雁屋哲の今日もまた

2008-04-09

餃子とローピン

〈「美味しんぼ塾」に「ワイン その2」を掲載しました〉

 農薬入りの中国餃子の騒ぎは、中国では、あれは日本人の陰謀と言うことになったそうである。
 今さら、何を言っても中国人は聞く耳を持たないという。
 我々日本人は唖然とするばかりだが、中国人は本気だから、どうしようもない。
 中国では、江沢民が主席になって以来、反日感情を煽り立ててきた。私の見るところでは、そもそも江沢民が日本嫌いなところへ持って来て、天安門事件以降の中国をまとめるのに、反日感情を煽るのは非常に具合が良かったからではないか。
 指導者が自国民を操るのに、外敵を措定してその外敵にたいする憎しみを煽り立てると、国民は外敵憎しでまとまって、指導者たちに対する批判がそれるから、指導者にとっては非常に都合がよい。ナショナリズムを煽ることが独裁的な政治体制にとって良い武器になることは、歴史の本を読めばすぐに分かる。
 農薬入り餃子は日本人の陰謀と、中国人が思いこんでいるのも、中国政府の情報操作による物だろう。
 中国では、現在のチベット問題を取り扱った外国のニュースは、そのチベット問題の所に来ると画面が写らなくなり、チベット問題が終わるとまた見られるようになると言う。
 中国人は外国の情報に制限無く接する自由を奪われている。
 オリンピックを控えて、中国では、政府を批判する自由主義的な運動家を次々に逮捕して行っている。中国に言論の自由はない。そんな国で、政府が、中国の食問題を国際的に拡大させないように、餃子問題も日本の責任にすると決めたら、中国人はそれに乗るだろう。「毒入り餃子は日本の陰謀」と煽られたら、ナショナリズムと反日感情が燃え上がって、中国人全体がそう思いこむのも無理はない。
 しかし、食の安全の問題は自分たちの問題でもあるのに、中国人はそのあたりをどう考えているのだろう。
 私は以前は北京に行くと、ホテルで朝食を取ることはせず、わざわざタクシーに乗って庶民的な街の方へ出かけ、そこで屋台の饅頭や、餃子などを食べるのを楽しみにしていたが、これだけ、中国の食の安全性を疑う話が続くと、もう、屋台では食べられない、いや、それどころか、中国に行って、うっかりした店に入れない、と思うと我が愛する中国に行こうと言う気持ちが萎えてくる。
 私は北京生まれなので、北京には大変な愛着を抱いていて、中国人が大好きである。初めて香港に行ったとき、香港と北京はまるで違うところなのに、周りが全部中国人という環境が、私にひどく懐かしい思いを抱かせ、昂奮して町中を歩き回った。
 オーストラリアで、シドニーに住もうと決めたのは、シドニーの中華街が充実していたからだ。(シドニーの中華街には仲の良いレストランの支配人などが何人もいて、私に大変良くしてくれる。私が中国人を好きなことがすぐに通じるらしい)中華街にいると実に心が和み、浮き浮きとする。
 最後に北京に行ったのは四年前だが、その時は一緒に行った姉の努力で、なんと、昔私達家族が住んでいた家を発見して、深い感慨にふけった物である。
 それほどの、中国好きの私が、今の中国に行くのはちょっと辛く感じる。
 中国が経済的に発展して豊かな国になるのはめでたいことだが、日本も、経済発展の途上で公害問題に苦しんだ。今の中国は、ちょうど高度成長期の日本に似た過程にあるのではないだろうか。
 で、あれば、前車の轍、後車の戒め、と言うことわざもある。
 日本は公害問題を克服するのにひどく苦労した。そこの所を、中国人も研究して、環境の破壊を押しとどめて、安全な食品を作るように努力して貰いたいものだ。今のままでは、中国は自分たちの健康問題で大きな苦しみを抱え込むことになる。
 ナショナリズムに煽られて、「毒入り餃子は日本陰謀」などと、ふんぞり返っていると、その毒が中国人本人に返ってくる。
 オーストラリアの市場では、全ての野菜に生産地が表示されている。
 オーストラリア人は、オーストラリア産の野菜を選んで買う。
 Produce of China(中国産)とあると、みんな手を引く。
 中国の食品に信頼を置かないのは日本だけではないのだ。中国人よ、目を覚ましてくれ。
 そんな中国好きな私の家なので、中国に十年近く住んだ父親がおぼえて来た餃子と、ローピンが、我が家の大事なご馳走である。
 餃子は勿論皮から作らなければ美味しくない。買ってきた皮で作った餃子は我が家では、本物と認められないのである。
 我が家では、水餃子が主である。中身は、豚の挽肉、白菜、椎茸、ネギ、ニンニク、赤味噌少々、ごま油。

水餃子

 自分で皮を作るから、ローピンも作ることが出来る。
 餃子と同じ小麦粉を練った物を、出来るだけ薄くのばして、ごま油を塗り、刻んだネギを一様にばらまき、それをくるくると丸めて棒状にして、その棒状になった物を丸くまとめて、平らにして、ごま油で焼く。

ローピン

 生地が、パイのように何層にもなって、そこにごま油と蒸し焼きになったネギの香りと甘味が加わって、我が家に来たお客に食べさせると、みんな昂奮する。
 実に美味しい。
 中国人よ、私はこんなに中国を愛しているのだから、安全な食べ物を作ってね。って、何だか意味のないことを言っているな。

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雁屋 哲

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