雁屋哲の今日もまた

2010-12-04

桂歌丸独演会

 12月3日、横浜関内ホールで開かれた、桂歌丸独演会に、連れ合い、友人たちと聞きに行った。
「美味しんぼ」の取材でいつも協力してくれている安井敏雄カメラマンが席を取ってくれたのだ。取材の記録係を務めてくれている安井洋子さんも参加した。
 桂歌丸は大変な人気で、安井カメラマンが全部で七枚のチケットをとるのに非常に苦労させてしまった。
 しかし、以前にも書いたが、桂歌丸は本当に良い落語家になった。
 芸の奥行きが深くなり、落語本来の味わいをたっぷり味わわせてくれた。
 桂歌丸の落語も見事で楽しかったが、桂歌丸が横浜生まれで、生まれてから横浜から動いたことがないという純粋の浜っこなので、横浜の観客も、桂歌丸に特別の愛情を懐いているようで、千人以上の観客が全員桂歌丸後援会の会員ではないかと思うほど、桂歌丸にたいする暖かい気持ちが場内を満たしていて、それがとても気持ちが良かった。
 それにしても、落語というのはすごい芸だ。
 たった一人で、道具も、音楽も使わず、舌先三寸で千人以上の人々の心をつかみ、自由に操るのだ。
 世界中にこれほどの芸があるだろうか。
 桂歌丸は今日は気合いが入っていて、落語の中でもよほどの腕っこきでなければ演じない「鰍沢」を最後にたっぷりと熱演した。
 落語とはいえない、陰惨な話なのだが、全然嫌みを感じさせずに話しきったのが桂歌丸の手柄だと思う。
 鰍沢の前に、三遊亭遊雀が場内を笑いに包んだ。
 私は、三遊亭遊雀は今日初めて聞いた落語家だが、中々腕のある将来が楽しみな落語家だと思った。
 今日の演目は、話の筋は何も無い、ただの夫婦げんかを大家が仲裁に入る。その際の夫婦の言い分を、夫婦がそれぞれの立場から言う、ただそれだけのものなのだが、夫婦の言い分のおもしろさを、まるで隙もたるみもなく、勢い良くたたみかけて、場内に笑いを爆発させる話術は大したものだ。
 これから、追いかけてみたい落語家だ。

 落語を聞く前に腹ごしらえをするために、伊勢佐木町の入り口で入った天ぷら屋「とらや(登良屋)」が当たった。
 古い建物で、天婦羅のあぶらの匂いが外にまでするので心配したし、中に入ったら、天婦羅だけでなく魚も食べさせるという。
 ふつう、天婦羅だけでなく他の料理も食べさせる店と言うのは、どっちつかずで外れることが多いのだが、ここは違った。
 刺身が何種類か有るが、シマアジとかぶりなんか、養殖物だろう、などと言ったら、女店員が、「とんでもない、家は天然物しかあつかわない」というので、それを信じて、メジマグロ、シマアジ、イカの刺身を注文したが、実にびっくり仰天。
 秋谷に住んでいる私が、これはすごいと感心するメジマグロ、養殖物では味わえない良い香りのするシマアジ、それも分厚く大振りにたっぷりと切ってあって、本わさびがどっさりついてくる。
 しかも、ツマの大根の千切りも、この店でかつらむきから作るので美味しい。のりで巻いて食べてくれと言う。
 いや、刺身のツマの大根をのりで巻いて食べることの出来る店なんてそんなにないぞ。
 じつに、この刺身に感心した。
 天ぷらは、お徳用のコース一人前ずつに、それぞれ巻エビを追加した。
 こくのある揚げ方だが、標準を超えている。
 酒は駄目だ。何の酒だか分からない、燗酒しかない。
 それなら焼酎か何かにした方が良かったのかもしれない。
 しかし、驚いたのは、その料金だ。天ぷらを五人前、刺身を三種類、ビール中瓶二本、お酒三本、焼き海苔人数分、ご飯、味噌汁(うれしいことに、煮干しのだしだった)、香の物。
 これで、なんと二万円でお釣りが来た。
 落語を聞く前にちょっと小腹を満たして行こうなんて時には最高だ。
 実にうれしい店だった。

 今日は、食べ物も楽しかったし、仲の良い友人たちと楽しい落語をたっぷり味わって最高の夜だった。

 毎日こうありたいものだなあ。

雁屋 哲

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