雁屋哲の今日もまた

2009-01-28

IWC(国際捕鯨委員会)でのオーストラリアの態度の変化

 2009年1月27日の「Sydney Morning Herald」の第1面に、でかでかと、「捕鯨についての秘密取引が明らかになった」という記事が出た。
 オーストラリアが、日本に捕鯨の数を増やすのを許す話し合いに入った、と言うのである。
 記事によると、IWC秘密部会で、オーストラリア、日本、アメリカ、スウェーデン、ブラジル、ニュー・ジー・ランドで、取り決められつつあると言う。
 その内容は、シドニー・モーニング・ヘラルドによれば、

 第一案

  • 南半球の海洋での、ザトウクジラとナガスクジラの禁漁
  • 五年間の日本の科学捕鯨の撤退
  • 西北太平洋における、イワシ鯨、Bryde’s(これがどうしても、辞書を引いても分からない言葉なのだ。鯨の種類らしい。お分かりになる方のご教示をお願いします)、マッコウクジラの漁獲量の増大

 第二案

  • 南極海における、持続可能な量のミンク鯨とナガスクジラの漁
  • 西北太平洋における、ミンク鯨、イワシ鯨、Byder’s、マッコウクジラの漁獲量の増大

 と言う案が、起草されつつあるという。
 この案を起草している国の中に、オーストラリアが入っているというのでさあ大変だ。
 オーストラリアの環境大臣、ロックスターのピーター・ギャレットも総理大臣のラッドも許さないと騒いでる。
 当然ことながら、「シー・シェパード」は「鯨を捕ることは一匹も許さない」と喚いている。

 こうなったのも、IWCの会長、アメリカ人の、ウィリアム・ホーガンが捕鯨賛成国・反対国の間を何とか取り結ぼうとした結果だという。
 これは、ちょっと私には俄には信じがたい。
 そもそも、IWCで日本の捕鯨を非難し、日本人は捕鯨をする野蛮国だと騒ぎ回ったのがアメリカではないか。
 そのアメリカが、どうして、我を日本人にはとうてい充分ではないとは言え、すこしでも妥協的な方向に踏み出したのか。
 ついでに、IWCの2007年10月現在の加盟国を記すと、下記のとおりである。
「アンティグア・バーブーダ、アルゼンチン、豪、オーストリア、ベルギー、ベリーズ、ベナン、ブラジル、カンボジア、カメルーン、チリ、中国、コスタリカ、コートジボワール、クロアチア、キプロス、チェコ、デンマーク、ドミニカ国、エクアドル、フィンランド、フランス、ガボン、ガンビア、ドイツ、ギリシャ、グレナダ、グアテマラ、ギニア、ギニアビサウ、ハンガリー、アイスランド、インド、アイルランド、イスラエル、イタリア、日本、ケニア、キリバス、韓国、ラオス、ルクセンブルグ、マリ、マーシャル、モーリタニア、メキシコ、モナコ、モンゴル、モロッコ、ナウル、オランダ、ニュージーランド、ニカラグア、ノルウェー、オマーン、パラオ、パナマ、ペルー、ポルトガル、ロシア、セントクリストファー・ネービス、セントルシア、セントビンセント・グレナディーン、サンマリノ、セネガル、スロバキア、スロベニア、ソロモン、南アフリカ、スペイン、スリナム、スウェーデン、スイス、トーゴ、ツバル、英国、ウルグアイ、米国」

 全部で78ヶ国あるが、この中で実際に捕鯨に関わっている国はいったいいくつあると思いますか。
 モンゴルが捕鯨をしますか。朝青龍に聞いてみたい。
 チェコやスロバキアで捕鯨が出来ますか。マリで捕鯨が出来ますか。
 そんなことを言ったら、アンティグア・バーブーダ、ガボン、ガンビア、セントクリストファー、ベリーズ、ベナン、ネービス、スリナム、セントルシア、セントビンセント、ソロモン、トーゴ、なんてよほどの地理通でなければ知らない国でしょう。
 全て捕鯨とは関係のない国です。
 それでも、アメリカの圧力でIWCに入り、なんと、評決の際には日本と同じ効力のある一票を獲得するんですよ。
 ひどい国になると、その国のIWC委員がアメリカ人なんてこともあった。なんで、そんな国の一票が、我々日本一票と同じなんだ。そんな下らない票数のせいで日本はこれまでIWCでアメリカとオーストラリアの言うなりになってきたんだ。何で捕鯨と関係ないモンゴルや、チェコやスロバキアがIWCに入って来るんだ。死ぬまで鯨なんか見ることもない国民なのに。

