途方もない大嘘をつくのか。
「健康問題については今までも、現在も、将来も全く問題ないと約束します」と言うのも、これまた飛んでもないことである。
福島のあちこちで農産物、山菜、肉牛などが、高い放射線量によって食べられなくなっている。
食品の高放射線量は健康問題とは関係ないというのか。
福島の農業、畜産業の人達が苦しんでいるのは、健康問題と無縁だというのか。
風評被害もあって、福島の農産物は売れなくて福島の人達は困っている。
福島の産物が売れないのは、人々が放射性物質に汚染された食品は健康に害があると考えているだろう。
食品の健康問題は福島産の産物に限らない。
2013年6月には、千葉県江戸川の天然ウナギから、キログラム当たり140ベクレルの放射性セシウムを検出し、東京都は関係する漁業協同組合に出荷の自粛を要請した。
これは健康問題ではないのか。(東京に天然ウナギを食べさせる素晴らしいうなぎ屋があるが、そこの天然ウナギは江戸川からも持って来ていた。あのうなぎ屋は困っているだろう。私のようなウナギ好きの人間にとっては、口惜しく情けなく悲しいことである)
静岡のお茶からセシウムが基準値以上の値検出されたこともある。
食品の健康問題は福島県に留まらない。
「健康問題については今まで、問題がなかった」とは、それが日本という国を動かす首相の言うことか。
首相でありながら日本の国の現状を知らないというのか。
さらに、その発言後のインタビューで「不安は払拭できたと思う。1部に誤解があったと思うが誤解は解けた」とは何事だ。
安部首相は本気で福島第一原発について「不安」はないと考えているのか。
福島第一原発に対する不安は「誤解」による物だと言うのか。
安部首相のIOC総会での発言は、大嘘である。
安部首相は国際社会に対して大嘘をついた。
それも、誰にでもすぐに分かる大嘘だ。
こんな飛んでもない大嘘を平気で言う安部首相の神経はただ事ではない。
IOCの委員や、其の場にいた報道陣がこの安部首相の嘘を追及しなかったのは、オリンピック招致というお祭り騒ぎのご祝儀と言う物だろう。
ご祝儀は一時的な物だ。
これから先、この嘘を世界中が追及することになるだろう。
その時に安部首相は大いに困るだろうが、私達国民はもっと困るのだ。
外国人に日本と言う国は大嘘つきの国だと思われて、私達日本人も大嘘つきだと思われる。
安部首相はプレゼンテーション後のインタビューで「新聞のヘッドラインではなく事実を見てくれ」と言った。
よくもまあ、こんなことを恥ずかし気もなく言えた物だ。
事実を見なければならないのは、安部首相本人だ。