雁屋哲の今日もまた

2009-10-17

アルコール依存症のテスト

 今日で、入院8日目。
 昨日は目の検査をして貰った。
 シドニーの病院で、網膜にある黄斑に少し異常があるので三ヶ月に一度くらい点検に来るように言われている。黄斑とは網膜からの信号を脳に伝える一番大事な部分で、ここがやられると失明する。
 ここ数日、原稿を書いていて原稿用紙の枠と、文字がかすれて乱れるよう見えてきた。ステロイド大量点滴のせいかと心配して医師に相談したら、即決で眼科で診察してもらえることになった。
 シドニーの眼科に、日本製の最新の機械があって、それで網膜の断層写真を撮ってもらってその技術に驚いたが、なんの、こちらにはそれの上を行く機械があった。
 網膜は10層からなるのだそうだが、ここの機械はその10層を全部ではないがかなり細かく読み取れる。
 その画像がすぐにコンピューターのディスプレイに出て、それを見ながら医師が説明してくれる。
 医師に前もってシドニーの機械の話をしていたものだから、医師は自分の機械を使いながら、これが一番新しい機械なんですよ、とほほ笑んだ。
いや、参りました。やはり、シドニーの眼科より遙かに進んでいます。
 私は、シドニーで両目の白内障の手術をして二人の医者にかかったが二人とも失敗した。それが、シドニーでも有名な眼科医だからあきれる。結局日本へ帰ってきて日本の医師に手直しをして貰わなければならなかった。
 私の母は東大で手術をして、当たり前だけれど、すんなりと上手く行った。
 今時、白内障の手術の失敗をするなんて、と日本の友人たちにあきれられた。
 ああ、私も東大で手術をしていれば良かった。

 黄斑の具合は、悪くなっている兆候はない、という有り難い結果で、原稿用紙が見づらくなったのは、このところ書いている六ヶ所村の話で手こずっているからだろう、と思う。
 今日、明日、明後日の午前中点滴治療を受けて、明後日の午後退院する。
 あっという間に8日間経ってしまった。
 その間、六ヶ所村の原稿に苦しみっ放しである。
 こんなに苦しい原稿はない。
 きちんと書くと、何しろ原子力の話だから、読者には面倒くさくて読む気をおこさせなくなるおそれがあるし、かといって、余り簡単にしてしまうと正確でなくなるし、そこのところの見極めが一番難しい。
 漫画として面白く読んで貰いたいと言うのが一番だが、こういう話はそもそも面白くない、と言われればそれまでだし、漫画原作者として本当に苦しいところだ。

 話は違うが、今週の週刊朝日で元財務相の中川昭一氏の急逝を取り上げて、「アルコール依存症、死に至る病」というおどろおどろしい題名の記事が掲載されていた。
 今年二月のローマのG7でのもうろう記者会見は私もネットで見たが、確かにあれは泥酔状態の人間の姿だった。
 氏は、大変に繊細な性格の人間だったそうで、政治の世界は辛かったようだ。その辛さを紛らわせるために酒に頼ったのではないかと、推測されているが、もしそうだったらさぞ苦しい酒だっただろうと同情せざるを得ない。
 氏の思想は私には受け入れられる物ではなかったが、氏が政界に登場したときには、新鮮で、感じの良い好男子だと思った。それが、麻生内閣の一員になりテレビに頻繁に顔を出すようになって、昔とは面変わりしているのに驚いた。あの新鮮で、さわやかな感じは消え失せ、不機嫌で、苛立った表情ばかりで、いつも疲れているように見えた。
 それも、酒のせいだと言われれば納得がいく。
 良く、「酒は憂いを払う玉箒」などと言われるが、それは嘘だ。辛いときに酒を飲むと余計に辛さを増す。苦しさを増す。
 その時は一時気分が高揚したように思うが、その酔いが覚めたときには、前よりひどくなっている。もともと、酒はダウナー系の働きを人間の脳に及ぼすので、「鬱」の人間にはよろしくない。
 政界で生きて行くのは本当に大変だと思う。人間と人間の欲のぶつかり合いが政治だから、繊細な神経の持ち主には厳しすぎるだろう。
「鮫の脳みそ」と言われても平気でのさばり続ける鈍感さが無ければやって行けない。その点、氏は政界には不向きだったのかも知れない。

 この記事の中で気になったのは、CAGEテストと言う物が書かれていることだ。次の4項目の内2つ以上当てはまる人は、アルコール依存症の疑いがあると言う。
 その4項目とは、

  1. あなたは今までに、自分の酒量を減らさなければならないと感じたことがありますか。
  2. あなたは今までに、周囲の人に自分の飲酒について批判されて、腹が立ったり困ったりしたことがありますか。
  3. あなたは今までに、自分の飲酒についてよくないと感じたり、罪悪感を持ったりしたことがありますか。
  4. あなたは今までに、朝酒や迎え酒をしたことがありますか。

 と言うのだが、私は困りましたね。
 私は2つ以上どころか、この4つ、全部に当てはまる。
 酒さえ飲んでいなければあんなことはせずにすんだのに、と深く後悔することが人生の中で幾つもある。
 これだけで見れば、私は立派なアルコール依存症だ。
 しかし、私はその気になればいつでも酒をやめられる。現に、10月8日以来飲んでいないのに、何ともない。これで後2週間以上禁酒をしなければならないがそれも全然苦にならない。
 一時は朝起きたらすぐに飲み始め、夜寝るまで酒の切れたことがないような生活をしていたが、そんな物もやめようと思えばすぐにやめられた。
 私の連れ合いは、私に「もう他の人の人生2回分くらい飲んだからいいんじゃないの」などと言うが、私が酒を飲んだからと言って文句を言ったりしない。
 それは基本的に私の酒が陽気な酒であり、悪ふざけをして呆れられたりするが人に余り害をなさない(と自分だけで思いこんでいる)からだと思っているが、余り調子に乗って大騒ぎをして連れ合いや子供たちを困らせたことは何度もある。
 連れ合いの私にたいする接し方は、困った子を扱う幼稚園の保母さんか、我が儘な患者をなだめる看護婦さんみたいである。娘たちの私に対する態度が最近連れ合いの態度に似てきた。どうも、父親としての権威なんて物はとっくに失っているらしい。
 ええっと、何を言いたいかというと、上記のような心理テストと言う物は当てにならないと言うことだ。
 私は、全部の項目に当てはまるのに絶対にアルコール依存症ではない。
 最近は、酒を飲まずに過ごすと、大変気持ちがよいと思うようになってきたので、酒飲みとしてはもはや失格だろう。
 私の友人の中には、肝臓の数値が悪いのに(ガンマGTPが200を遙かに超えているのに)平気で酒を飲み続けている人間が何人かいる。
 私には彼らのような勇気がないし、第一私の肝臓は丈夫なのでそこまで悪くならない。
 そんな私だから、CAGEテストなどしてみても、へへん、と鼻で笑えるのである。
 てな事言っておいて、また大量飲酒を始めて、あっという間にアルコール中毒なんてことになるかも知れない。
 桑原、桑原。

雁屋 哲

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