雁屋哲の今日もまた

2012-06-11

郡山で見つけたTシャツ

郡山のGardenと言う若者向けのファッションの店の前を通りかかったとき、安井敏雄カメラマンが、店頭に飾ってあったTシャツに眼を止めて、「こんなTシャツがありますよ」と私に示した。

(以下の写真は、クリックすると大きくなります)

私は、一目そのTシャツに描かれた絵を見て、

「うわ、いやだ、残酷で悪趣味だ」

と言った。私は、アメリカで良く売られている残虐な暴力場面を描いた物と思ったのだ。

すると、安井カメラマンが、

「胸のマークを見て下さいよ。TEPCO(東京電力)ですよ」

と言う。

驚いてよく見ると、襲われている男の胸についているのは確かに、TEPCO(東京電力)のマークだ。

さらに、襲われている男の横に落ちている赤い表紙のファイルには、原子力関係を思わせる放射能マークと共に「Confidential Papers(機密書類)」と書かれている。

襲われているのは、東京電力の上級社員(役員、社長)なのだ。

それで、書かれている文句、「Pay Back」の意味分かった。

Pay backとは、「仕返し」という意味がある。最近見たアメリカのテレビドラマで、主人公が「Pay back」と言ったところを字幕では「復讐」と出た。

そして、その下に小さく書かれた文句、

「TIME FOR SOME ACTION…..CAN’T STOP US!(行動するときだ・・・・我々を止められないぞ!)」

の意味も分かった。

同じ絵柄のキャップもあった。

私は、驚くと同時に、興奮してすぐにTシャツとキャップを買った。

私が何故、興奮したか。

それは、福島を取材している間に非常にもどかしい思いが募っていたからだ。

福島の人達は、この原発事故が、まるで天災でもあるかのように扱って、これだけのすさまじい災害を引き起こした東京電力に対する非難、抗議、を口にする人が極めて少なく、「仕方がない」、と諦めきった風である。

東京電力の補償金がまるで嘘のように少ししかでないことを嘆きこそすれ、だからといってそれに対する強い非難をすることも、ましてや何らかの行動を取る人が見あたらない。

それが、私にはもどかしかった。

福島の人達の心の優しさなのか、強大な権力に立ち向かう事を恐れ、諦めているのか、私は福島の人達の態度を歯がゆく思っていた。

 

そこに、このTシャツだ。

東京電力に対する強烈な抗議だ。

「福島の人達も、こんな思いを抱いているのだ」と思って、それまでの憂さが晴れたように気がしたのだ。

ところが、お店の人に聞くと、このTシャツを作ったのは福島に対する支援活動を続けてきた東京の会社だと言う。

福島の人が作ったのではないことに私はがっかりしたが、このようなTシャツを店頭に飾り、それも売れているところを見ると、郡山にはこのTシャツの意味するところに共感を抱く人達がいる訳で、それだけでも胸が空いた。

 

ところが、このTシャツを家に持って帰って、連れ合い、弟、甥に見せたところ、評判が悪い。

連れ合いは、とにかく暴力が大嫌いな人間である。

この釘を打ち付けたバットを振りかぶっている人間の姿を見ただけで、反発する。

連れ合いは言う。

「仮面をして、人を殴りつけるなんて、卑怯だし、残虐すぎる」

弟は言う。

「これじゃ、襲われている東京電力の人間が、可哀想な感じで、逆効果だ」

甥は言う。

「結局、暴力で解決しようだなんて、意味がない。暴力では何事も解決出来ない」

 

確かに、連れ合いたちの言うとおりだ。

あまりに暴力的な図柄で、私の第一印象もそれに対する不快感故の物だった。

しかし、私は、東京電力に対して、強烈な抗議としての、このTシャツは意味があると思う。

暴力は認められないが、あまりに無法な東京電力と政府に対して、福島の人達に、強い抗議の言動を起こしてもらいたいのだ。

私達周囲の人間が、幾ら抗議をしても、福島の人達が自分たちで抗議行動を強烈に展開しない限り、東京電力も政府も、何一つ福島の人達の復興の役に立つことはしないだろう。

 

ある人が私に言ったことだが、放射線被曝の安全基準値を年間1ミリ・シーベルトだったのを、20ミリ・シーベルトに引き上げた政府の真意は、20ミリ・シーベルトなら安全であると言って安全地域を広げれば、その地域の人に対する補償をしないで済むからと言うことだそうだ。

確かに、空間線量が年間20ミリ・シーベルトの地域を安全とすれば、補償額が大幅に減る。

 

補償云々は別にしても、安全基準値を年間20ミリ・シーベルトにするとは、狂気の沙汰である。

そのような、人の命を無視したことを政府・東電が行っているのに、どうして福島の人達はもっと強い抗議を行って、その年間20ミリ・シーベルトと言う基準値を撤回させるようにしないのか。

今の段階で、年間20ミリ・シーベルトの空間線量のある地域は福島だけである。

この、20ミリ・シーベルトに引き上げた、その対象は福島の人達なのだ。

政府・東電は福島の人達の健康についてまるで無関心だ。

人間としての良心のかけらもない連中だ。

福島の人達は、この政府・東電の狂気の沙汰に対して強く抗議して、年間20ミリ・シーベルトと言う基準値を撤回させてもらいたい、と私は願う。

 

このTシャツは私の家族には評判が悪いが、私は、このTシャツの抗議の意図は正しいと思う。

今度は東京の会社ではなく、福島の人達の手で、直接的な暴力をふるうのではなく、もっと効果的に強烈な抗議の意志を表現する絵柄のTシャツを作ってもらいたいものだ。

雁屋 哲

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