雁屋哲の今日もまた

2009-10-27

「美味しんぼ」環境問題篇で難渋

 退院してから、ステロイドは飲み薬に変わったのだが、昨日でその飲み薬も終了。これで、今回の耳の治療は終わったことになる。
 耳の状態はまだはかばかしくない。一旦傷ついた聴覚の神経細胞は早く治療しないと元に戻らないそうで、今回の治療でどれだけ元に戻るか、もう少し時間をかけないと分からない。
 次女は、私と同じ外傷性の聴覚障害で苦しんだ人のブログを発見して、その中に時間がかかるが治るからあきらめないで、と書いてあったからお父さんもあきらめないで、と言ってくれた。
 その話を東大病院の医師に言ったら「それは、単に慣れただけですね。一旦損傷した聴覚の神経細胞は、元に戻りません。脳の細胞と同じです。」と言われてしまった。
 なるほどね。神経細胞は死んだからと言って新たに別の細胞が作り出されるわけではないのだ。一度死んでしまえばそれまでと言うことだ。
 しかし、この音がうるさく聞こえる症状が治まってくれれば何とかなる。
 気合いと根性でこの状態から回復してみせるぞ。
 と力んだら、どっと落ち込んでしまった。

 23日に、阿佐ヶ谷のLOFTで、環境問題研究家の田中優さんとトークショーを行った。
 小学校の同級生7人が、私が何かへまをしでかすのが心配だ、と言って参観に来てくれた。「美味しんぼ」の中に何度も登場する「六年二組」の仲間である。
 会場には、「美味しんぼ」の読者の方が大勢来てくださった。その方々に「美味しんぼに登場する『六年二組』の面々です」と、同級生たちを紹介してしまった。

 翌日の、「六年二組」の掲示板に、当日来てくれた中の一人「い」君が「ライブハウスは我々には場違いな感じがする上に、紹介されてしまったので、ますます落ち着かなかった」と書いていた。
 何かがあるとこうして集ってくれるから、小学校の同級生は有り難い。

 田中優さんには、今回の「美味しんぼ」の環境問題篇で大変お世話になった。環境問題については実に詳しい方で、私の大學の同級生の原子力工学(主に核融合)専門の学者が、田中さんのことを「本当に良く勉強されている」と感心していた。
 その田中さんが「環境問題でトークショーをするから、一緒に出てくれ」と言うので、「美味しんぼ」でお世話になったことだし、ちょうどスピリッツで環境問題篇を連載しているので、ライブハウスで環境問題を話すのも意味があると思って参加した。
 集ってくださった方々も、そもそも、こんな話と知って来て下さった訳だから、真剣に聞いて下さって、最後の質問の時間にも色々と熱心な質問が投げかけられて、意味のある会話を交わすことが出来た。
 有り難かったのは、本、雑誌、DVD、CD、お酒(それも、焼酎と日本酒、合わせて二本も)など頂いたことだ。
 このトークショーの会場に私に下さろうと思って、そのような貴重な物を持っていらして頂いたかと思うと、感謝・感激で胸が熱くなった。
 また、当日、私と田中さんのトークの合間に歌を歌った、NUUさんの歌は実にすがすがしく明るく、日本のシンガーソングライターにあり勝ちな、感傷的だったりお説教的臭かったりするところが無く、曲も歌詞もすっきりとしていて楽しかった。
 最後に、その、NUUさんも、私達のトークに参加してくれて、大いに盛上った。
 トークショーなどと言うのは初めての体験だが、やはり、いつも書斎に閉じこもって本ばかり読んでいないで、このような場に出ることも必要なことだと痛感した。
 楽しかったし、大いに勉強になった。
 当日、会場に来て下さった「美味しんぼ」の読者の皆さんに心からお礼を申し上げます。

 帰りは12時近くなっていたが、おかげで道は空いていて、阿佐ヶ谷から、秋谷の自宅まで(お、両方とも谷がつくね)1時間3分で着いた。(無謀・乱暴運転をした訳ではありません。)
 スバルはいいなあ。私はドイツの車も含めて、何台も車を乗り継いだが、運転していてこんなに気持ちの良い車は初めてだ。70歳になったらフェラーリに乗ろうと思っているのだが、車に詳しい人に色々話を聞いて、それならスバルのWRX STI spec Cにしようかなと心が動いている。

 トークショーの三日前から取り組んでいる「美味しんぼ」の環境問題の第9話が難渋している。
 環境問題も、「公共事業が引き起こす環境問題」と「科学の力などを持った、人間の所業が引き起こす環境問題」と二つに分けて考えることにして、今回は単行本一冊分になる9話で、「環境問題第1部」とし「公共事業が引き起こす環境問題」に的を絞った。
 その第1部の最終回を今書いているところだ。
 これが、青森県六ヶ所村の「核燃料再処理工場」を取り上げているので、途方に暮れるほど難しい。
 文章で、しかもある程度の枚数を使って書くことが許されるなら、こんなに苦労はしない。
 しかし、原子力の問題を、漫画で書くとなるとこれは死にたくなるほど難しい。
 大学の同級生に話を聞いたり、原子炉の構造、原子力工学の本を読んだりして原子力発電に関しては基本的な理解を深めた。
 だが、漫画に原子物理学の話など書けないのである。
 原子力発電について語るためには原子炉について語る必要があり、
 そのためには核分裂について語る必要があり、そのためには原子核の構造を語る必要があり、と言う具合に話がどんどん深みにはまりこんで行くと、大半の読者はうんざりするだろう。
 それでは漫画にならない。第一、スピリッツ誌で「美味しんぼ」に与えられる22ページに収まらなくなる。
 そこで、科学的に間違っていない範囲で、原子力発電と、核燃料の再処理についての概念だけを語ることにしなければならない。数式など飛んでもない。物理用語も最低限度にとどめる。
 これが大変な作業だ。
 あれも書きたい、これも書きたいと思うのに、読者がいやになって途中で投げ出さないように物理学的なところは出来るだけはしょり、かと言って、観念論や感情論にならないように科学的な筋道を通さなければならない。
 その上、青森県全体に対する風評被害を起こさないように配慮することも大事である。
 今の私は、漫画の原作を書いていると言うより、格闘していると言う気持ちの方が強い。
 もう、締切りを過ぎてしまった。
 格闘の合間に、この日記を書いている。

 さあ、仕事に戻ろう。今夜も格闘だ。

雁屋 哲

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頭痛、肩コリ、心のコリに美味しんぼ
シドニー子育て記 シュタイナー教育との出会い
美味しんぼ食談
美味しんぼ全巻
美味しんぼア・ラ・カルト
My First BIG 美味しんぼ予告
My First BIG 美味しんぼ 特別編予告
THE 美味しん本 山岡士郎 究極の反骨LIFE編
THE 美味しん本 海原雄山 至高の極意編
美味しんぼ塾
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