雁屋哲の今日もまた

2020-06-26

ネットで漫画を読むこと

前回、このページで「お別れホスピタル」の漫画を読むことの出来るページを紹介した。

私も、そのページを読んでみたのだが、大変に気になるところがあった。

それは、漫画のページが上から下に繋がって表示されることだ。

これは、私だけでなく、日本の漫画制作に関わってきた人間にとっては我慢の出来ないとこだろう。

私が漫画の制作に関わるようになって、まず、編集者から言われたことは、「ページのめくりを大事にしろ」と言うことだった。

日本の漫画は右から左に向けて次々にページをめくって読んでいく。

西欧の本は左から開く。右開きに離れていない、と言って、漫画が海外に紹介され始めた1970年代ごろには、右開きの漫画を無理矢理左開きにしていた。どうしてそんなことが出来たかというと、画稿を裏返しに印刷すると、右開きを左開きにすることが出来るのだ。

1900年頃までは、日本の漫画は無理矢理左開き印刷で海外では売られていた。

私の漫画は海外で人気があった。香港や、アメリカの中華街に行くと私の本の海賊版が本屋の店頭に平積みにして置かれていた。

漫画にはよく絵の中に、効果音が書き込まれる。男組で言えば、「はあーっ!」とか、「ええーいっ!」とか、「でーいっ!」というかけ声もそうだが、これは、中国語で書き変えるのは面倒なのだろう。原画の通りなのだが、それを裏返しに印刷するから、実にへんてこりんな事になっていた。

出て来る人間の90パーセントが左利きというのもおかしい。絵の中に書き込まれた、英文、数字がひっくり返っているのも気持ちが悪い。

その当時の日本人以外の漫画読者はそのようなへんてこりんな持ちの悪いものを読んでいたのだ。

私たち漫画に関わる人間は、そんな裏返しの漫画を見るたびに、不快感と怒りに大変に気分が悪くなった。

海賊版で有るから、当然著作権は無視視する。要するに、知的な窃盗行為を連中は白昼堂々と繰り返し行っていたのだ。

著作権を無視した上に、作品を裏返しにするという破壊行為も行っていたのだ。

作品は中国語に翻訳されていたし、中国人界で売られていたから、関わったのは中国人だろう。

右開きで読めないのなら、漫画を読むな、私は怒った。

それと同じような不快感を、上から下にずるずると表示する、ネットの漫画表示に感じる。

漫画を読んでいくと、先に進むために、左側のページを開く。

そこの所を我々は大事にしてきた。

漫画の編集用語で「めくり」という。

「めくり」を考えて作れ、と言われたものである。

ページをめくるときにはその先に何が待っているか期待が高まっている。

場合によって、前のページで期待を高めておいて、ページをめくると、ドカーンと興奮を呼ぶ絵を用意する。

そのような、仕組みをマンガ家は考えて画を描いているのだ。

一流のマンガ家で、「めくり」を考えない画家はいないだろう。

読者にしても、ページをめくると何が待っているのか、と言う期待感は大事だろう。

それが、「めくり」の価値なのだ。

それが、上から下にずるずると表示されてしまっては、台無しだ。

「めくり」は漫画の文化の中で大事なものなのだ。

ネットで漫画を表示すれば多くの日本人に呼んでもらえる、それはいいことだ。

しかし、漫画の価値を破壊するような表示はやめてもらいたい。

いま、上下、縦にずらずらと表示している人達は、昔、漫画を裏焼きにして左開きにして売っていた人間達と同じ文化の破壊者だ。

漫画を読むなら、きちんと、私たち漫画制作に関わってきた人間の意図するところのものを守ってくれ。

ずるずる縦表示なんて、あれは、漫画に対する冒涜だ。

私は許せない。

私はヨドバシカメラの「Doly」というソフトで、電子書籍を読んでいる。

ヨドバシカメラの「Doly 」では、漫画も扱っている。

この「Doly」はきちんと、本をめくったときと同じように表示される。

「Doly」で出来ることが、他のインターネット表示で出来ないはずがない。

「ずらずら、縦表示はまっぴらだ。漫画文化を壊すな」と私は言いたい。

雁屋 哲

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