雁屋哲の今日もまた

2009-06-18

漫画家の悲鳴

《「雁屋哲の食卓」に「イカ釣りとイカ料理」を掲載しました。》

 ええ、今回話を始めるに当たって、私が、裏庭のキノコについて書いた箇所で間違いがあったので訂正します。
 松茸や、シメジは、菌糸が地面に広がって、そこからキノコが出て来るので、「菌糸菌」と書いてしまいましたが、あれは「菌根菌」の間違いでしたね。
 いつも、ちょっとした間違いで、沢山メールを頂くのに、今回はまだ誰も間違いを指摘するメールを送って下さらない。
 ふ、ふ、ふ。
 読者諸姉諸兄の皆様、見のがしましたね。

 ところで、あのキノコの話を書いたら、読者の方から、「自分の地方では、あのキノコを『落葉』と呼んで、味噌汁に入れて楽しむ」というメールを頂いた。
 で、実は、今日裏庭で娘たちが、新たに同じキノコが生えているのを発見して採ってきたんです。
 乳粟茸です。
 で、早速読者のおっしゃるとおりに、今夜は味噌汁に入れて食べました。
 本当に美味しいキノコだ。
 味噌汁に入れることを教えてくださった読者の方に、感謝いたします。

 さて、昨日、自民党党首麻生太郎氏と、民主党代表鳩山由起夫氏との党首会談が行われた。
 その途中で、民主党鳩山代表が、麻生首相に次のような質問をした。

「あの2006年からでしょうか、社会保障費、これも聖域ではないとの発言の中で2200億円がどんどん削られてしまった。これは大変な、国民にとっての災難であった、そのように思います。
 診療報酬もずっとしばらくの間下がり続けていたわけであります。私どもも診療報酬に対して、すべてとは言いませんが平均して2割上がるくらいの診療報酬に戻さないと厳しいのではないか、そのように感じているところでありまして。都合8000億円程度はどうしても今緊急に手当てをする必要があるのではないか、そのように私どもは計算をいたしております。」

 それに対する、麻生首相の言葉は、

「財源がなければこういう話は極めて無責任になりますので、財源を提示して初めて政策が実現しうると思っておりますので、財源というものに関する見解をお聞かせいただければと思います。」

 であった。

(毎日新聞による)

 私は、発狂しそうになった。
 日本はアメリカに駐在するアメリカ兵とその家族のために「思いやり予算」として、毎年、6700億以上の金を支払っている。
 しょっちゅう、強盗をしたり、地域の女性を襲って傷つけたりしている米兵を思い遣るために、6700億円使いながら、日本人の健康を保つための財源がないから、それについて民主党についておたずねしたい、とは何事だ!
 首相の頭は、完全に、セメント化している。
 日本の首相として、一体何に思いやりをしなければならないのか、そこをきちんと考えられないのか。
 それどころか、アメリカ軍の事情で、基地をグアムに移す費用も日本が持つという。
 日本は、ずっとこの60年間、今の麻生首相のお祖父さんの吉田茂がマッカーサーに平伏して以来、アメリカの植民地だから、どうしようもないのだろう。
 しかし、それなら、それで、医療費くらいきちんと予算に組めないのか。アメリカの植民地である限り日本国民に「思いやり予算」は組めないのか。
 何が、財源だ。情けないことを云わないで貰いたい。

 さらに、あきれるのはアニメの殿堂というか、漫画の殿堂を造るために117億円使うと言う。
 私は、漫画の世界で30年以上生きて来た。
 その私が言うのだ。そんな物は作らないでくれ。
 大げさな言い方かも知れないが、私達漫画家は、この世界みんなに楽しんで貰いたいと思って漫画を作っている。
 そんな私達に殿堂なんて絶対にいらない。
 そんなお金があったら、医療とか、高齢者福祉のために使って貰いたい。
 第一、日本のアニメを支えている、アニメーターと云う、一番最先端の現場で働いている若者たちがどんな苦しい生活をしているのか知っているのか。麻生さん。
 日本のアニメは確かに、世界に誇る文化だ。
 しかし、その現場で働いている若者たちは、労働時間が長い上に、極端な低給料のせいで、顔色も悪く、髪の毛もぱさぱさで、生きているだけでやっと、と言う有様なのだ。
 その若者たちは、何時かは自分たちも、宮崎駿氏のようなアニメ監督になりたいという夢を抱いているのだが、神は残酷で宮崎監督のような才能はそんなに大勢の人に与えてくれない。
 私はスタジオジブリの実態は知らないが、他のアニメの製作会社のことは知っている。
 若いアニメーターの生活がどんなに苦しいか知っている。
 しかし、ある程度の資金が有れば、宮崎監督までは行かなくとも、見る人を感動させるアニメーションを作ることが出来る才能を持った若者たちも少なくないのだ。
 本当に、日本のアニメや、漫画を、日本にとって大事な文化産業として考えるなら、そんな建物なんかは必要ない。
 漫画家のアシスタント、アニメの制作現場で働く若い人達に、その資金を回して貰いたい。
 そうすることでこそ、本当に、漫画やアニメが日本の大事な文化産業となるだろう。
 アニメの殿堂なんて建物だけ作ると、儲かるのは、その建物を造るゼネコン、そして、その殿堂を運営するために必要な官僚たち。
 結局、そんな、アニメの殿堂なんて物は、ゼネコンと官僚たちに新しい仕事を与えるだけのもので、現実の、漫画やアニメの制作に携わる若者たちにはなんの意味も、助けにもならない物だ。
 と言うことは、漫画、アニメを、日本初の文化として輸出しようという趣旨と大きく外れる物だ。
 そんな殿堂を造ったら、117億円では済まない。
 その管理維持費、その管理に携わる官僚の給料。
 そんな物で、馬鹿馬鹿しい金が出て行く。
 まさに、官僚のための政策でしかない。
 アニメ・漫画産業の首を絞める政策でしかない。

 麻生首相は漫画が好きだと云うので大変に好意を抱いた。
 秋葉原でも、いわゆるオタクたちに、親しく呼びかけた。
 それに対しては、漫画家の端くれとしての私も、嬉しいと思った。
 しかし、この、アニメの殿堂は、漫画家の抱えている問題とはかけ離れている。
 こんな金があったら、老人福祉に回してくれ。
 117億円で建物を建てたら、その後、毎年何億も維持費がかかる。
 それは、全部官僚の懐に入る。
 頼むから、そんなことは止めてくれ。これ以上、官僚に余計な金を回さないでくれ。
 そうでないと、社会が疲弊して、漫画を読んでくれる人がいなくなる。
 これは、漫画家としての悲鳴なんだ。

雁屋 哲

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