雁屋哲の今日もまた

2010-10-08

「日本全県味巡り」島根県篇

 10月1日から、6日まで、「美味しんぼ」の「日本全県味巡り」ために「島根県の郷土料理」を探索する旅に出た。
 6日間取材して回るのは大変に疲れる。
 昔は何ともなかったのだが、、ああ、私も、既に老齢年金を貰える歳です。
(保険の掛け率が低かったので、実際には貰えないようだが。)
 昔は、歳を取ると言うことは年齢の数だけ増える物だと思っていましたが、ああ、そうじゃないんですね、実際は。
 年齢の数が増えるだけでなく、それに反比例するかのように体力が衰えるのです。
 20年前までなら、どんぶり二杯なんか霞を食うような感じだったけれど、ああ、今は全ての食べ物が重い。
 ざばざば、ざくざく、かっ込んで食べていた昔が懐かしい。
 と言うくらい、衰えているのですよ。

 このような老体を引きずって取材に行き、あちこちで、色々な食べ物をご馳走になって、旨いの何のって意見を言わなければならない。
 これは辛い。

 一応、原作者として、前回「日本全県味巡り」で回った和歌山県との違いを出したいと思う。
 そのために食材や調理を選んでいるのだが、これが、大変に難しい。
 私の「日本全県味巡り」の取材は、私の甥が全面的に手伝ってくれていて、私が取材に行く前に県内全てを回って、私が取材するにふさわしい所を探し回るのだ。この先行取材が、実に過酷を極める。
 どこに美味しい物があるのか、見付けて歩くのだから、しまいには考えあぐねて、道を歩く人に、この辺に何か美味しい物はありませんか、とまで尋ね歩いたという。
 その甥の見付けたところを、私はのんびりと取材に行って、旨いのまずいの言う訳だから、甥にとってはたまらなくいやな叔父だ。
 甥だから、叔父さんのために、何とかしてやろうという愛情と熱意で「日本全県味巡り」は成立している。
 甥がいなかったら、これまでの「日本全県味巡り」も全て成り立たなかっただろう。

 島根県の特徴的なことは、島根県で生まれた人は、例えば数年大阪とか東京に行っても、必ず島根県に帰ってくることだ。
 ある人は、四年間の大学生活を大阪で過ごしたけれど、その四年間は私にとって仮の人生だと思い続けていて、卒業するやいなや島根県に戻り、そのまま島根県で生活をしているという。
 とにかく、暮らしやすいところらしい。
 人々も、おっとりしていて、自分から自己主張をしてあれこれしゃべる人はいない。
 極めて、控えめな人ばかりである。
 私は、日本列島様々なところを歩いたが、島根県は、とにかく沸き立つ騒々しさとは無縁の国だ。
 上品で、しずかで、攻撃性はゼロで、ゆったりとしている。

 感動したのが吉賀町(よしかちょう)全体が取り組んでいる有機農業だ。
 今まで有機農家には何人もあって来たが、町を挙げて有機農業に切り組むというのは初めてだ。
 町の農家200戸が一斉に取り組んでいるという。
 これは凄いことだ。
 個人個人で有機農業に取り組むのと、町全体で取り組むのとでは、効果も仕事のしやすさも違う。
 私は、未来の農業のあり方を吉賀町に見た。

 これは、近年にない素晴らしい知らせだった。
 私は、吉賀町の取組みこそ日本全農家が取り組むべき事だと思う。そうすることで、日本の農業の価値が認められ、消費者も少しばかり高くてもそのような真正な農産物を買うだろう。
 みんな、外国の農産物が安いと言って喜んでいるが、たえば米について有機の米と、農薬たっぷりの米との値段の差は、ご飯お茶碗一杯で三十円にもならない。
 他のおかずと比べたら比較にならない安さなのだ。しかも、安全で美味しい。
 安物売りの煽りに引っかかって、安い物を買うと結局、安物買いの銭失い、と言うことになる。
 パチンコや、時間つぶしでしかないゲームなどに、多額の金を費やして栄養失調で、胸も薄く、力もない若者たちが増殖しているのを見ると、それは間違っている、と思う。
 私の若い頃は、とにかく喧嘩に勝てない奴は駄目。と言う時代だったからかも知れないが、今の若者たちのあのへろへろの薄べったい、折り紙人形のような体を見ると、こんな男たちは世界中どこに行っても、その土地の女にもてっこない。
 相手にされないだろう。
 それじゃ、つまらないなあ。
 と、老人はうそぶく。

 で、島根県だが、来年4月に追加取材をする。
 漫画に書くのは来年の夏過ぎだろう。
 それくらい、念入りに取材するのが「美味しんぼ」の方針なのだ。

 島根県は日本全体で興味を持たれない県の中ではかなりのものであるらしい。
 今回の「日本全県味巡り・島根県篇」が読者諸姉諸兄の島根県への興味を掻き立てる物であることを願っているのだ。

雁屋 哲

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