雁屋哲の今日もまた

2012-07-04

やっと回復

シドニーに移動してからのこの3週間は最低だった。

5月に1回、6月に2回、福島に取材に行ったが、その取材が肉体的に、そしてなにより精神的にこたえたようだ。

食慾もなく、疲労感にうちひしがれ、コンピューターの前に向かう気力も湧いてこなかった。

今日あたり、少し体調が改善したようだ。

私は実に精神的に虚弱であり、少しでも辛いことには耐えられない。

福島での取材は、毎日が辛かった。

あのような境遇で、一生懸命生きる努力を続けておられる方々にお会いして、お話を伺い、その境遇を知る度に、恐ろしく効くボディー・ブローを次々に叩き込まれる思いがした。

お会いした方々、みなさん、この厳しい経済不況の中で農業に、畜産業に、漁業に努力を重ねて来たのに、それがあの震災に続く原発事故で一瞬にして破壊されてしまった。

何とか、震災以前の生活を取り戻そうと努力をしておられるのだが、状況は容易ではない。

震災による物理的な被害から復興することは、困難ではあるが不可能ではない。

しかし、原発問題が全てに足かせをはめてしまう。

 

例えば、福島沿岸の海域は世界でも有数の漁場だが、いま福島沿岸の魚市場は殆ど稼働していない。

動いている市場も福島沿岸海域以外の海でとれた魚を陸揚げしているだけである。しかも、それはその魚市場のほんの僅かな機能を動かしているに過ぎない。

 

相馬の原釜にある、相馬双葉漁業協同組合の市場を訪ねたが、市場は津波で破壊されていた。

どこの魚市場でも、その周辺には、漁業を支える様々な施設が必要である。

製氷工場、冷凍工場、種々の加工場、それらがあってこそ魚市場は機能する。

魚を獲ってきて,市場に並べるだけでは、どこの魚市場も市場として機能しない。魚市場を支えているのは、その周辺にある魚介類の貯蔵庫、加工工場である。

原釜の魚市場は、魚市場自体が破壊されているだけでなく、周辺の様々な、施設や工場が全て破壊されている。

魚市場の人達も何とか復興しようと努力した。

魚市場の先端部分を整備し、そこで船をとめて、獲ってきた陸揚げできるようにした。

ところが、福島近海の魚から放射能が観測されてしまったのだ。

そう言う魚は売る訳にはいかない。

折角魚市場を整備しても、肝心の魚を獲っても売ることが出来ないのでは、意味がない。

で、今も魚市場を始め、その周辺は見た目に廃墟のままである。

 

福島県は、浜通り、中通り、会津、と縦に三つに分かれている。

浜通りは、福島県沿岸の漁業が出来なければ、漁業による復興は不可能だ。

では、何時になったら、福島沿岸で漁業が可能になるのか。

最近になって、タコとツブ貝にはセシウムの蓄積量が少ないから市場に出すといてっている。

「タコと、ツブ貝」!?

タコもツブ貝も美味しい。

タコでもツブ貝でも売れるようになれば、それは幸せなことだ。

タコ漁、ツブ貝漁の専門の漁業者には大変に良いことだ。

だが、震災前までの福島の魚市場で、タコとツブ貝がどれだけの売上を上げていたと言うのだろう。

福島沿岸の漁業から言えば、ほんのわずかな物でしかない。

それで、福島の漁業の復興がなると言えるか。

今回、私が見た限りでは、福島沿岸の漁業は不可能な状態になっている。

漁協が試しに、魚を釣ってみるのだが、釣れた魚が国の決めたゆるい安全基準すら超えた放射能に汚染している。

とても、市場に出せる物ではない。

そんな訳で、今の状態では沿岸で魚を獲ってきても売ることが出来ない。

原釜の漁協がどんなに復興のために努力して、漁船が釣ってきた魚を陸揚できるようにしたところで、売れない魚ではその市場の機能も全く意味がない。

で、私たちが訪ねたときには、その新しく力を入れて作った市場の埠頭も使うことが出来ず、市場全体は、大きながれきは片付けられてはいたが、人の気配が一切無い、淋しい状態だった。

 

とここまで書いてきてが、去年から続けて来た福島の取材についてはこのブログには最小限のことしか書かないようにする。

と言うのは、この福島の問題は難しい。

とくに、そこで生きている人達のことを書くのは非常に難しい。

その状況、雰囲気も伝えるには、矢張り漫画でなければ難しい。

本当に書きたいこと,言いたいことは、「美味しんぼ」の「福島の真実」篇で読者諸姉諸兄に伝えたいと思う。

 

問題は「美味しんぼ」の「福島の真実」篇の開始時期なのだが、資料が大変な量になってしまって、それを整理するの時間がかかる。

さらに、漫画家の花咲あきらさんの、事情もある。

早くても、連載を開始出来るのは、10月くらいからではなかろうか。

それでは、去年の取材から一年も経ってしまうので、材料として古くなる恐れがあるが、それはその時点の事実として記録に残すためにも書く意味があると思う。

 

読者諸姉諸兄にお願いする「美味しんぼ」、「福島の真実」篇の開始が遅くなることをお許し願いたい。

 

その代わり、「福島の真実」篇は、福島の真実をウソ偽りなく、ごまかしも、きれい事もなく、きちんと書く。

 

それまで、時に、福島に触れる内容をこのページ書くこともあるが、福島の今の状況について真実を書くのは、「美味しんぼ」の「福島の真実」によってである。

本当のことを言うと、書きたくてうずうずしていることが沢山あるのだが、「美味しんぼ」の原稿を書くまで控えているのだ。

「美味しんぼ」で書くことを小出しに書く訳には行かない。

 

そんな訳で、「美味しんぼ」の「福島の真実」で、怒濤のように書き出すから、それまで、福島のことについては、ちょこちょこと書くだろうが、本当の本質は「美味しんぼ」で書くまで待って頂くように読者諸姉諸兄にお願いする。

雁屋 哲

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