雁屋哲の今日もまた

2012-12-31

2013年こそ良い年でありますように

年の終わりに思うこと。

1)「国民である」とは不思議なことである。
私は、自分から望んで「日本国民」になった訳ではない。
両親が日本人なので、そのまま「日本国民」となって、現在に至っている訳である。
これは、日本に限らず、どこの国の人間も同じことだろう。(ただし、国家としての体裁と機能を持った国についての話である。世界には部族国家が乱立していたり、中央政府がなかったりして、国家の体制も機能もない地域が沢山ある。
その地域の人達は、「国家意識」「国民意識」を持つのは無理だろう。)
日本は、明治維新後に西欧式の「国民国家」の仲間入りして、「大日本帝国」を作り上げ、その後敗戦によって「日本国」と改称したが、名前が変わっても「国」の体裁と機能は変わらず、「日本国民」という形もそのまま続いている。
明治維新によって、何が何だから分からないうちに、「大日本帝国国民」とされた我々の親のまた親の親の世代はそのまま「大日本帝国国民」であることを受け入れ、私たちその子孫は自分の意志とは関係なく「日本国民」とされたのである。

私が日本国民である、と言うことは私の決めたことではないし、それに対して合意した訳でもない。
とは言え、考えてみれば、生まれたばかりの赤ん坊である私に両親が「日本国民となることに同意するか」と確かめる訳もない。
私にとって、日本国民となることは、他に選択のしようもないことだった。
これは、どこの「国民国家」でも同じことだろう。

私は「日本国民」であるから、日本の法律に従わなければならない。
日本の法律では、選挙で過半数の勢力を握った政党がこの国を支配することになっている。
今回自民党が国会の過半数の議席を獲得し、自民党政府が成立した。
私自身、自民党の考え方、すること、政策、に反対だが、選挙で過半数を取った政党が、国を支配するという法律がある限り、日本国民である私はそれに従わなければならない。

それにしても、選挙民の過半数を取った政党が政権を取る、と言う今日本の方式は必ずしも民意を正確に反映した物だとは言えないだろう。
何しろ、棄権した有権者が40パーセントを超えているのである。
自民党の比例区得票率は27.6パーセント。
有権者60パーセントの中の27.6パーセントだから、有権者全体では、
大雑把に計算して、60×0.276=16.56パーセント。
これだけの支持しかないのに、自民党が第一党になり、日本を支配する。
私も、自民党の支配に従わなければならない。
何だか腑に落ちない話である。

日本の今の選挙方式の一番の欠陥は、棄権率が非常に高いことである。
オーストラリアでは、選挙は義務であって、投票に行かないと罰金を科せられる。
従って、オーストラリアの投票率は100%近い。
これであれば、どんな選挙結果になっても多数決だから仕方がない、とみんなが納得するが、日本の今の方式では、本当の多数決とは言い難い。
昔、自民党の実力者が、「投票率が低い方が自民党に有利だから、選挙には出来るだけ来ないで貰いたい」と本音を漏らして物議を醸したことがある。

私は、投票率100パーセントに近づいてこそ、日本の選挙は意味のある物になると思う。
(ここが、民主主義の不思議なところだが、ヒットラーは民主的な選挙によって選ばれたんだよね。民主主義と選挙についての不可思議な関係については、政治学者などが色々書いているので、そのような本を一度お読み下さい)

今の日本は、帆柱が半分折れ、帆がちぎれ、動力機関が故障した機帆船のような物である。
しかも、周囲は台風で、次々に高波が日本丸を翻弄する。
日本丸はどこへ行くのか、操縦している人にも、乗客達にも分からず、荒海の中をいつ沈んでもおかしくない姿で、さ迷っている。
この日本丸を操縦する船長は次々に代わり、そして、いま安倍晋三氏が新しい船長になった。
安倍晋三船長が、この沈みかけてよたよたしている船の、船底の栓を引きぬかないことを願うだけである。

2)どうして、日本の経団連などの財界人、自民党、民主党などの政治家は単純な算数が出来ないのか。

安倍晋三氏は、
a)原発の再稼働を認める。
b)新しい原発の建設を認める
と言う方針を決定し、経団連はその決定を大歓迎し、株価も年末にかけて上昇したという。

経団連、と言えば日本全体の経済の動きを左右する団体である。
この、経団連の主だった人達は、全て日本の大企業の頭だ。
彼らは、いわゆる学歴も世間的に見れば大変な物だ。
有名大学を卒業して、それぞれにまともな知的な思考能力に優れていると思われている人達である。
そういう人達であれば、中学程度の算数の学力は身につけているはずだろう。

