雁屋哲の今日もまた

2010-12-03

しっこし(尻腰)のない国はごめんだ

 またまたご無沙汰してしまった。

 心身共に、絶不調のところに、社交が重なって余計に疲れてしまった。
 11月26日には、2004年に亡くなった友人の家に、仲間たちが集まった。
 亡くなったその友人がかつてよく行っていたと言う焼き肉屋で、亡き友人の夫人、私達四人の仲間それに私の連れ合いで亡き友人の分まで、大いに飲み食いした。
 その際に、私は嫌だ嫌だと言うのに中の一人が強引に、韓国の焼酎を注文した。韓国料理は大変美味しいのに、どうして韓国の酒は美味しい物がないのだろうか。韓国の焼酎は醸造用アルコールで造った、日本で言えば甲種の焼酎で、今日本で人気のある芋焼酎、麦焼酎など、本物の焼酎の味を知っていると飲めたものではない。
 しかも、その醸造用アルコールで造った焼酎を飲むと、私の場合ひどく応える。
 それなのに、飲み始めると収まりがつかなくなるのが私の悪いところで、しこたま飲んだ後で、亡くなった友人の家に戻り、彼の遺影の前で、ワイン、沖縄の島酒(これは、醸造用アルコールなど一切使っていない本物の蒸留酒)をまた飲んでしまった。
 そして、それ以後の一切の記憶がない。

 翌日はひどい二日酔で、午後三時過ぎまで起きられなかった。
 しかも、何故か膝が痛い。
 連れ合いが、私を慰めると言うより、射すくめるような目つきで私を見て「膝は大丈夫?」と尋ねる。
「どう言う訳か、左の膝が痛いんだよ」というと、連れ合いはおどろいて、「昨日の夜、転んだのを憶えていないの!」という。
 全然憶えていない。
 連れ合いの言うところでは、私は、お茶の入ったマグカップを持って寝室に入ってくると、そこで転んで、大変な大騒ぎになったのだという。
 そんなこと全然憶えていない、と言うと、連れ合いは、次々に、前の晩のことを言う。
 何一つ憶えていない。
 こう言う時の連れ合いの目つきは、実に、意地が悪い。
 刑事か、検事か、特高か、と言うような目つきで見て、いたぶるように次々に私の酔態を私に語って聞かせる。
 二日酔で苦しんでいる私に、私の酔態愚行の数々を言い立てるのである。
 何と言う血も涙もない無情な仕打ちであろうか。
 しかし、私が悪いのだから反論も出来ない。第一、反論しようにも記憶がないのだから、ぐうの音も出ない。
 がっかりしたのは、転んだ時に、お気に入りのマグカップにひびを入らせてしまったことだ。把っ手の上部にわずかにひびが入っただけなので使うのに問題ないのだが、そのひびを見る度に、自分の愚かな酔態を突きつけられるような気がして、泣く泣くそのマグカップは廃棄処分にした。
 11月は禁酒月間のはずだったのに、社交が続いて禁を破る事が重なった。
 これでは、禁酒は12月末まで延ばさなければならない。

 まあ、そんなこともありまして、このページの更新が滞りました。
 みっともないことでございます。

 でも、仕事の方も忙しくて、来年発行予定の「福沢諭吉」についての本を書くために、東大の資料センター付属の「明治新聞雑誌文庫」まで出かけていって、福沢諭吉の発行していた新聞「時事新報」の復刻版を丁寧に読んで、コピーを取ったりもしているのだ。
 東大構内は、この季節、銀杏の実が歩道に散乱していて、それを人が踏むものだからすさまじい匂いで包まれている。
 私が、コピーを取って、資料センターの外に出ると、買い物ついでに、私を送り迎えしてくれた、姉と連れ合いが、銀杏を拾っている。
 それはいいのだが、帰りの車の中に銀杏の匂いが充満して、秋谷に帰り着くまでその匂いに苦しめられた。

 このページの更新が滞った原因の一つは、あまりに最近の世相のひどさが、余計に私の鬱を昂進させるからである。
 本当に嫌なことばかり。
 新聞を読んだり、テレビのニュースを見るのが本当に嫌になる。

 テレビは、「釣りビジョン」というチャンネルに限りますな。
 私は脚にハンディキャップがあるから、出来る釣りが限られているが、釣りが大好きなので、見ていると本当に心安らぐ。
 しかし、驚くのが、釣りの用具と技術の進歩のすさまじさだ。
 何がすごいって、釣り竿から、釣糸、リール、などの釣り具の恐るべき進歩。さらには見たこともない偽餌類の数の多さ。
 何が何でも釣ってやると言う気合いというか、何事でも夢中になると徹底しないと気が済まない日本人の国民性がこんなところにも表れていると、感じた。
 大学院大学の小松教授にお話を伺ったときに、「遊漁による、漁獲量が馬鹿にならない」と仰言っていたが、「釣りビジョン」を見ていると、「こんなに釣ることもないだろうに」と思うときがある。
 本音は、「俺にも釣らせてくれーっ!」というところである。