 それに反して、カナダ、台湾、ベトナム、マレーシアなどの漁業大国が加入していない。

 もう、IWCなんて、およそ民主主義とは関係のないアメリカ・オーストラリア主導の、捕鯨カルトの集団なんです。私は、ずいぶん前から、IWCから脱退しろと主張している。

 IWCから脱退しても、日本は失う物は何も無い。日本がIWCに加入しているのは、アメリカべったりの従属的外交政策のせいだ。日本政府が、自主的に行動する力をアメリカに奪われているからだ。日本はアメリカの奴隷か。

 しかし、現在の、日本のIWC代表はきちんとしたことを言っているようだ。それで、そのIWCも流石に最近の日本の断固たる態度に、何とかしなければならないと考えたらしい。
 それが、今度の妥協案だ。
 しかし、こんな物で、日本は満足してはいけない。

 連中に勘違いしも貰いたくないのは、私達が言っているのは、「鯨を沢山捕りたい」というのではないことだ。「鯨が羊や牛や鶏や普通の魚とどう違うのか」と言うことだ。哲学的な問題を問うているのだ。
 あの連中の卑しさと一緒にしないでくれ。

 きちんと、生息数を減らさないように科学的に計算して捕獲すれば何の問題もないではないかと言っているのだ。
 私達は、むかし、散々鯨を殺しまくったアメリカ人、オーストラリア人、ヨーロッパ人が、突然最近になって持ち始めた、鯨信仰がおかしいのではないかと言っているのだ。
 人間が、生きとし生けるものを食べなければ一日も生きて行けない罪深い動物であることを忘れて、鯨を殺すことだけを罪だとののしるその無知きわまりない、我々日本人に対する偏見を改めろと言っているのである。
 勘違いしないでくれよ。我々は、鯨を特に食べたいわけではない。(いや、鯨は美味しいから食べたいけれど)
 私達が主張しているのは、アメリカ人、オーストラリア人の、めちゃくちゃな鯨カルトはやめてくれと言っているのだ。
 その、最低なカルトゆえに、日本人にあらぬ非難を浴びせるなと言っているのだ。
 自分たちが今までにどれだけ鯨を殺してきたか、その反省もなく、我々日本人を動物迫害の自然破壊の卑しい人種であると非難することだけは許さないと言っているのだ。
 アメリカ人よ、オーストラリア人よ、自分たちがどれだけ非人道的なことをしてきたか、少しは反省したらどうだ。
 我々、日本人は、鯨を根絶やしにしようなどとは思っていない。
 普通の漁業と同じに、鯨漁をしたいと言っているだけなのだ。
 こう言う理性的な話が通じない人間は、鯨以下の脳の持ち主と認めざるを得ない。

 今回の妥協案が、更に進んで、鯨漁の完全な解禁になることを私は求める。
 何度も繰り返すが、鯨を闇雲にとって、殺し尽くすことなど愚の骨頂である。ただ、鯨の数を減らすことのない程度の漁獲は許されるべきだと言っているのだ。
 鯨に、余計なカルトを持込むな。

雁屋 哲

最近の記事

過去の記事一覧 →

著書紹介

頭痛、肩コリ、心のコリに美味しんぼ
シドニー子育て記 シュタイナー教育との出会い
美味しんぼ食談
美味しんぼ全巻
美味しんぼア・ラ・カルト
My First BIG 美味しんぼ予告
My First BIG 美味しんぼ 特別編予告
THE 美味しん本 山岡士郎 究極の反骨LIFE編
THE 美味しん本 海原雄山 至高の極意編
美味しんぼ塾
美味しんぼ塾2
美味しんぼの料理本
続・美味しんぼの料理本
豪華愛蔵版 美味しんぼ
マンガ 日本人と天皇(いそっぷ社)
マンガ 日本人と天皇(講談社)
日本人の誇り(飛鳥新社)
Copyright © 2024 Tetsu Kariya. All Rights Reserved.
掲載の記事・写真・イラスト等のすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。