雁屋哲の今日もまた

2009-06-26

トリュフ狩り

 先週の日曜日、キャンベラ(オーストラリアの首都。シドニーとメルボルンの中間くらいの位地)の近くサットンと言うところで行われた、トリュフ狩りに招かれて参加した。
 驚くべし。
 オーストラリアでも、フランス風の黒トリュフが、採れるんですよ。
 トリュフは、イングリッシュ・オークという樫の木の一種(葉っぱの形は柏の葉っぱそっくり。形はそれより小さいが)の細い根に生える。
 トリュフは地面の下に育っているので、見付けづらく、フランスでは、豚、イタリアの白トリュフの場合は犬に匂いを嗅がせて発見する。
 こちらでは、犬を使ってトリュフの匂いをかぎ当てさせて発見する手を使った。
 イタリアの白トリュフの場合、犬が白トリュフが大好きなので、犬が白トリュフの匂いをかぎつけて地面を掘り始めた瞬間から、飼い主と犬との争いになる。最悪の場合、飼い主が犬の耳に咬みついて犬を引っ込ませてトリュフを奪う。
 私は十数年前に、NHKの番組作りのために、イタリアに白トリュフを取りに行って、犬と飼い主の、トリュフを巡ってのすさまじい争いを見てたまげた。
 本当に、白トリュフを争って犬と飼い主が激しく戦うのである。
 犬と言えば、日本では、「ここ掘れわんわん」、で大変に忠実な動物だと思っていたが、流石の犬も、こと白トリュフになると、飼い主なんかどうでも良い。とにかく食べたい、と発狂状態になる。
 イタリアの白トリュ狩りの人間は二匹の犬を使っていたが、その男の両腕は、トリュフを犬が見つけた時に犬と争ってトリュフを奪う際に犬にかみつかれた傷跡が筋状に何本も生々しく残っているというすさまじさだった。
 フランスでは、犬ではなく豚を使うから、トリュフ狩りの人間にはそんな危険はないだろうと思っていたら、今回、トリュフ狩りを催してくれた側の人の話を聞いて驚いた。
 やはり、豚もトリュフが大好きで、(だから、当然必死になってトリュフを探すわけだが)、トリュフを見付けると猛烈に食べたがる。
 そこで、やはり、トリュフ狩りと争いが起きるのだそうだ。
 恐ろしいことに、犬はかみつくだけだが、豚の場合、その噛むあごの力がすさまじく1平方センチメートルあたり40キログラム以上の力がかかる。しかも、豚の前歯は薄いから、その薄い前歯にかかる力は凄いことになる。前歯はカミソリのようになる。
 したがって、豚に噛まれると、人間の指なんか、軽く切断されてしまう。
 フランスのペリゴール地方は、トリュフの産地だが、そのあたりで、指が数本欠けている人間は、トリュフ狩りの人間だとすぐ分かるという。
 こうなると、トリュフ狩りの被害は豚を使うフランス人の方が大きいが、その味となると、イタリア産の白トリュフの方が遙かに美味しく、私に言わせれば、比較にならないという感じなので、大変に不公平な感じがする。
 腕に傷を負うのと、指を数本失うのとでは被害の程度が違いすぎるし、しかも、白トリュフの方が数段美味しいと来ているんだ。
 それにしても、写真で見る、豚を使ったトリュフ狩りなんて優雅な感じだが実際は恐ろしい物なんだと知った。
 流石の美味自慢フランス人も、フランスの黒トリュフとイタリアの白トリュフの件になると、口惜しげに、「イタリアの白トリュフはなあ」と夢を見るような表情になる。
 その男は日本のことを良く知っていて、日本では指がかけているとやくざだと思われるのにねと、言うので、皆で大笑いした。
 それほど、人間だけでなく犬でも豚でも、正気を失うくらいに、トリュフの香りは魅惑的で美味しいのだ。
 今回使った犬は、トリュフ狩りのために訓練された犬で、ラブラドールとオーストラリアの牧場あたりで普通に飼われている犬との混血で、大変におとなしく、トリュフを見付けると、その地面の上を脚でひっかいてみせる。「ここ掘れ、わんわん」である。
 そこを飼い主が掘るわけだが、その間、犬はおとなしくしている。
 犬の言うとおり、トリュフが出て来ると、飼い主は大喜びで犬を讃めて、ちょっとしたドッグフードなど与える。犬はトリュフを食べたい樣子を見せない。
 実に、良く訓練されている。
 そのトリュフは、駐キャンベラの小島日本大使と友子夫人のご好意で、大使館勤務の料理長関口靖男さんと、同行した、シドニーのレストラン「ブランシャル」の犬飼さんが腕を振るって料理してくれた。(料理の中身は、「雁屋哲の食卓」でもうじきお見せできるはずです。どうも、写真の整理に手間がかかってしまって)
 私のようなトリュフ狂の人間には最高の一日だった。
 しかし、考えたのだが、トリュフもオーストラリアでは一番高価な食材として扱われているが、栽培するのは、遙かに松茸より簡単だ。
 日本でも、絶対に生やせる。
 日本の松茸や、本物のシメジは、木の根から菌糸が地面に広がって白という菌糸の充分に育った地域を作らなければならない。松茸はその菌糸の広がった地面に生えるのである。直接松の根から生えるのではない。しかし、人工では地面に菌糸を広げるのが仲々難しく、松茸の栽培は今まで成功したことがない。
 ところが、トリュフはオークの細い根に生える。地面から生えるのではないところが松茸と根本的に違う。
 地面に菌糸を広げなくて良いので、栽培は松茸より遙かに楽だ。
 世界的に言うと、非常に高価で松茸より需要のあるトリュフがこんなに簡単に栽培できるのなら、日本でも、試したらどうだろう。
 松茸を愛するのは日本人だけである。他の国の人間は松茸の味を理解しない。
 トリュフの方が遙かに世界的な市場が大きい。
 私も、やって見ようかな。
 秘密で色々教わったノウハウもあるし、物書きなんか止めて、トリュフ栽培で余生を過ごすというのも悪くない。

 こんな風にものを書いていると、つい、誓いを破って人の悪口を書いてしまいそうになる。
 だが、トリュフ栽培なら、人の悪口とは無縁だ。
 そっちの方が、楽しそうだな。
 よし、吾が輩は、日本のトリュフ王になってやんべえか。

 でも、人悪口を書くのもたのしいしなあ。
 き、ひ、ひ、ひ、ひ。
 それにしても、トリュフは美味しい。
 七月になると、タスマニアからのトリュフが入って来る。
 うかうかしてられませんぜ。
 もう、気もそぞろ、と言う感じだね。
 ただね、本当にトリュフとぴったりというワインは何だろうと、その件については、いまだに頭をひねっていますね。
 やはり、メルローかなあ、最近はやりのシラー(Shiraz)は私には向かない。
 それしても、どうして最近はどこに行っても、シラー、シラーと人気なんだろう。
 流行という物なんでしょうかねえ。
 シラーなんて物は・・・おっとっと。
 また人の悪口を書きかけしまった。
 味覚はその人個人による物だから、他人の味覚をあれこれ言っても仕方がないが、最低の基準と言う物はあるぜ。
 でも、シラー、なんてなあ・・・・・・。

 ああ、これで、また何人か敵を増やしてしまった。
 この辺で、楽しかった、トリュフ狩りの報告は終わり!
 実際の樣子は、近日掲載予定の「雁屋哲の食卓」で見てください。

雁屋 哲

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