 しかし、世の中は「釣りビジョン」だけを見ているわけにも行かないところがある。

 金正日氏が韓国の、延坪島(ヨンビョンド)〈日本ではヨンビョン島と言っているが、韓国・朝鮮では島は(ド)と読むようなので、現地言葉に合わせる、日本だって「富士山」のことを「ふじやま」などと言われると不愉快だものね〉を砲撃したのにも、怒りを覚えた。
 金正日氏は何故、この時期に、無意味で残虐な砲撃などしたのか。
 11月28日からの韓米合同演習にたいする、北朝鮮の対抗意識を表明し、金正雲氏に権威を与える為に行われたものだという説が今のところ有力だ。
 北朝鮮の新聞によると、金正雲氏は砲撃の天才で、今度の延坪島(ヨンビョンド)砲撃も韓国の挑発に対抗するもので、金正雲氏は砲撃術も極めているのだそうである。
 あの、ぽっちゃりとした、少年の面影を残している青年が砲撃の天才と言われても俄には信じがたいが、本人がそう言うなら、それを否定する材料はこちらにはない。
 しかし、だからどうした、と言うのだ。

 金正日氏はそれ以前にアメリカの学者に、ウラン濃縮の遠心分離機を多数見せて、北朝鮮が核兵器に使用可能な濃縮ウランを作っていると言った。
 見せられたアメリカの学者は、アメリカに帰って、「北朝鮮は核兵器を更に増産する準備を整えている」と言って、いまにも北朝鮮が何発もの核兵器を作り出すかのように言った。
 真剣におびえた表情で言ったが、あのアメリカ人の学者は本気でそんなことを言ったのかしら。
 私は疑い深いから、金正日氏がその濃縮ウラン作成の工程を見せたことでかえって怪しいと思った。
 あの遠心分離機は、本当に動いているのか、それも毎日きちんと動かせるだけの電力が北朝鮮にあるのか。あのアメリカ人の学者が来た時だけ動かして見せたのではないか。
 そもそも遠心分離機の中にちゃんとウランが入っているのか。

 ウラン濃縮工場を見せる。
 延坪島(ヨンビョンド)を砲撃する。
 この二つで、
 

  1. 北朝鮮は核武装を増強する。
  2. 北朝鮮にはいつでも戦う用意がある
  3.  

 ことを見せつけて、さあ、どうする、と韓国・アメリカを脅迫する。
 脅迫して北朝鮮に有利な条件を引き出そうとする。

 これは、金正日氏のいつもの手ではないか。
 それも、今度は今までに比べて大分、手札が弱い。
 以前は、核兵器の実験をして見せた。(成功、不成功を問わず)
 ミサイルの実験もした(成功・不成功を問わず)

 それに比べると、今回は核兵器を作る初期段階の遠心分離機を見せただけ。
 ミサイルではなく、砲撃をして見せただけ。(実際に韓国人の兵士、民間人に犠牲者を出したのは、ただ砲撃するだけでは弱い思ったからだろう。)
 遠心分離機と砲撃では、核爆発の実験とミサイルに比べて脅迫の道具としては、大分弱くなった、北朝鮮が持っている脅迫手段はこれだけしかないことを見せつけてしまった。
 金正日氏は、今回のことで、反って北朝鮮が如何に無力なのかはっきりさせてしまった。
 逆効果だったな。

 しかし、これで、金正日氏には十分なのかもしれない。
 実際に、北朝鮮は韓国と戦争を始めたら、一般には一月も持たないと言われているが、私は、一週間が関の山だろう、と思う。
 戦争をすれば、確実に金正日氏は殺される。殺されるだけではなく、将軍様としてあがめられている今の虚名が全て失われる。名誉も何も汚泥の中にたたき込まれる。
 それだけでなく、自分の親族たちも、無事でいることは不可能だろう。
 金正日氏の一番いやがることだ。
 だから、金正日氏は絶対に戦争は出来ない。
 彼に出来ることは、今度のような脅迫だけだ。
 その脅迫も、もう手詰まりになった。
 金正日氏は戦々恐々としている。
 何とか生き延びたい。
 自分が死んだ後も、自分が、あがめられ続けられるように、権力を自分の息子に譲って、この体制を続けられるようにしたい。
 金正日氏の願っているのはただそれだけである。
 実に卑小な人間ではないか。
 彼の目には、北朝鮮の人民がどんなに悲惨な生活をしているか見えない。
 見る気がない。

