東京五輪がもたらす危険
東京五輪がもたらす危険
最近オリンピックは国威発揚の場になっていて、いい感じがしない。
特に政治に利用されるとあってはなおのことだ。
来年東京で開かれるオリンピックはその意味で最悪だろう。
東京オリンピックが最悪なのは、安倍晋三首相の人気取りと、更に福島第一原発の事故を無かった物にするための道具として使われているからだ。
最近の新聞・テレビを始めマス媒体では、東京オリンピック翼賛一辺倒で、オリンピック人気を盛り上げることに腐心している。
今の日本の国力では、オリンピックなど開いて金を使ったりしているときではないのだが、国中うわずったようになって、オリンピック、オリンピックと騒いでいる。
このお祭り騒ぎの中で、忘れられている、と言うか故意に誰もが言わないようにしているのが、福島第一原発の事故による日本の国土の汚染だ。
皆、福島第一原発の事故はもう無かったことにしたいらしい。放射線も今や何も気にする必要がなくなっていると思いたいらしい。
福島第一原発由来の放射線は日本の各地、少なくとも東京以東では、福島第一原発の事故以前とは放射線の値が遙かに大きくなっているのだが、そういうことは考えてはいけないことになっていて、そんなことを今更あれこれ言う人間は考えの偏った人間とされる。
私は福島の取材をした後で、鼻血が出る経験をしたので、身にしみて分かるのだが、放射線による健康被害の症状は、思わぬ時に思わぬ形で出る。放射能は目に見えず、耳に聞こえず、そこにあることを感じとれないし、熱いとか、冷たいとか、何か匂いがするとか、そのような危険を感知させる物がない。
だから責任ある人間が、オリンピックのある競技場について、ここは放射能が低く安全であると言った場合、選手はそれを信じてその場で競技をしてしまう。
2019年3月12日の日本経済新聞は次のように報じた。
「2020年東京五輪・パラリンピックの開幕まで500日となった12日、大会組織委員会は聖火リレーの出発地点を福島県楢葉町、広野町のサッカー施設「Jヴィレッジ」にすると発表した。福島第1原発事故の対応拠点となり、4月に全面再開の予定。東日本大震災からの復興のシンボルとなる施設から、大会が掲げる「復興五輪」を世界に発信する。」
また、2019年9月3日の東京新聞は、次のように報じた。
「福島県内の有志が、東京五輪・パラリンピック閉幕後に「後夜祭」を開催する計画を進めている。会場は五輪聖火リレーがスタートするJヴィレッジ(楢葉町)。大会ボランティアや地元の子どもらを招いて交流し、「復興五輪」をスローガンに終わらせず、福島の新たな一歩を踏み出そうとの思いを込めた。」
「企画したのはスポーツボランティアの育成に取り組むNPO法人『うつくしまスポーツルーターズ』。事務局長の斎藤道子さん(55)は『復興しているところも、そうでないところもある福島に私たちは生きている。笑顔を世界に発信したい』と語る。」
こう言う記事を読むと、体中の力が抜ける。
一体、「復興五輪」とは何のことだ。
今度のオリンピックは「東京オリンピック」のはずだ。「福島オリンピック」ではないだろう。
復興など全然していない福島を復興しているかのように見せかけるためにオリンピックを利用するのは間違っている。
復興したいという気持は分かりすぎるほどよく分かる。
しかし、年間被曝量20ミリシーベルトの土地のどこが「復興」を訴えることができるのか。
食品の安全基準値が、1Kg当たり100ベクレルの土地のどこが「復興」を訴えることができるのか。
除染をした際に取り除いた汚染物質がつまったフレコンバッグがあちこちを埋め尽くしている土地のどこが「復興」を訴えることができるのか。
このように、今の日本には何もかも曖昧にして、うやむやのうちに不都合なことは無かったことにしようという動きが強い。
しかし、そのようにうやむやにすることで本当に良いのか。
オリンピックは海外から大勢の選手役員たちが日本にやってくる。