原発の損得勘定は、単純に中学程度の算数の問題だ。

次の算数の問題を考えなさい。
P=原発を設立するためにかかる費用。
q=原発を維持するためにかかる費用。
r=原発を建てた地元の人間に対して支払う補償費(事故以前)
s=使用済み核燃料の処理費。
t=四十年稼働した後に、廃炉にするためにかかる費用(最低三十年かかる)
u=原発を稼働して得ることの出来る利益(電気料金)
としたときに、
u≧p+q+r+s+t・・・・(A)
が成り立つかどうか、考えなさい。
文章で言えば、原発を作ることによって得られる利益が、そのための諸々の費用を合わせた出費より大きくなるかどうか考えなさい、ということである。

この算数の問題の意味は誰にでも理解出来る物でしょう。
この6個の項目の中で、原発が利益になるのは、最後の1項目uだけである。
原発の採算が取れる為には、
uはp,q,r,s,tを合わせた物より大きくなければならない。
uが大きければ、原発は上手く行く。
uが小さければ、原発は採算が取れない。
ところが、
s=使用済み核燃料の処理費、は既に巨費を費やし、可能性のめどすら立っていない。
しかも、
t=四十年稼働した後に、廃炉にするためにかかる費用(最低三十年かかる)
を、考えたら、式(A)が成立することはあり得ないことが子供にも分かる。
(この廃炉にかかる年数が凄いね。四十年使った後、最低三十年経たないと、原発に使った土地は使い物にならない。使い物になると言ったって完全に安全な物になるかどうかも分からない。しかも、それにどれだけの費用がかかるのかまだはっきりしない。この1点を考えただけでも、原発は金の亡者達が祭り上げる邪神であることが分かる)

しかも、これは、原発に何事もなく、安全に運転されていてのことである。
一旦、今回のような事故が起こると、
p,q,r,s,tとは比較にならない巨額の《大損害の項目X》が加わる。
どのように考えても、
u<p+q+r+s+t+X
である。
原発を作り、動かすことによって、経済的には大きな損失をこうむる。

原発が正常に動いているとき、その間には一瞬、uが大きく見えて、原発は具合がよいように経団連の受験秀才たちは思って、「ええわい、ええわい、具合がええわい」と喜ぶ。目先のことしか見えない人達である。
最初に原発を作った人達はすでに死んでしまった。
幸せな死だった。
p,q,rについても、実際は国民にとっては損失なのだか、それによって利益を得た人は少なくない。
しかし、その後に残された私たちは、s,tの重荷を負わされた。

私たちの世代はまだ良い。
次の世代の若い人達は、sとtを押しつけられるだけで、何の利益も得られないどころか、さらに最悪の、《大損害の項目X》が加わった。
最近の報告では、東電は、福島第一原発の処理のために10兆円を援助するように政府に要求している。
国家として途方もない大損失ではないか。

経団連は経済的な利益を第一に考える人々の集まりのはずだ。
経済を第一に考える人達が、どうして、長期的に絶対的に巨大な経済的損失を生み出す事が明らかな原発を今稼働させようというのか。
それどころか、新しい原発を作ろうとまでしている。
経団連の主だった人達の年齢を見ると、みんな六十代半ば過ぎである。
彼らは、自分の属している会社の社長とか会長である今の時期の自分の利益しか考えていないのではないか。
ルイ14世の愛人、マダム・ポンパドゥールは心ある人に「そんなに無駄使いをしているとフランスの経済が破綻してひどいことになりますよ」と忠告されたときに、「Après moi le deluge」(我が亡き後に洪水は来たれ。私が死んだ後に洪水が来るなら来たらいいわ)と言ったそうだ。
経団連も安倍晋三氏も、マダム・ポンパドゥールと同じ精神構造なのだろう。
自分たちさえ良ければよい。「後は野となれ山となれ」で知ったことではない。
そういう神経構造でなければ、いま、この時期に原発再稼働、原発新設など言えるはずがない。

日本の政治経済を動かす人達が、単純な算数の問題を考えられないのは、いや、敢えて考えようとしない姿は、日本だけでなく人類の悲劇である。
ど腐れである。

今年の最後に、もう少し明るい話を書きたかった。
しかし、今の日本の状況を真面目に考えれば考えるほど、途方もなく不吉な黒い影に包まれるような気がするのである。

2013年こそ、世界中に良いことがあって欲しい。

雁屋 哲

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