 Wikileaksがアメリカの秘密報告書の中で「北朝鮮は二、三年で崩壊する」と報告していることを暴露したが、アメリカだけでなく世界中がそう思っているのではないか。
 金正日氏のあの顔つき体つきからして、やっと生きながらえているとしか思えない。
 アメリカが「北朝鮮は二、三年で崩壊する」と踏んだのは、金正日氏が二、三年で亡くなると計算しているからだろう。
 金正日氏が亡くなった後、金日成氏、金正日氏の場合のように金正雲氏にすんなり権力が移譲できるはずがない。
 金正日氏が権力を引き継ぐまでには、金日成氏が健在である十分な時間があった。
 金日成氏が健在な時に、すでに金正日氏はラングーン事件、など独自の強硬路線を開始していた。
 金正雲氏には、金正日氏のような時間がない。
 しかも、金正日氏は最後の最後まで権力は自分が握ったまま譲らないから、たとえ、金正雲氏を後継者として決めたとして、金正日氏が亡くなったときに、金正雲氏は何も実際の権力を譲られていないことになる。
 金正日氏のやりかたは矛盾している。
 金正雲氏に世襲したいのだが、権力は譲らない。
 死ぬまで権力を譲らないだろう。それでは、三代世襲が成功するわけがない

 ともあれ、金正日氏は、三世代世襲を狙って、金正雲氏に箔をつけさせるために、今回の無謀・残虐な脅迫行為を行った。
(今までの脅迫行為でも、何一つ譲らなかったアメリカが、前回より格段に威力の小さい脅迫行為で何かを譲歩するとは、金正日氏だって、考えなかっただろう。
 彼の頭の中にあったのは、金正雲氏に箔をつけること、それだけだっただろう)

 だから、今回の延坪島(ヨンビョンド)砲撃は、北朝鮮の前向きの攻撃姿勢を示すものではなく、内向きの退嬰的なものでしかない。
 今回の砲撃で、私は、北朝鮮はせいぜいこんなことしかできないのだと、はっきりと理解した。
 今回の砲撃は、北朝鮮はこれ以上のことは出来ない、と言う無力宣言である。

 ところが、驚いたことに、菅首相は、この砲撃を機に、日本の朝鮮高校の無償化を考え直すと言い出した。とりもなおさず、有償にすると言うのだ。
 日本の他の高校と差別するというのだ。
 実に情けない。
 こんな事をしても金正日氏には何の痛みも与えない。
 政治的影響も与えない。政治的に無意味な行動である。
 何のためにこんな事をするのか。
 最近日本では、日本人の一番嫌な汚い部分を煮詰めて固めたような、排外主義をあおる市民団体と称する愚民団体が跋扈している。
 菅首相は、その排外主義的愚民団体に追従するつもりなのか。

 確かに朝鮮総連の中には、金正日氏の配下もいるだろう。
 教科書の中に日本が過去に朝鮮に対して行ったことを記述しているところもあるだろう。
 しかし、その点については、つい最近朝鮮高校も無償化すると言うときに議論されているはずだ。
 議論の結果、その点は問題にせず朝鮮高校も無償化する決めたはずだ。

 それを、延坪島(ヨンビョンド)砲撃を理由に無償化を考え直すと言い出すとは、それでは金正日氏と同列に並ぶことになる。
 金正日氏の卑小さに、自分を合わせようというのか。
 同じ卑小なことをしようと言うのか。
 誇りを持ってくれ。
 日本には、「しっこし(尻腰)のない奴だ」言う言葉がある。
 ちょっしたことに怯えて、うろたえて、自分の信念を放棄して態度をころころ変える人間を、あざけって言う言葉だ。
 本当に、菅首相の、今回の態度は「しっこしがない奴」とあざけられて当然だ。
 菅首相は、誇りを持って、こう言うべきだ。
「金正日さんよ、あんた、そんなことしたって、わしらびくともしないぜ。
 わしら日本は、個人の自由と人権を守る民主主義の国なんだ。
 信教の自由、思想の自由、個人の人権はきちんと守る。
 朝鮮高校の生徒たちが、たとえあんたの思想を吹き込まれていようと、それは思想の自由。日本人の中にも、あんたの思想にかぶれているものがいるが、それは個人の思想の自由だから、批判はされてもそれで国から実害を受けることはない。
 朝鮮高校の生徒たちが、共和国の国籍でも、日本に住んでいるからには、日本の子供たちと平等に扱う。
 ましてや、その生徒たちの親は、日本に納税している。
 納税者の子供たちは、日本の子供たちと平等に扱われる権利がある。
 わしら、日本は、あんたと朝鮮高校の子供たちとは別に考える。
 子供たちの未来を愚かな政治家の故に台無しにするほど、わしらは遅れた国民ではない。
 繰返すが、わしら日本は、信教の自由、思想の自由、個人の人権を守る民主主義の国だ。
 あんたの、一度の延坪島(ヨンビョンド)に対する砲撃くらいで、わしらの主義は変わらない。」

 菅首相、頼むぜ。
 日本を「しっこしのない」国にしないでくれ。
 ここで、金正日氏の一回の延坪島(ヨンビョンド)に対する砲撃におたおたして(日本が砲撃されたわけでもないのに)、朝鮮高校の生徒たちに非道なことをしたら、日本は世界の笑いものだぜ。
 日本の誇りを保ってくれ。

雁屋 哲

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