その人たちに、福島でもどこでも安心して過ごして下さい、福島産のものでも何でも安心して食べて下さい、と本当に言えるのか。
オリンピックは「おもてなし」などと、言っているが、安全については何もかもうやむやにしたところに、お客を招いて、それのどこがおもてなしだ。
私は、福島第一原発の事故をまるで無かったことのようにしている日本社会の今の風潮にほとほとあきれ果て嘆いていたが、物事を真面目に考える人達も大勢いる。
今度、「緑風出版」社から、「東京五輪がもたらす危険」という本が発売された。
これは、渡辺悦司さんが編集者として、また自分自身もこの本の寄稿者の1人として、日本だけでなく海外の、2020年東京オリンピックの危険性について危機意識を持つ人達の意見をまとめたものである。
これは、今の日本の社会の風潮に流されて、福島第一原発の事故をまるで昔に見た悪い夢程度にしか思わず、オリンピック、オリンピックと浮かれている人達に、もう一度きちんと目の前の真実を考え直すことを促す本だ。
2011年3月に起こった、福島第1原発事故が、収束するどころか、その被害は、特に人的被害は、拡大していっていることを確実な資料で説いている。
こう言う国で、オリンピックを開くことかそもそも間違っているのだ。
2013年9月7日に、IOC総会に乗込んだ安倍晋三首相は東京にオリンピックを招致するために、
- 放射能汚染水は、福島第一原発の港湾の0.3Km2区域の中に「完全に遮断」されている、と言った
- 福島第一原発はすべて、アンダー・コントロール(制御)されている、と言った。
- 福島第一原発の事故は、東京にはいかなる悪影響も及ぼしたことはなく、今後とも及ぼすことはない、と言った。
- 福島第一原発の事故はいかなる問題も引き起こしておらず、汚染は狭い地域に限定され完全に封じこめられている、と言った。
- 健康に対する問題は、今までも、現在も、これからも全くないと言うことをはっきり申しあげておきたいと思います、と言った。
全く途方も無いことを言ったものだが、IOCの委員は、あらかじめ日本オリンピック委員会にあらかじめ「飴でもなめさせられていた」のだろう。カナダのディック・パウンド委員は、安倍晋三首相のこの言葉に対して、「これこそ、聞きたい言葉だった」と賞賛した。この時、対立候補だったイスタンブールに60対36で東京は勝った。この60の票を投じたIOC委員たちはディック・パウンド委員と同じ意見だったことを意味する。
私は、いま、大変下品にも「飴でもなめさせられて頂いた」と書いたが、これは、私の憶測ではない。
五輪招致委の理事長だった日本オリンピック委員会竹田会長をめぐっては、東京での五輪開催の実現を確約するために200万ユーロ(約2億5000万円)を支払ったとして仏検察当局が捜査している。これで、充分だろう。
私はこのIOCの態度に驚いて、私のこのブログに、2013年10月3日に、「Open letter to IOC」という記事を書いた。
この安倍晋三首相の演説がオリンピックを日本で開くことに力があったと知って、その言葉が何から何まで嘘であることを大勢の人に知ってもらいたいと思ったのだ。
日本人だけでなく、海外の人にも読んで貰いたいと思って英語で書いた。
そのブログを日本語に訳したものが、この本に収録されている。
今になって思うのだが、その記事は、日本語版も作っておくべきだった。
私の英語は中学生程度のものなので、極めて平易だからわざわざ日本語にすることもないと思ったのだが、やはり、英語だと面倒くさいのか、余り大勢の読者に読んでもらえなかった。
今回、この本に収録されることになって、私は幸せだ。
自分の書いたものが少しでも多くの人に読んで貰えることは有り難いことだ。
そのような、私自身の思惑とは別に、この本に収録された内容は素晴らしい。
皆さんも、福島の現実をもう一度理解するために、是非、読んで下さるようお願いする。